恋すてふ
〜バレンタイン〜





それは当たり前だが、他の日と同様に毎年来るもので。今年も甘い日がやってきた。

昼休憩に廊下に呼び出されて手渡されるもの。

とりあえず、と言うところから、受け取りづらいものまでその種類は幅広い。


「もてるわねぇ〜」

丁度今も四角い箱を渡されたところだった。

それをくれた彼女はもう駆けて廊下の角を曲がっていった。

疲れたな、と溜息を吐いたところでそんな風に背後から揶揄される。

「お久しぶりですね」

振り返ってとりあえずニコリと微笑んだ。

「本当に、久しぶりよね...」

彼女も笑顔を返す。

「で、先輩は何で学校に来ているんですか?自由登校でしょ?」

「は!、神君知らないの?“自由登校”なのよ?来るも来ないも自由なのよ。日本語もわかんないの??この先心配だわ、色々と」

鼻で笑ってがそう言った。

「心配してもらわなくても大丈夫ですよ。先にボケるのは先輩ですから。年功序列から言って」

神もそう返した。

相変わらず周囲を寒くさせる笑顔での会話である。


「神さーん!」

ぴょんぴょん跳ねながら信長がやって来た。

そのすぐ後ろにはも居る。

ちゃん!」

神は軽く手を上げた。

「神先輩、お姉ちゃん」

意外な2人には目を丸くした。

「学校に来てたんだ。だからお姉ちゃん今日は普通に起きたんだ?」

「そ。学年主任が昼休憩時間に来いって言うんだって。何考えてるんだか...」

ふぅ、と溜息を吐きながらそうぼやいた。

「呼び出しですか?卒業間際に何かしでかしたんですか??」

神が問う。

「何で品行方正なあたしが?」

「...“品行方正”の意味、知ってます?」

神の言葉には「言うじゃない?」と笑う。

「えーと、ちわ...!」

今更だが信長がに頭を下げた。「ちわ」とも返す。

「神さん、聞いてくださいよ!が、部員全員にチョコを作ってきたって言うんですよ。楽しみですね!!」

信長の言葉に神はを見る。

は照れくさそうに笑っていた。

「3年の先輩たち、今日いらっしゃいますかね?」

「どうだろう?こういうタイミングを見て来る人って1人しかいないからね」

武藤の事である。

「じゃあ、やっぱり今日は無理か...」

がそう呟くと「あまるなら俺にくれ」と信長が言い、は困ったように笑っていた。

そういえば、去年の今の時期はマネージャーは居なかった。

だから、自分の学年のチームメイトは1年よりも嬉しいかもしれないな、と何となくそう思った。

「あ、清田君。時間、」と腕時計を見てが促す。

「あれ?でもまだ早いでしょう?」

神が問うと

「今日、当番なんです」と

「めんどーですよね、生物」と信長が投げやりに言う。

「ほら、清田君。それじゃあ、神先輩。放課後。お姉ちゃんも」とが急かして2人は生物室へと向かって走っていった。

「俺のほうが先に名前呼ばれましたね」

神が少し勝ち誇ったように言うがそれを鼻で笑った

「身内が後にくるのは当然でしょ?やあねー、常識のない男は」

と返す。


疲れるな、と溜息を吐いて視線を逸らせた。

「神君」と呼ばれて「はい」と顔を向けた神の口に何かが刺さった。

「バレンタインプレゼント」

そう言ってが笑う。

神の口にはポッキーが突っ込まれていた。

「知ってる?ホワイトデーは3倍以上で返すのが礼儀らしいわよ」

カラカラと笑いながらは職員室に向かっていった。

カリカリとそれを噛みながら口の中に仕舞っていく。

「3倍返し、ね...」

神は呟いて教室の中へと戻っていった。




放課後、部活の休憩時間には部員たちにチョコを配った。監督にも渡すと何だか照れた様子だった。

そして、3年は受験を控えている宮益を除いて全員来ていた。

毎年の事だが、全国からチョコが送られてくる。それを回収しに来たと言うことらしい。

3年にもチョコと配ると口々に礼を言われた。

「そういえば。今日、が来たんじゃないか?」

牧の言葉には驚き、神は頷く。

「何で牧さんが知ってるんですか?」

「まさか、付き合ってる..とか?」

信長の言葉には素直に驚いたが「それはないよ」と何故か神が答えた。

まあ、実際。彼女と“付き合う”なんてことになったら精神的に潰される。それは軽く予想できる範囲だ。

「卒業式の答辞。なんだ」

「というか、牧とで先生たちは悩んでたらしいけどな。が...」

語尾を濁して高砂が言う。

ああ、何か弱みでも見つけて脅したのか...

神はそんな事を思って納得していた。

と、言っても。脅さずとも牧はきっとに譲っただろう。せいぜい『あたしが!』と主張して騒いだくらいのものだったのかもしれない。

来たついでだから、と3年は後輩をしごいて楽しんでいた。

どうやら良いストレスの発散になったようだ。




部活が済んで、さらにその後の神の日課も済んで家に帰る。

を家の前まで送るといつものように彼女は丁寧に頭を下げて礼を言う。

別に良いのに、と思いながら神もそれを受けて丁寧に返す。

「じゃあね」と神が言ってペダルに足を掛けた。

「あ、待ってください」と言いながらは鞄の中から今日、特によく見た四角い箱を取り出した。

「いっぱいもらってるかもしれませんが」と言いながら俯いて渡す。

確かにたくさん貰ったが、それは全て後輩、主に信長に譲った。正直、貰っても困るものだったから。

のくれたそれは、神にとってとても嬉しいものであり、同時に意外なものだった。

何だろう...?

付き合っているからそういうのがあって良いと思ったけど、のこの行動には驚いた。

「ありがとう。嬉しいよ」

そういう神にははにかんだ笑顔を向ける。

もっと明るいところで見たかったな、と思いながらもにキスをして「じゃあね」ともう一度言ってペダルを踏んだ。




翌日、またしても神は意外な人を学校内で見かけた。

「答辞、読まれるそうですね」

昨日のお返し、とばかりに神は背後から声を掛ける。

「ああ、神君。そうよ、あたしの最後の言葉、きちんと心に刻みなさいね」

そんな事を言うに神は肩を竦めた。

「ああ、そうだ。昨日、からトクベツチョコ貰った?」

神の反応に気分を害すことなく、は話題を変えた。

「ええ、おいしかったです」

家に帰ってすぐに食べた。勿体無いとも思ったが、今日、感想が言いたかったし、食べていないのにお礼ってのも変な気がしたのだ。

「あれ。あたしの味覚基準だから。つまり、あたしの方が神君よりも先にあれを口にしたのよ」

「ほほほ、」と何だか勝ち誇ったように言う。

「そうでしたか。俺のために、ご苦労様です」

神が言うとの眉がピクリと動いた。

「...可愛くないわね」

「それは、褒め言葉として受け取りますね」

神はニコリと微笑んで教室へと足を向ける。

そんな神に肩を竦めては彼に背を向けて職員室に向かっていった。









桜風
08.2.10


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