| 結局試合は陵南が辛くも勝利した。 しかし、その辛勝というのがお互いのチームにとっては収穫であり、課題だった。 としては、仙道からの一方的な賭けには勝てたが、それでも何だかすっきりしない終わりを迎えた気がする。 部員たちは体育館の外まで湘北バスケ部を見送りに出て行く。 「も挨拶してきたら?知り合いだったんでしょ、湘北のマネージャーと」 片づけをしていたら先輩にそう声を掛けられた。 本当は彩子とちょっと話をしたいとも思ったが、でも、何となく出て行きづらくて「大丈夫です」と断った。 しかし、なぜ出て行きづらいのかは自分でも良く分からなかった。 仙道は体育館を振り返ったが、が出てくる気配がない。 先輩マネージャーたちが引き止めることはまずないだろう。彼女たちはを可愛がっている。 何より、自分たちが引退した後もこの部に留まってもらいたいとか思っているはずだ。 肩をすくめてそのまま足を進めた。 「おう」と声を掛けた相手は流川だった。 試合の途中からはとの賭けのことなんてすっかり頭から消えていた。彼はそれだけの選手だったと感じた。 オールラウンダーとかって言っていた。確かに、それはあるんだろう。 流川に手をさし出す。 握手を求めた仙道の手を流川は握り返すことはなく、軽く叩いて返した。 生意気だ。 けど、面白い。次に試合するのが楽しみになってきた。 もう一人の湘北のルーキーにも声を掛ける。 彼も面白い人材だった。 湘北が帰っていった後、ミーティングが開かれた。 あの監督の様子だと、きっと明日からの練習はものすごく厳しいものになるんだろうなぁ... しかし、IHの予選が始まることことだし、仕方ない。負けるのはすごく嫌だし。 「ちゃん」 名前を呼んで近づく。 少し迷惑そうな表情をしたが、彼女は仙道を待った。 「何ですか?あ、賭けはこちらの勝ちってことで」 念を押された。 「ああ、そうだなー。意外とやるね、ルカワ」 仙道が言うと「そうですか?」とは少しだけ誇らしげに笑った。 その表情は少し気に食わない。 だが、きっと彼女は無意識だ。 ...しかしそうなると、余計に気に入らない。 「明日から練習きつくなりそうなんだよね」 ぼやいてみると 「IH予選が近いんだから仕方ないんじゃないですか?エースが遅刻するチームとしては危機感が持てたから今日の練習試合は意義があったと思いますよ」 とちくりと厭味を言われる。 「ちゃんって俺に厳しいよね」 「そうですか?やさしい方だと思いますけどねぇ...」 首を傾げてそういう。 何と比較してそういっているのだろう、と考えていると「けど」とが言うから仙道はその続きの言葉を待った。 「仙道さんって、ホントにウチのエースなんですね。聞いていたけど、本当に凄いプレイヤーだったんだなぁ、って感心しちゃいました」 満面の笑みを浮かべてが言う。 今までにないくらい、彼女が自分に信頼を寄せているという空気が伝わって来た。 「あ、ああ..うん。遅刻エースだけどね」 と思わず自分で掘り返してしまう。 「そうですよ!」と責められるかと思ったが、は苦笑した。 「予選の、公式戦では遅刻しないでくださいよ」 と言っただけだった。 何だろう。調子が狂う。いつもの様にちょっと厳しく叱り飛ばされて「ははは」と適当に笑いながら去っていこうと思ったのに... 「仙道さん。今日はお疲れ様でした。明日から練習が厳しくなるんですよね。頑張りましょうね!」 トドメとばかりにそんな風に声を掛けられればもう調子は狂いっぱなしだ。 「う..うん」 そう頷いて仙道は回れ右をして去っていく。 何かもう一言適当なことを言うのかな、と思っていたは首を傾げる。 なんだか、仙道が変だ。 「...どこか痛めたのかな?」 少し的外れなことを心配しながら自分の仕事に戻った。 翌日の仙道は今までよりも少しだけ勤勉になっていた。 その差はほんの少しのようで、彼を信頼し、共にコートに立っているスタメンの皆には歴然とした差として感じ取れる。 皆は一様に首をかしげ、同時に心を入れ替えたらしいエースにより一層信頼を寄せた。 |
桜風
10.4.14
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