| ピンポン、とチャイムが鳴る。 この音はエントランスからではなく、ドアの向こうからだ。 回覧か何かか、と思って流川はドアを開けた。 「お邪魔しまーす」 元気よくそういってがずかずかと家の中に入ってきた。 「おい、こら」 それを追いかけるように流川は家の中へと戻っていく。 「何しに来たんだよ」 「いやね、家の鍵を忘れて家を出て。ただ今締め出し食らってます!」 ビシッと敬礼をしながらが言う。 流川の眉間に皺が寄る。 「は?」 「まあ、今日はお父さん早めに帰るって聞いてるから。それまで置いてよ。あ、Tシャツとハーフパンツ借りるね」 は軽くそう言って流川の部屋にズカズカと入る。 一歩足を踏み入れて「入るよ?」と声をかけてきた。 「好きにしろよ」 慣れている流川はそう面倒くさそうに返す。 「幼馴染の女の子が入っても良い部屋って、ある意味不健全」 「出て行け」と冷たく流川が言うと「いや〜ん」としなってそのまま流川の部屋に入っていった。 出てきたときは先ほど言ったとおりの格好で出てきた。 「ハンガーも借りるよ」と言ってリビングに制服をかけた。 「で?おじさんいつ帰ってくるって?」 「日付が変わる頃かな?早いっしょ?」 首を傾げながらが言う。 世の中で『早い帰宅』っていうのがどれくらいのものか流川も両親が規則的な勤務状況でないことから良く分からない。 「よくわかんねぇ」 「実はわたしも!」 流川の返事には笑う。 こういう奴だよな... そう思って流川は特に何も言わなかった。 多めに用意されていた夕飯を2人で食べて、は宿題して、流川はテレビを見ていた。 「そういえば」とシャーペンを動かしながらが言う。 「ん?」 「湘北、頑張ってるみたいじゃない?」 「...まあ、な」 やはり他人事のように言われるのは慣れないな、と思いながら流川は返す。 「そっちのブロックのシードって、翔陽なんだって?」 「よく知ってんな」 「実は、この間ウチのブロックの予選見に行ったら藤真さんに会ったんだよ。オーラのある人だったよ」 「マネージャーもいけるのか?1年のくせに」 流川の言葉には手を止めて顔を上げた。 「まあねー。仙道さんが一緒に行こうって言うから。先輩も顧問も担任も良いって言ったし」 の言葉に流川の眉がピクリと反応する。 「仙道?」 「そう。仙道さん。あの人、バスケしてなかったらふらふらした感じで風船みたいな人だよ」 が笑いながら言うが、流川は機嫌を悪くした。 ああ、負けた相手だからか... はそう納得してそれ以上仙道の名前は口にしなかった。 宿題が終わったのか、は流川の傍にやってくる。 そしてソファにごろりと寝転んだ。 「あー、楽...」 そういって傍においてあったクッションを引き寄せて枕代わりとした。 「寝るなよ」 「大丈夫!楓じゃないんだから」 笑いながらそう請け負った10分後。 「...何が大丈夫だ」 流川は背後から聞こえる寝息にため息をついた。 まあ、マネージャーだって疲れるから仕方ないか... 振り返るとの顔が目の前にあってびっくりした。の唇が触れるか触れないかの位置にある。 「...どあほう」 すぐ傍、息のかかる距離にあるの顔を見て流川は呟いた。 しばらくするとガチャガチャと鍵を開ける音が隣のドアからしたような気がした。 急いで玄関を開けると自分の耳は確かだったようで、の父親が帰宅したようだ。 「おお、楓君。久しぶりだな。うるさくしたかい?すまないね」 そういって家の中に入ろうとしたので、「ちょっと待ってください。あけておいて」と言って一度家に戻った。 変なの、と思いながらの父親が流川に言われたとおりに待っていると次に流川が出てきたときにはその腕に愛娘がいた。 しかも、流川のTシャツとハーフパンツを着用だ。な、何が起こってるんだ?! 「家の鍵、忘れたって。制服を着たままだったら皺とか気になるからって俺の服を漁って着たんです」 疑問に対する回答を正確に流川が口にした。 なるほど、と思ったが改めて流川の成長に感心した。 体が大きいのは知っているつもりだったが、娘をこんなにも軽々と運んでくるとは... 「の部屋に入りますよ」 断りを入れて流川はの部屋に入る。 中学にあがってから入らなくなった部屋だ。 久しぶりに入ったの部屋は、の匂いがした。 ベッドに寝かせて部屋を出る。 「カバン、持ってきます」と声をかけてまた家に戻っての通学カバンを彼女の父親に渡した。 「すまなかったね」という彼の言葉に「いえ」と短く返して挨拶をして彼女の家を後にした。 自分の家に帰るとしーんと静まり返っている。 いつもと変わらない。しかし、先ほどまでは自分以外の人間の気配があった。 「どあほう」 次、あんなに無防備な表情を見せたら... 流川はため息をつき、自室に戻る。いい加減、眠いのだ... |
桜風
10.5.5
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