| 海南と湘北の試合を見たその日。 運の悪いというか間の悪いことに母が 「はい、これ。お隣ね」 とおすそ分けに行って来いというのだ。 「えー、わたしが?」 「そうよ。は部活で試合があったから忙しくて疲れたかもしれないけど、私も疲れてるの。その上、食事の支度。手が離せないのよねー」 そう言われたら断れるはずもなく、まあ、いつもインターホンを押したら出て来るのは大抵母の方が出てくるのだ。 玄関先でおすそ分けを渡して、などとシュミレーションをしながらサンダルを履いてお隣に向かった。 ピンポーンとインターホンを押すと出てきたのは、流川だった。 あ、あれ...? 「これ、お母さんがおすそ分けにって...」 「ああ、サンキュ」 そう言って器を受け取った流川は何も言わずにドアを閉めた。 閉めると思っていたが、それは途中で止まる。 「残りの試合、全勝したら全国だ」 「...それって、ウチにも勝つってコト?」 そう言って流川を見上げると射るような瞳で見られていることに気が付いては一瞬息を飲む。 「勝つ」 短く言う流川の言葉にグッと奥歯を噛んだ。 昔聞いていたその頼もしい言葉は、いつの間にか自分に向けられるものになっていた。 「ウチも負けない」 の言葉を聞いて流川はドアを閉めた。 びっくりした。 流川のあんな瞳を見ることなんて今までなかった。 もしかしたら、今までの対戦相手にはあんな瞳を向けていたのだろうか... 「ああ、ありがとうね。で、誰だったの?回覧板??」 キッチンに立つ母に「」と短く応えて借り受けた器をテーブルに置いた。 「あらー、美味しそうね。ちゃん、あがっていけばいいのに」 「食事時なんだろう」 流川の言葉に「そういえば、そうねぇ」とのんびり言いながら頷いていた。 自分を見て、があんなふうに驚いた表情を浮かべたのはたぶん初めてだろう。 少し後悔したけど、それ以上に負けたくないという気持ちのほうが勝っている。 負けたくない、勝ちたい。 今日のような悔しい思いはもうしたくない。 「かーえーで」 母がにょっと顔を覗き込んできた。 驚いてのけぞると「トリップ中に悪いんだけど、ご飯お茶碗によそって」といわれた。 流川は「ああ」と短く応えて炊飯器へと向かった。 次の試合の会場は2試合とも同じ会場だった。 まずは湘北・武里戦があり、続けて海南・陵南戦だ。 湘北は武里に100点ゲームで勝利した。 スタンドから見ていたは静かに試合を見守っていた。 これで湘北は1勝1敗。まだIHへの希望は残っている。 そして、試合が始まった。 相手はあの神奈川No.1の常勝海南大附属高校。 先週の湘北との試合でもその王者としての実力は揺るぎないものだった。 しかし、陵南だって負けてられない。 この試合から福田が復帰した。 はその『福田吉兆』という人物は良く知らない。 しかし、マネージャーの先輩や、他の選手の先輩たちも彼を信頼しているようだ。 練習の様子を見ても、福田の動きは仙道に並ぶところはある。 仙道のように動きに精錬さのようなものはないが、それでも貪欲なまでにゴールを狙うその精神に、正直圧倒された。 ふと、スタンドから声が上がる。 湘北の桜木だ。 今日は試合に遅刻した。なぜか坊主頭になった彼が海南に発破をかけていた。 そして、続々と帰っていく湘北のスタメンには目を丸くした。 何か、とても自由だなぁ。協調性、とかそういうのを求められたらウチにも微妙なのがいるけど... そう思いながら視線をコートに戻す。 「おちついていこう!」 仙道の声が聞こえた。 海南のペースになりかけてきた試合の流れを陵南に戻すひとことだった。 |
桜風
10.6.9
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