| 海南戦は惜敗だった。 同点で試合を終えて、その後の延長戦まで陵南の体力は持たず、結局83対89で試合が終了したのだ。 試合終了のブザーが聞こえたとき、も思わず俯いた。 しかし、すぐに顔を上げて頬をパン、と叩く。 周囲の同じく俯いていた部員たちは何事かとを見た。 「胸を張る!」 凛とした声でそういう。 きょとんと自分を見ていた部員たちをぐるりと見渡したは立ち上がる。 「さ、下りよう!」 悔しさで俯いている部員たちも促して控え室に向かう。 先輩もいたが、彼らもの言うことに従い、とぼとぼと控え室へと向かった。 ふと、視界の隅に見たことのある人物が入る。 彼もに気が付いたらしい。 小さく会釈をすると彼もそれを返した。 控え室に下りると選手たち、とくにスタメンは気持ちの切り替えが既に出来ていたようだ。 「明日勝って、全国だ」 帰る道すがら仙道がそう呟いた。 自分に言い聞かせるように、そして傍にいるに約束するようにそう言う。 返事をするべきかと悩んだは声を出さずに頷いた。 そして、その翌日。 IHへの最後の椅子を賭けての湘北戦を迎える。 第一試合の海南・武里戦は海南の圧勝で終わった。 試合終了前に海南応援席は勝利を確信し、また優勝がほぼ確定しているため踊っていたほどだ。 第一試合が終わり、陵南と湘北のチームはコートに入ってアップを始める。 「あれ?」と湘北ベンチに監督の姿がないことに気が付いた。 応援席にいる部員たちも少しざわめいている。 あまつさえ、湘北の14番、三井寿が監督の写真をベンチの上に置き始めるから本当に不幸があったのかと思ったが、他の選手たちの様子を見てもどうやらそうではないようだ。 ほっと胸をなでおろす。 試合は、陵南の流れで前半が終了するかに思えたが最後に三井の3Pシュートで6点差まで詰め寄られ、まだ試合の流れは分からないという状況になった。 途中、福田との接触プレイで負傷した桜木はベンチに下がったが、出血はあったもののタンカなどで運ばれるほどの怪我ではなかったようでもしかしたら後半は出てくるかもしれない。 いや、湘北のベンチ層を考えれば出てこざるを得ないのではないだろうか。 そして、自分の手元のスコアを見た。 前半2点。 「さすが仙道だ。流川を2点で抑えてるぞ」 の手元のスコア表を見て隣に座っている部員がそういった。 しかし、は心の中でそれを否定した。 これは、ありえない。いや、ありえないというか... そう思って溜息を吐いた。 あの海南戦を見たから分かる。きっとこの体育館のスタンドにいる人たちの中でも気づいた人もいるだろう。 1週間かそこらで急激にスタミナを作ることは不可能だ。 元々、骨格的にも流川はスタミナ型という体は作れないんじゃないかと思う。まあ、本人の努力次第だろうが... 急激にスタミナを作ることが出来ない。容量が決まっているなら、その使い方を工夫すればやっていける。 きっとそう考えたのだろう。 よっぽどあの海南戦が悔しかったのだ。 彼は海南と戦ったその日の夜に残りの全ての試合に勝つと言った。 負けず嫌いな性格は知っている。そして、彼がレベルの高いバスケット選手だということも。 だが、とは否定した。 陵南にもレベルの高いバスケットプレイヤーがいる。 バスケに関してはとても信頼のおける、陵南のエースだ。 今、湘北に流れが行きかけているかもしれない。 しかし、後半すぐにこちら側に仙道が流れを持ってくる。 あの怪物と呼ばれる海南の牧とも互角に戦った。 は静かに無人のコートを見下ろしてハーフタイムが終わるのを待った。 試合終了のブザーが鳴ったとき、は呆然とした。 バスケに関してはとても信頼できるあの仙道が昨日「明日勝つ」と言っていた。 なのに、結果はその言葉のとおりにはならなかった。 湘北は確かに強かった。 けど、陵南だって弱いわけではない。 俯いたまま動かないの肩にそっと触れて「行こう」と促したのは昨日の試合終了後に中々席を立てずにいた先輩だった。 「はい」 震える声でそう応え、はゆっくり立ち上がる。 ふと、顔を上げると仙道と目があった。反射的にその目を逸らした。 いちばん悔しい思いをしている人の前で泣くのは失礼だと思ったから。 すぐに表彰式が始まり、ベスト5には海南から2人、湘北から2人、そして陵南から1人選ばれた。 その中には、仙道と、流川がいた。 |
桜風
10.6.16
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