| 試合の後の閉会式も終わり、帰りの支度をしている。 ふと首を巡らせるとが下を向いていた。 「ちゃん」 彼女の肩がビクリと揺れて、ゴシッと乱暴に目の辺りを拭いた。 見上げてきた彼女は泣いていたのが明らかな顔と表情だった。 「ねえ、それってどっちの涙?」 無意識に出ていた言葉だった。 「『どっちの』とは?」 「ウチが負けて悔しいのか、それとも、湘北が..流川が勝って..」 そこまでしか言えなかった。 次の瞬間、頬に鈍い痛みがあった。 そして、目の前のは自分をキッと睨んで握った拳が赤くなっている。 そのとき初めて自分がグーで殴られたことが分かった。そして、目の前で涙を流している彼女のその理由も。 「あ、あの..ごめ」 仙道が声を出した瞬間、は踵を返してそのまま駆けて行った。 どうしてか、仙道は追いかけられなかった。足が、地面に縫い付けられているような錯覚を覚えた。 「仙道」とマネージャーが声を掛けてきた。 顔を向けるとジンジンと疼いている頬に更なる痛みが奔る。パシンと乾いた音が耳に届く。 「マネージャー、舐めんなよ」 部員たちは遠巻きにと仙道、マネージャーと仙道の様子を見守っていた。 ああ、そうだ。 「アンタにを追いかける資格はない」 キッパリと言われた。 「どうしたんだ、一体...仙道?」 驚いたように魚住が声を掛けてくる。 「あとで、説明します」 仙道はそう言ってが置いていったバッグを掴んで駆けて行った。 「...どうしたんだ?」 傍にいたマネージャーにもう一度問う。 「仙道の口で説明させる」 彼女の言葉に魚住は肩を竦めて、「わかった」と頷いた。 「流川!」 帰ろうとしている湘北を見つけて仙道は声を上げた。 面倒くさそうに流川が振り返る。 「ぬ!?センドー!!」と桜木が言うが、取り敢えず今の仙道には彼を相手にする余裕がない。 流川は仙道が持っているバッグを目にしてピクリと眉を動かした。 そのバッグに付いているマスコットに見覚えがある。 の父親が出張で海外に行ったとき、お土産に買って帰ったものだ。 「趣味悪いよねー」って笑いながら彼女は嬉しそうにバッグにつけていた。中学のときからの愛用品だ。 「これ、ちゃんに渡してくれるか」 「あいつは?」 当たり前の質問だ。 仙道は先ほどのやり取りを口にした。 「どあほう」と呟いた流川に何もいえない。 そして、「仙道、あんたのその言葉ってサイテーよ!」と湘北のマネージャーにも責められた。 言われるまでもなく、もうそれは自覚している。 「いい?マネージャーってのはね、選手のことを思ってないとできないのよ!?どんなに頑張っても注目されるのは選手で、マネージャーはその存在すら認識されないことだってあるの。 誰だって、人に認められたい。けど、それ以上に支えることを選んで心に決めないとマネージャーってのは出来ないの! アンタ、魚住さんが引退されたらキャプテンになるんでしょ?!だったら、そこのところもちゃんと頭に入れておきなさいよ!!」 まだ言い募ろうとした彼女を止めたのは意外なことに流川だった。 「他には?」 「監督や部員たちにはオレが説明しておくから、できればまた部活に来てほしい」 「言っとく」 そう返して流川は背を向けた。 「先輩」と流川に促されたマネージャーはまだ言い足りない感じではあるが、自分は部外者だからこれ以上は言わない方がいいというのは分かっているようで、自分を落ち着けるように溜息をついて少し先を歩いる部員たちの下へと足早に向かった。 |
桜風
10.6.23
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