What's love? 20





手ぶらで会場を後にしてしまったは根性で自宅のマンションへまで歩いて帰った。

しかし、結局家に入れないことに気が付いて、そして逃げるようにその場を飛び出してしまったことに嫌悪を感じながらそのままドアの前にうずくまって膝を抱えてそこに顔を埋めた。


どれくらい経ったか分からないけどゴツン、と頭に衝撃があって顔を上げる。

「お前のだろう」と言って膝の上にバッグが載せられた。

たしかに、自分のだ。ちゃんと変なマスコットが付いている。

しかし、何故流川が持っているのだろう...

「取り敢えず、入れ」

そう言って鍵を差してドアを開けた流川が声を掛けてきたから、促されるままに流川家へと足を踏み入れた。

とぼとぼとリビングに入ると「おい」と声を掛けられて顔を上げると何かが飛んできた。

慌ててそれを受け取ると水で濡らしたタオルだった。

「顔を拭け。それですっきりしなかったら洗え」

そう言って流川は自室に入っていった。

言われたとおりに顔を拭いてみる。

少しだけすっきりしたけど、すっきりした分益々自責の念が大きくなる。

部屋から出てきた流川は部屋着に着替えていた。

「なんで、楓がバッグを持ってたの?」

「帰るときに仙道から預かった」

『仙道』という単語にズキンと胸が痛んだ。

「あいつから、話、きいた」

「やっぱ、わたしが悪いよね。仙道さんだって試合に負けて辛かったんだろうに...」

「どあほう。あいつが悪ぃ」

「でも、グーだったんだよ」

...それは聞いてなかった。

けれど「あいつが悪い」と流川は繰り返した。

は、陵南バスケ部の部員だ。考えなくても応援するのはどっちかなんて分かってる。あいつは、どあほうだ」

は俯いてじっとしていた。

やがてぽつりと言う。

「わたし、片付け放ったらかして逃げてきちゃった...」

「先輩とか監督には自分が事情を話すって言ってたから大丈夫だろ」

「わたし、そんなに楓贔屓に見えたのかな?」

「俺はしらねぇ」

ただ、がバスケ部のために毎朝早く起きて、帰りも遅くなって、しかも成績を下げないように頑張って夜遅くまで起きていることもしばしばだというのは知っている。

彼女の母親から聞いたことがあるのだ。

「部活を続けたかったら続ければいいし、辞めたかったら辞めていいんじゃねぇの?」

そういった流川の言葉には曖昧に頷いた。



インターハイの県予選が終了した次の日、は部活に顔を出さなかった。

部員の中に彼女と同じクラスの者はいないため、詳しいことはわからない。

そして、その翌日からはテスト週間に入るために部活動が出来なくなっている。

何度かのクラスに行こうと思った仙道だったが、何となく、どうしても行けなかった。

心のどこかで彼女は絶対に部活をやめないっていう自信があった。

彼女はバスケが好きで、それは見ていても分かる。

そして、きっと『マネージャー』というものも好きなんだろうと思う。彼女は生き生きとした表情で体育館の中を駆けていた。

同級生を叱咤したり、上級生に意見をしたりしていたが、それは不快なものではなく、ある種の『ムードメーカー』といった感じだった。

部員たちもそのように思っていた様子で、に叱咤されれば苦笑して、たまに本気でへこみ、意見されれば考えていたりもした。

彼女はマネージャーとしてチームに認められているのだ。

しかし、自分がそんなことを思う資格なんてあるのだろうか...

彼女に向けたあの言葉を思い出して自嘲する。


テスト期間が明けてもはバスケ部に顔を出さなかった。

それどころか、テストは受けなかったらしいと彦一が彼女と同じクラスになっている友人から聞いたと報告する。

それを聞いた途端、仙道の顔から表情が消えた。

仙道はそのまま駆け出していた。









桜風
10.6.30


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