| 練習試合は辛くも勝利を収めることができた。 それでも、勝ちは勝ちだ。 この勢いに乗ってそのまま国体でも勝ちを手にしたい。 「何とか勝てましたね」 彩子に言うと「ま、何とかかんとかって感じだけどね」と苦笑しながら彩子が返す。 2人は今片づけをしていた。 「さっき、さ」と彩子が言う。 「はい」 「仙道に話を聞くって。答え..というか自分がどうしたいかってのが決まったの?」 あまり踏み込むのも、と思いつつ、もう随分踏み込んじゃったんだしと居直って聞いてみた。 は苦笑して「いえ」と短く返す。 「でも、逃げ続けてても逃げ切れないでしょう。学校が違うならまだしも、この合宿が終わってからもわたしは仙道さんのいるチームのマネージャーですし」 「...そっか」 可愛い妹分がしっかりしてきているのは嬉しいはずなのに少し寂しい。 自分がこれだけ寂しいのだから、幼馴染以上の感情を抱いていると思われる流川はどう感じるのだろうか。 帰り支度を済ませて少し時間があった。 「仙道さん」と声を掛けると振り返った仙道がくしゃりと笑う。 どきりとした。 「ありがとう、ちゃん」 そう言って近付いてきた仙道は一歩ほど離れたところで足を止める。 不思議に思ってが距離を縮めようとしたら「あ、そこで」と止められた。 何だろう... 「また思わず手を出したら拙いでしょう」 困ったように笑った仙道がそう言い、は思わず二、三歩下がる。 その二、三歩分は仙道が距離を詰めた。 「この間は、ごめん」 「あ...えーと」 何だろう。謝られるとそれはそれでちょっと..モヤモヤする。 「驚かせちゃったでしょう?ごめんね」 謝罪を重ねる仙道に何だかはちょっとムカッとする。 「もう良いです。終わったことです」 「あのさ、順番が逆だったと思ったんだ。オレ、そういうの気にしなかったから、今まで」 そう言って仙道がの瞳を捉えた。 「ちゃん。オレ、君が好きなんだ..たぶん」 の心臓が跳ねた。しかし「たぶん」とその後に続いた言葉に首を傾げる。 「『たぶん』、ですか?」 「あ、うん。好きなんだよ。ただ、オレってまともな恋愛経験が無いから、これがちゃんと『好き』で合ってるか、ちょっと自信ないっていうか...」 ただ、以前流川と話をしたとき『恋とは何か』という仙道の疑問に何の迷いもなく流川が『』と答えた。 そのとき自分もそうだと仙道は思ったのだ。 人の感情を借りているようでやっぱりちょっと自信ないけど、これ以外の答えが浮かばない。 「でも、仙道さんはわたしにキスしたこと、後悔してるんですよね」 あれだけ謝罪してくるのだ。つまり、そういうことだろう。 そう思ってが言う。 しかし、仙道は首を横に振った。 「さっきのオレの『ごめん』は君を困らせたことに対してだよ。キスしたことは後悔していない。その行為自体は、ね。ただ..避けられたという結果を見たら後悔せざるを得ないって言うか...」 困ったように笑う。 あの謝罪を口にさせたのは他でもない自分だったらしい。 はちょっと反省した。 「わたし、仙道さんって彼女をとっかえひっかえな人だと思ってます」 「まあ、自業自得かな?」 否定できない... 「けど、オレはちゃんが好きになってから彼女はいないよ」と告げる。 少し動揺したようには視線を彷徨わせ、「わたし、実は仙道さんには感謝してるんです」と言う。 首を傾げた仙道に、 「わたし、陵南に入って心細かったんですけど。部活中にマネージャーの仕事の邪魔をせんとばかりに声を掛けてくださったじゃないですか」 と言う。 「ねえ、ちゃん。何だかちょっと言葉の端々にトゲがあるみたいなんだけど」 何だかちょっと痛い気がする... そう思って抗議したが「気のせいです」と笑顔で返された。 「たぶん、仙道さんのお陰で、より早く学校に馴染めたんだと思います。先輩達も『大変ね』って沢山声を掛けてくれるようになったし。今まで学校には楓がいてあのふてぶてしさを見たら緊張するとかバカらしく思えてくるんですよね」 どうしてだろう。あまりこう..褒められた感じがしない。 を見るとニコリと微笑む。 「わたし、仙道さんのことは結構好きです。時間は守らないし、結構不真面目なところがあるけど」 なんだろう...肯定されている気がしない。 「じゃあ、ちゃん。例えば。オレが此処で付き合ってって話をしたら君は何と答えてくれるの?」 「保留、ですかね」 酷い... 「理由を聞きたいな。何故?」 「わたし、今まで仙道さんの言葉は3割程度で聞くようにしてたのでまずそれを改善しなくてはならないんですよね。それから、仙道さんの言葉をきちんと考えて、ということになるので時間が掛かるかも知れないと思って...」 本当に、自業自得だ... しかし、と考え直す。 「期待できるってことかな?」 「時間は掛かるでしょうし、仙道さんにとって良い答えになるかどうかも分からないんですけど...」 「大丈夫、ちゃんはオレを好きになるって」 自信満々に言う仙道。 さっきまでしゅんとしてたのに... そう思うと可笑しくなった。 突然が笑い始め、「な、何?!」と仙道が慌てる。 「少なくとも、仙道さんは面白いですね」 「褒められた気がしない...」 ガクリと肩を落とす仙道にまたが笑う。 「」 振り返ると流川が立っていた。 「あ、時間?」 「先輩が誤魔化してるからさっさと来い」 そう言った流川は仙道を一瞥する。 「じゃ、お先に行きます」と行っては駆け出し、流川と並んで歩き出す。 と並んで歩いていた流川が振り返り「どあほう」と苦々しい表情で口だけを動かす。 ビックリして仙道は目を丸くし、そして苦笑する。 「そっか...」 彼がそう言ったわけではない。けど、今回のことで自分は気づかないうちに流川の世話になったのだろう。 が沈んでいるのを彼が放っておくはずがないだろうし。 仙道はゆっくり歩き出す。と話が出来て自分も随分と落ち着いた。 「持久戦ってことか...」 ポツリと呟く。 まあ、一緒に過ごせる時間はまだあるんだし。気長に行こう。のんびりは得意だ。 「仙道ーーーー!!」 遠くから田岡の怒声が聞こえる。 「まずい...」 呟いて駆け出した。 こめかみに青筋を浮かばせた田岡がバスの前で待ち構えており、帰りのバスでは田岡の隣で延々と説教を聞かされた。 ちらっとを盗み見たら目が合い、小さく手を合わせて彼女が謝罪をしている。 先に行くのを譲ってもらったから仙道が遅くなった。だから、田岡に説教されている。 「聞いとるのか、仙道!!」 肩を竦めて説教を改めて聞き流す。 仙道のしまりの無い口元を見て田岡は盛大に溜息を吐いた。これは今、何を言っても無駄のようだ。 「いいとこ見せんとな」 不意に田岡の言葉が耳に届いて仙道は目を丸くする。 隣を見ると田岡は狸寝入りだ。 構わず仙道は「はい」と返事をして笑った。 |
桜風
11.4.13
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