| 「あの、好きです。付き合ってください」 目の前で展開される告白の現場。 この学校の生徒ではないあたしが何故その場に居るかと言ったら、告白している子があたしの友達だから。 ついてきてと頼まれ、仕方が無いな、と腕まくり、とまでは行かないけど、気合を入れて着いて来たというワケ。 そして、彼女はムチャクチャ可愛い。同性のあたしでも彼女の可愛さに見惚れるほどだ。 こんな子に告白された男は幸せ者だな... そう思いながら見ていたのに。 「ねえ、俺の何処が好きなの?」 男はそう返した。 ...は!?別に何処だって良いじゃん!こんな可愛い子に告白されてるんだよ?!頷け、バカ!! 「え、背が高いし、カッコイイもん。バスケをしてるときの顔とか。神奈川屈指のシューターでしょ?」 ...ん? それは、この長身の男。神宗一郎とか言ったか?その長所ってそれだけ?去年も同じクラスになったとか言ってなかった?外見、というか、あまり深みはないな、その言葉。 そう思っていると長身の神くんは溜息を吐いた。 「結局、外見だけじゃないか。何も知らないでよく好きとか言えるよね」 穏やかな目をしている顔の表情を全く変えない彼の言葉は、睨みながら言われるよりも余計に鋭く、抉る。 あたしも同じことを思ったけど。だけど、こんな可愛い女の子にそんな言い方しなくたっていいじゃない! 案の定、彼女は顔を覆って蹲る。 何事もなかったかのように神はあたしたちに背を向けて体育館へ戻っていこうとした。 「ちょっと!その言い方酷いんじゃない!」 思わず口出ししている自分に溜息が漏れる。 どれだけおせっかいなんだ、あたし... 神はゆっくり振り返り、 「ああ、さっきから居たね。なに?俺が悪いの?というか、キミは何?」 こ、怖い... にこりと微笑んだ神の笑みは黒かった。 「あ、あたしは。この子の友達のよ。あとさ、やっぱり思うんだけど、断るにしてももっと言い方ってのがあるじゃない!」 「そう?じゃあ、言い方を変えようか。キミは全然俺のタイプじゃない」 尚更酷いわ!! 頭に血が上ったあたしは神にズカズカと近寄り、頬をはたいた。 予定としては、乾いた音がこの爽やかな空に響くはずだった。 実際は少しだけ体を仰け反った神の頬には掠りもせずに私の手は宙に弧を描いて下りてきただけだった。 クッ!かっこ悪い。 「...届かなかったね」 お前が言うな! 「じゃあ、こんな事に時間を費やすほど俺暇じゃないから」 そう言ってあたしたちに背を向けてアイツは振り返りもせずに体育館へと向かっていった。 残されたあたしは泣く彼女を宥めながら学校を後にした。 「おはよう。あれ、どうしたの?疲れてるな?」 翌日、教室の机にうつ伏せていると珍しく学校が始まる前にやって来た隣の席の男子に声を掛けられた。 「はよー...泣く女ほど一緒に居て疲れるものはないね。そして、今日は学校が始まる前に教室にいるなんて珍しいね、仙道」 そう声を掛けると苦笑いを浮かべる。 「最近越野が煩くて」 「ああ、越野は相変わらずの苦労人なんだね。少しは副キャプテン孝行する気になったんだ?」 「んー。胃が痛い、って言われたからな」 そりゃ、痛くもなるだろうな... 黙っていればカッコ良いの部類に入るだろうクラスメイトの顔をまじまじと見た。 彼は時間を守った例がないらしい。 「アンタもそれなりにサイアクだけど。昨日のアイツのがサイアクだ」 「え、オレってサイアクなの?てか、誰?にオレ以上にサイアクだと言わしめる奴って」 「そっか。バスケやってるから知り合いかも。仙道って、神宗一郎って奴知ってる?」 「神?海南の?」 「うわ、知り合い?まあ、昨日そいつが中々イイ性格だってのを知ったのよ。お陰であたしは非常に疲れた」 興味津々の表情の仙道に昨日のあらましを話した。 「まあ、神の気持ちは分からないでもないけどなー」 顔を少しだけ上に向けて仙道が呟いた。 「確かに。でも、ね?言い方ってのがあるんじゃない?」 「本当に時間がなかったとか。あとは、そういうのにいい加減辟易していたとか?だって、神もかなりモテそうだろ?」 『神も』と言いましたか?自分がおモテになるのをちゃんと自覚されているのですか... そんなことより 「アンタはアイツの肩を持つんだ?」 溜息混じりに言うと 「肩を持つとかじゃなくて。外見なんて誰だって見れるところでしょ?その中で、自分の何かをわかってくれる人が居たら嬉しいと思うんだけどな」 と呟く。 言ってることは何となく分かる。 でも、あたしが問題にしてるのは言い方だって言うんだよ。 もう一度溜息を吐くと仙道は苦笑を漏らした。 「まあ、本当に災難だったんだってことだけは分かったよ」 「もうそれでいいよ」 あたしの言葉に仙道はまたしても笑う。 「それよりさ。は今度の日曜、暇?」 「んー?仙道が次に何を言うかによって暇かそうじゃないかが決まるけど?」 「ちょっと付き合って」 「どこに?」 「バスケ部の活動」 にこりと笑ってそう言う。 返事をせずに黙殺していたら次の休憩時間、何故か越野がやって来て必死に頼み込むから思わず頷いてしまった。 結局、いつもこうやって仙道のペースに乗せられるんだから... 取り敢えず待ち合わせの場所に着くとやはり時間前ということからか、仙道の影はなかった。 ...かーえろっと! 回れ右をすると目の前に壁があり、 「ってわかり易い性格してるよな...」 呆れたような声が頭の上から降ってくる。 「居たの?」 「今来たところ。危なかったよ、帰ろうとしたんだろう?」 「当然」 肩を竦ませた仙道はあたしの手を取って 「さあ、張り切っていこうか」 と言いながら駅の構内へと足を進めた。 何処へ行くかと教えてもらえないまま、数日前に下りた駅で電車を下り、そして、これまた数日前に通った道を歩く。 そして、数日前に見た学校の正門の前に立っていた。 「帰る!」 「だーめ。さ、行こう」 「あれ?」 仙道に手を引かれ、それに何とか抵抗していたあたしの背に、これまた数日前に聞いた声が届く。 「ああ、神」 「なんだ、仙道。偵察?」 「そ。監督が今日の海南の練習試合、見て来いって煩くて」 「ふーん。で、その子。さんだっけ?そのお節介焼きさんは仙道の彼女?」 な、名前覚えられてる... 泣きたい、逃げたい。 取り敢えず後ろ向きな感情が渦巻く中でぎこちなく振り返ってみれば、あの時の表情と変わらない神宗一郎が立っていた。 「こ、こんにちは」 「また来たの?」 来たくて来たんじゃないやい! そう言いたかったけど無理!! 「はオレのクラスメイトで、取り敢えず今日の偵察に付き合ってもらってるだけ」 「へぇ。陵南だったんだ?じゃあ、何であの子と一緒にいたの?」 先日の事を今更聞かれても... 「塾で、一緒だから。それで、まあ。流れは何となく察してると思うだろうけど...」 「塾で一緒ってことは殆ど一緒に居ないってコトだよね?そんな子のあんなつまらないお願い、よく聞く気になったね。相当お人よしなんだ?」 確かに、あたしはよく友達にお人よしと言われるし、小学校のときから面倒見が良いといわれる反面、ノーと言えない日本人の典型だとかとも言われてたり。 けれど、やっぱりこの神のものの言い方はトゲがあってカチンとくる。 「だから、言い方ってのをもう少し考えたら?確かに、あたしはよくお人よしだとか騙されやすいとかそういうの言われるよ。だからって、何でアンタにそんな言われ方されないといけないの!?」 そう言うと、神はあたしの後ろを指差した。 何だろう、と振り返ると彼女は何だかよく分からない神とはまったく違いタイプの男子と楽しそうに手を繋いで歩いている。 「え?あれ??」 「そういうコト。彼女はそう言う意味で学校でも有名だったんだ。取り敢えず、あの彼氏と別れそうになったとか。そういうので俺を当て馬に選んだんじゃないかな?」 にこりと微笑む神。 ああ、怖い... 「ご、ごめんなさい」 取り敢えず知らなかったとは言え数々の無礼を働いてしまったようだ。 「そうだな。さっきの話の続きだけど」 話の続き?続く話がどこにあった?? 「俺はさんのそういうお人よしなところ、嫌いじゃないよ。あんな子よりもずっとタイプだな」 『にこり』というよりも『ニヤリ』。 そんな雰囲気の神の微笑みに思わず後ずさる。 何、この突然の展開は。 「というわけだから、仙道」 神はあたしの後ろの仙道に向かってそう言う。 「それは困るなぁ。だって、はオレが狙ってるんだから」 はいぃ!? 頭上で何やら火花が散っているようで。 不意に神が、今すぐ帰りたいと思っているあたしの手をとる。 「じゃあ、まあ。取り敢えず今日は偵察して帰りなよ」 偵察なんてせずに今すぐ帰りたいです... というか、偵察はあたしの意思じゃないんです。バスケなんて見ても良く分かりません。 ちらりと振り返れば仙道と目が合い、いつものようににこりと微笑む。 思えばコイツの一言から始まったようなものだ。 いーだ、と子供のように歯を見せて顔を顰める。 仙道は苦笑を漏らして、尚ものんびりと歩く。 あたしは、自分の手を引いている神の後頭部を見た。この神宗一郎は仙道とはまた違うタイプでわが道を行くという性格をしていそうだ。 もう一人、あたしを振りまわす人が増えたようで。あたしの苦労は二倍に膨らんでしまったらしい... |
桜風
07.4.26
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