| ボールの跳ねる音が響く体育館の中。 何となく興味なさそうにコートを見下ろす女子生徒。 。 「キャー!神さーん!!」 隣に立つ自分を引き連れてきた友人を面倒くさそうに見下ろして、彼女が熱烈に応援している先輩を見る。 彼はこちらを見上げた。 また、見上げられている... は深く溜息をついて、そして少し視線をずらした。 その先にいるのは、清田信長。クラスメイトの、サルだ。 清田だって、結構やると思うんだけどな... このギャラリーにいる女子生徒の黄色い声は、神や牧など先輩に向けてのものが多い。 他学年の人もいるが、やっぱり応援する声はレギュラーの上級生に向いている。 ズキン、と腹が痛む。先ほどから疼いてはいたのだが、そろそろ限界だ。 毎月のこととはいえ、本気で何とかしてほしい。 「大丈夫?」 事情を知っている隣に立って神に熱心に声援を送っていた友人、は心配そうに顔を覗き込んできた。 「ごめん、もうムリ」 「薬、あげようか?」 「帰るから。ありがとう」 そんな会話をしてはその場を去った。 「一緒に帰ろうか」と声を掛けてきたの厚意は嬉しいが、彼女も普段忙しくて中々こうして時間が取れないから時間が取れるときくらいは憧れの先輩に目いっぱい声援を送っていてほしい。 まあ、あそこまで熱心な彼女には呆れそうにもなるが、それが所謂『恋心』ってやつなのかもしれないので特に何も言わないでおく。 やっぱり、薬を貰って痛みが引いたその隙に帰ればよかった、と今更ながら公開しつつ牛歩のていでゆっくりと歩みを進めていく。 「!」 はぎょっとして振り返った。 練習着のままの清田が駆けてきている。 逃げるか!?と思ったが、今の体がそれを許してくれない。というか、そもそも逃げる必要がどこにある?! 「なに?」 少しぶっきらぼうに、清田を見下ろした。 「お前、調子が悪いのか?」 「は?!何で??」 先ほどまでおなかを押さえて牛歩だったが、現在はしゃんと背筋を伸ばして何事もなかったかのような顔を作る。 「いや、神さんが。調子悪そうにしてたけど、って」 侮りがたし...! 「別に。少し用事があるから早めに帰るだけ。って、あんたレギュラーなのに声援少ないよね」 強がりついでに余計なひと言をポロリとこぼす。 「ウルセー!何だよ、せっかく心配してやったのに。やっぱ、デカゴリラが調子悪いなんて事はありえないよな。神さん、優しいからなー」 「失礼なチビザルね!」 「デカ女!!」 「チービ!!」 ふん!と同時にそっぽを向いた。 そして、清田は何も言わずに背を向けて体育館へと戻っていく。 「...好きででかくなったんじゃないやい」 拗ねるようにポツリと呟いた。 は、大抵の男子を見下ろしてしまう。 身長が180センチ。男子でさえ、ここまで背が伸びることは少ない。 そんなに伸びなくても良かったのに、と思ってはいるがの願いをよそに取り敢えずそこまで伸びてしまったのだ。 そろそろ打ち止めだと思って安心してもいいだろう。 寧ろ、これ以上成長してくれるなと心から願っている。今度こそ、叶えてほしい願いだ。 背を高くする方法というのは眉唾ものも含めて多く出回っているが、背が小さくなる方法というのはホントに聞かない。 クラスの女子が男子を見上げていることには憧れている。 振り返ると清田の姿はなかった。 それもそうだ。あいつはサルなんだから... 深く溜息をつき、そして再び腹を押さえながらはゆっくりと歩いて駅へと向かう。 ...今日、休めばよかった。 今更ながらのそんなことを思いつつ、は自宅までの距離をいつもの3倍以上の時間を掛けて歩くことを余儀なくされた。 しかし、あそこで調子が悪いと言ったらどうしたんだろう... これまた『今更』なことを思う。 でも、きっと「そっかー、気をつけて帰れよ」くらいで終わったんだろう。 いや、それすらなくて「まあ、頑張れ」で終わったかもしれない。 それでも、少なくとも、先ほどのように口喧嘩にはならなかっただろう... 毎日似たような反省を胸に抱く。 素直ってどうやったら慣れるんだっけ? 当てには出来ないけど、今日帰ったら辞書を引いてみよう... |
桜風
10.7.21
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