| 「おはよー」 ポン、と肩を叩かれた。 見下ろすとだ。 「はよ」 「昨日大丈夫だった?あのあと、すぐにサルが出てったケド...何か良いことあった?」 「デカゴリラって言われた。チビザルって返してやったけど」 の言葉には溜息をつく。 「でも、何であのサルはの異変に気が付いたの?」 「の憧れの先輩が気づいたそうよ。怖ろしい人...!」 少し芝居がかってそういうとは声を上げて笑い、「さすが神さん!」と憧れの人を褒めた。 全世界でそれを知る人はだけなのだが、は清田に憧れている。 あの清田に憧れるなんて余程の変人だと思われるに決まっているとは思っている。 実際、自分に対してそう思っているのだ。 何であのサルを、と。 きっかけは簡単だ。 夏休みが明けてすぐに『体育祭』という、サルが最も活躍できる場があったからだ。 は足は速い。 だが、運動神経というか、反射は良い方ではない。 体育祭のリレーの選手は体育の100m走の記録を見て速いもの順で選手に決められてしまう。 数字を重視するので、本人の意向は無視だ。 そして、足だけは速いはその意向を無視されて選手となった。 高校の体育祭ともなればリレーの練習を熱心にすることなんてなく、バトンを渡す練習もないまま本番の日を迎えた。 男女混合リレーは、女子から始まって男女交互に走り男子で終わるという流れだ。 が出場したのはそれだった。 1人100m。 クラスごとに8人出場では7番目の走者となっていた。そして、の次を走るのは清田信長というサルだった。 にバトンが渡るとき、彼女は受け取り損ねて落としてしまった。 混戦の中で2位だったのにそのバトンを拾っている間にあっという間に最下位。 は泣きそうになりながら必死に走って清田にバトンを渡した。 「ごめん!」と謝って手を伸ばすと「まかせんしゃい!」と言って清田は地を蹴った。 1位との差がそこまで開いていなかったこともあって、清田はぐんぐん前を走る選手を追い越して、ゴール直前に先頭を走っている人を追い抜いてトップでゴールテープを切った。 呆然と見ていたはそのときの清田の背中がとても印象的だった。 チビだと思っていたのに、それは大きく見えた。 にとって清田は自分のピンチを救ってくれたヒーローなのだ。 今でもあのときに見た背中は忘れられないものとなっている。 教室に入って椅子に座る。 は背が高いからいつも一番後ろの席で、今は窓際の列だ。 席替えのたびに「いいなー」と声を出して聞こえるように呟く女子とかいて、それは正直腹立たしい。 だったら、アンタわたしと代わってよ!! 声を上げて言いたい気持ちをグッと抑えて何事もなかったかのように教師に言われた席に着いていた。 そんな僻みもあっては学校に着くと自然と小さくなる。 実際は小さくなれないから姿勢悪く猫背となって少しでも小さく見せようとしているのだ。 予鈴前に慌しく教室に入ってくるのは朝練がある体育会系の部活に所属している人たちだ。 夏休みを過ぎた今、3年生が引退している部活が殆どで、レギュラーの座を狙いやすい..らしい。 体育会系は上下関係がとても厳しくて隙あらばとかって狙っていると先輩にしばかれるんじゃないかと思っていたが、それでもやぱりレギュラーはほしいものなのだろう。 しかし、それを考えると清田は実は凄い選手なのではないかと思ってしまう。 あの『常勝』という看板を背負っているバスケ部で1年生ながらにレギュラーを取ったのだから。 それも、3年が引退する前だ。 いや、確かバスケ部はまだ3年が引退していなかったような... みんなバスケが好きなんだなーと暢気に考えていると「よー」と声を掛けられた。 ガタガタと前の席の椅子を引いて清田が座る。 彼の席はそこではない。 「もう予鈴鳴ったよ」 がいうと「知ってらー」と返してきて「で、ホントに大丈夫だったのか?」と聞いてきた。 サルのクセに!! 「うん、昨日も言ったでしょ」 「そっか?何か、やっぱり顔色悪そうに見えたんだけどなー」と清田はそのまま自分の席に戻っていく。 コイツも変に敏いところがあって気が抜けなかったりする。 ああ、野生の勘か... 清田に向かって言えばまた口喧嘩が始まりそうなことを思いながらは窓の外を眺めた。 空が随分高くなったものだ。 そんな先ほどの会話と関係ないことを思いつつも、の口の端は少し緩んでいた。 何だか、ちょっと嬉しかった。 |
桜風
10.7.28
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