本日モ晴天ナリ 3












廊下の窓の外をボーっと眺めている女子生徒がいた。

「えーと、確か...」

自分の記憶の糸を一生懸命手繰ってみる。

「あ、そっか。名前は聞いてないや」

道理で思い出せないわけだ。

そう思いながら神は彼女に近付いた。

近付いたは良いけど、名前が分からないからなんて声を掛けたらいいのだろう。

しかし、そんな神の心配は丁度目に止まったもので解消された。

ちゃん?」

彼女は驚いたように勢いよく振り返る。

「あ、えーと..神先輩」

「あ、オレの名前、知ってるんだ?」

「わたしの友達が神先輩の大ファンです。けど、何で神先輩はわたしの名前を?」

首を傾げては神を見上げた。

そこでは目を丸くする。

「えーと、それ。ちゃんは書道なんだね」

芸術科目は選択制だ。

音楽、美術、書道があり、芸術の授業時間はそれぞれの特別教室で授業を受けることとなっている。

「あ、はい。歌は下手だし、ゲージュツにあまり興味がないので消去法で書道です」

はにかみながらが言う。

「オレも。絵とか得意じゃないし、楽器もそんなに上手じゃないからね。字だったら何とかなるんじゃないかなって」

苦笑しながら神が言った。

ちゃん..ごめん。苗字、聞いていいかな?」

「あ、ごめんなさい。です。です」

はそういいながら自分の持っている書道の教材を神に見せた。

先ほど神は隙間から『』という文字だけを見て彼女の名前だと判断した。

彼女がそれを友人から借りていたり、誰かのお下がりだった場合、別の名前の可能性があったのである意味賭けだった。

さんね」と確認するとが頷く。

「そういえば、いつも一緒にいる友達は?」

..って言うんですけど。彼女は音楽を選択しているんです。で、今日は試験があるからって、お昼を食べたらそのままダッシュで音楽室に行っちゃって...」

苦笑して言うに神も笑う。

「そうそう。音楽って小テストみたいなのが多いらしいね。けど、5時間目がそれってちょっと得だよね」

「ですよね。練習できる時間が他のクラスよりも長いってことですもんね」

くすくすと笑うが「そだ」と言って顔を上げて神を見上げる。

「あの、失礼ですけど。神先輩って身長いくつですか?」

「オレ?えーと、189だったなー。今はどうか分かんないけど。なに?」

「189!?」と声を上げては呆っと神を見上げている。

「な、なに...?」

「わたし、こうやって誰かを見上げて話をするって殆ど経験がないので。少なくとも、中学に上がってからは」

神はの言葉に納得した。

確かに、は背が高い方だな、と。

「ご両親も高いの?」

「いいえ。たぶん、両親の父親の隔世遺伝です」

と、いうことはつまり...

「ウチの両親も兄も背は平均よりも低いんですよね。わたしが幼いときに家を建てて、それが母のサイズに合わせて台所とか設計されたから今の家はわたしにとってはかなり窮屈なんです」

「お母さん、小さいの?」

「はい。150センチないって。父も165とか言っていたので...兄は頑張って170だとか言ってますけど、あれはサバ読んでますね。祖父たちがあの時代には珍しく180超えていたらしいので、隔世遺伝だろうってみんなに言われています」

なるほどなー、と神は納得した。


「けどさ、さん」

そう言って神はをじっと見た。

「背筋を伸ばしたほうがいいよ」

ぎくりとした。

「猫背で歩いていたらやっぱり見ていて綺麗じゃない。さんは女の子だから背が高いのがコンプレックスかもしれないけど...例えば、さんはファッション誌みたいなの買ったりする?」

「たまに、ですけど。正直、ここまで背が高いと買える服がなくて全く参考にならないという...」

「モデルさんもそれなりに背が高いよね?中にはさんくらいの人もいるんじゃない?」

『背が高い』というのはにとってある種の禁句だが、自分よりも背が高い人に言われるとそこまで響かないことを今発見した。

「いるでしょうねぇ」

「でも、カッコイイと思わない?」

「...思います」

「着ている服とかそのデザインとかもあると思うけど。でも、やっぱり『姿勢のよさ』ってのもカッコイイ要素の中に入っているはずだよ。地面を見下ろすよりも空を見上げた方が気持ちいいと思うな。ほら、今日みたいに天気がいいとなお更だ」

そう..かもしれない。

「自信なさそうに歩いているよりも、胸を張って歩いてみなよ。さんにはちょっとキツイ言い方になるかも知れなけど、背は簡単に縮まないんだから。猫背で姿勢悪く歩く背の高い子よりも背筋を伸ばして自信ありそうに歩いている子の方が魅力があるはずだよ」

「神先輩...」

が呆然と神の名を呼ぶ。

「ん?」

「『天然タラシ』って言葉、ご存知ですか?」

「ははっ、オレ、よくそういわれる」

笑って言う神には苦笑した。

ホントにこの人は怖ろしい人だったようだ。


神に言われたように窓の外の空を見上げた。

空は秋らしい澄み渡った青空だった。

確かに、こっちの方が気持ちいいや。は知らず笑顔になっていた。









桜風
10.8.4


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