| 「神さん!」 蒼い顔をして体育館に入ってきたに神は驚いて駆け寄る。 「どうしたの?あれ、さんは?」 「、自分よりでっかいのに慣れてないから...あたしが行ってもたぶんちょっとムリっぽいって思って...」 どういうことだろう、と悩んでいる神の横を誰かが駆け抜けた。 「あ、サル」 蒼い顔をしたままが呟いた。 「ノブ!?」 「こら!清田!!話はおわっとらんぞ!!」 清田の背に高頭の怒号が向けられるが、彼は振り返らずにそのまま体育館を出て行った。 「あー...えー...人待ち中なので」 と取り敢えず断ってみたが、聞き入れてもらえず、どうしたものかと心から悩んでいた。 「!」 振り返ると猛ダッシュで近付いて来る清田の姿が目に入る。 「ノブ?!」 男たちは自分たちよりも小さい清田を軽んじる笑みを浮かべた。 ひとりが清田の肩に手を掛ける。 公式戦が近い清田はそれに応じることが出来ない。 「助けてー!この人たちチカンでーす!!」 突然発せられたの大きな声がグラウンドに向かって伸びていく。 突然、身に覚えのないことを叫ばれてを囲っていた男たちは狼狽した。 教師たちが駆け寄り彼らを連れて行く。 清田も連れて行かれそうになったが、「その人は助けてくれた人です」とが説明した。 元々優等生の部類に入るは、そのオーラを発揮して他校の教師にも信頼されたようで、清田はそのまま連行されることなくその場に残ることが出来た。 「...なんか、されたのか?」 清田が言うと「ううん」とは首を振った。 「は?!」 「お母さんが前に教えてくれたの。『一応、言葉が通じそうな人が相手でただ、しつこいだけだったら周りの人たちに『チカン』って言ったらいいのよ。そしたら、慌てるから、その間に逃げちゃいなさい。足が速いんだし』って」 「それって、冤罪じゃん」 「一応、肩とか触られたし。だったらチカン成立でしょう?セクハラだって、不快に思ったら成立するんだから。あ、セクハラって言えばいいのか...」 なんでもなかったことのようにがそういう。 「...なんだよ、おれ要らなかったじゃんか」 頭を抱えるようにして清田はその場にうずくまる。 はその目の前でしゃがんだ。 「そうでもないよ」 ポツリと呟くを伺うように清田が見る。 「ありがとう」 の言葉に「おう」と清田はそっぽを向いて応えた。 駆け出した清田を心配して追いかけてきていた神たちもほっと胸をなでおろす。 暴力事件はまずいが、かといってを見捨てることなんて断じて出来ない。 というか、そんなことをしようものならが黙っていないと思う。 自分と同じ匂いがする後輩を見ながら神はそう思っていた。 後日聞いた話では、あのに絡んでいたのは先日引退したばかりのバスケ部の3年で後輩の練習試合を見に来たら中々素敵なお嬢さんを見つけて声を掛けたそうだ。 大人しそうに見えたのに、突然チカンの冤罪を叫ばれて酷い目にあったとのこと。 しかし、チカンではなくセクハラであったことをの証言で証明されたが、受験の大変な時期に何をしている、と教師に怒られてやっぱり酷い目は酷い目だったらしい。 「ったく、見る目があるのは認めてやるけど...」 ブツブツと呟くに 「いやぁ、びっくりしたけどねぇ」 とは大らかに応えている。 何事もなかったから大らかに応えられるのだ。 「しかし、あのときのサルは最速だったね」 からかうようにがを見上げた。 「んー...正直、驚いた」 目を細めてが言う。 あまりからかいすぎるのは良くないな、というのは神との同一見解で、もう2人にちょっかいを出すのはやめることにした。 「そうだ。今日、先帰ってね」とがいう。 「ん?何で?」 「職員室に呼ばれているから」 「委員会関係?」 の言葉にが頷いた。 「それなら仕方ない。今日はあたしも時間ないし」 そんな会話のあった放課後。 職員室に呼び出されたは用事を済ませて教室に戻る。 「...あれ、ノブ」 ああ、びっくりしたと思いながら声をかけた。 「おう」と不機嫌に何かに向かっている。 「何してるの?」 「再提出って言われたんだよ」 「ふーん」と言いながらその手元を覗き込む。 「あれ、数学?」 「この間の小テストの」 と清田が言う。 そんなにぼろぼろだったのか、とは呆れにも近い感情で感心した。 清田の前の席の椅子を引いて座った。 「ノブって推薦?」 「おう」 「スポーツ推薦でも、やっぱり最低限の成績は求められるもんなんだね」 感心したようにが言うと清田はグッと言葉に詰まった。 「って、神さんと仲良いんだよな」 机の上に広げているちっとも進まない数学の課題に視線を落としたまま清田が言う。 「仲、良いのかな?と神先輩のほうが仲が良さそうだけど...あ、でも。わたしの180センチ人生で初めて見上げて会話をした人だから。やっぱり感動したし」 「...そんだけか?」 「それ以外に何が??」 「...んじゃ、ちょっと時間掛かるだろーけど。オレ、お前を見下ろしてやるよ」 は目をぱちくりとした。 「低めでいいけど、この間みたいにヒールのあるブーツとか履きたいなー」 少し甘えた声でそういうと清田は顔を上げて少し複雑な表情を浮かべた。 「...ぐ、具体的に何センチくらいになるんだ?」 「たぶん、185くらい」 「...まかせろ!」 「無理しなくていいよ」 苦笑しながらが言う。 「ばか!神さんくらいになれば大丈夫ってことだろう?ヨユーだ!」 ムキになって返す清田には笑いを堪えてそれを悟られないように窓の外を見た。 見事な夕焼けが目に入る。 ―――本日も晴天なり。 |
桜風
10.9.1
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