しのぶれど 1






「あたし、花形のこと好きだよ」

そんな風に、隣の席のに告白されたのは1週間前のこと。

教室移動のため、一緒に歩いていたとき不意にそういわれた。

突然のことで反応しそこなった花形に、は何も言わなかった。



それから1週間、の態度は今までと何の変わりもない。

そんなに花形もアレは空耳だったのだろうかと思い始めていた。

窓から二列目の一番後ろが花形の席。

そして、の席はその隣で窓際の一番後ろ。俗に言う特等席だ。

はその特等席の生活を存分に味わっている。

面白くない授業では堂々と突っ伏して寝ているし、起きているときは窓の外に視線を向けている。

現在数学の授業中なのだが、ちらりとの様子を見ると、窓の外に手を振っていた。

花形もその長身を生かして窓の外を見る。

藤真のクラスが体育をしていた。

今日の授業は陸上らしく、競技を終えた藤真が手を振っている。

察するに、は藤真に応えて手を振ったのだろう。

藤真とは中学が一緒だったらしい。

そこで気が合い、お互いを親友と呼んでいる。

藤真は、この学校の女子による人気は絶大で、校外にもファンはいる。

そんな中で藤真と特定の女子が仲が良ければ色々と面倒なことになりそうだが、何故かの場合はそんなことにならない。

何故か、と言うが何となく分かる。

最初こそ、恋人同士なのではないかと疑われるものの、お互いが親友と言っているとおり、性別を感じさせない間柄の印象が強い。

実際、初めてと藤真が一緒に居るところを見た花形も2人は付き合っているのかと思ったほどだ。

が、他の者たちと同様に花形にも彼らの間にあるのは、男の友情に近いもののように見える。

そのため、周囲はに警戒しておらず、2人の友情も誰に邪魔されることなく続いている。


昼時間になれば、藤真が教室にやって来て3人で昼食をとる。

花形は弁当だが、は大抵コンビニでおにぎりやパンを購入してくるし、藤真は学食のときもあるが購買のパンであることが多い。

「藤真ってさ。そんなもんしか食べてないから、小さいんだよ」

が溜息混じりにそう言うと、

「なにを!?花形がでかすぎるんだ!!」

と藤真が花形を指さして反論する

相変わらず賑やかだな、と溜息を吐いた。

ふと藤真を見ると左手にだし巻き卵が。を見ると右手にから揚げが握られている。

自分の弁当箱を見るとその2つがない。

「相変わらず花形さんちの奥様のから揚げは絶品ですわ〜」

とから揚げを一口齧って幸せそうに呟く

「だよなー。お袋の味っていうかさ」

そう言って藤真ももぐもぐと口を動かす。

花形は再び自分のお弁当のおかずを狙った藤真の手をはたいてもう一度深い溜息を吐いた。


「相変わらず大変そうだな」

「今すぐ2児の父親になれるんじゃないか?」

食事が終わったバスケ部スタメンが揃った。

彼らは大抵自分の食事が終わるとこの教室へとやってくる。

「やんちゃ坊主だからな、2人とも」

またしても溜息。

何だか、自分は溜息ばかり吐いているような気がしてきた。

「ん?花形は俺の父ちゃんになりたいのか?」

「パパって呼んでいい??」

2人のやんちゃ坊主が楽しそうにからかってくる。

「だめだろう、。お前が花形を『パパ』って呼んだら別の意味を含んでいるように聞こえるぞ」

そう言って藤真が笑う。

「そ、そうか。それはダメだよ。あたしって結構純情なんだから!」

そう言ってダン、と机を叩いた。

『純情』と言う単語を耳にして、花形の脳裏に1週間前のあのの言葉が甦る。

しかし、目の前ののいつもと何も変わらない態度に少しだけ苛立ちを覚える。

ちなみに、藤真はの口にした『純情』という言葉にお腹を抱えて笑っていた。

ちょっとムカつく。

ひとしきり笑い終わったあと、藤真は立ち上がる。

「じゃあ、先に行っとくから」

そう言ってジュースのパックをゴミ箱に放って教室を出た。

バスケ部は昼休憩も体育館でボールを触っている。

練習と言うには、着替えないし少し違う気がしていてその単語は使わないが、結局は練習のようなものだ。


花形も弁当を急いで食べ終わった。

目の前のはのんびりと食事を続けている。

は?」

「間に合ったら見に行く」

その答えを聞いて花形は立ち上がり、教室をあとにした。

は花形と自分の合わせていた机を元に戻して窓の外を眺めた。

体育館への渡り廊下を見ていると、花形が走って体育館へと向かっていた。

は頬杖をついて溜息を漏らした。









桜風
08.9.3


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