しのぶれど 2





「悪い、忘れ物した」

「早く戻って来いよー!」

部室に忘れ物をしたことに気がついた花形は休憩時間に部室へと向かう。

体育館から運動部の部室棟までそんなに距離があるわけではない。

自分のロッカーを開けて忘れ物を取り出し、再びロッカーを閉めたときに外からの声に気がつく。

バスケ部の部室は2階にあるため、窓を開け放していることが多い。

「あの、さ。だから、

「うん、ごめん。あたしには好きな人がいるから」

相手の言葉を最後まで聞かないでが言葉を発した。相手がだというコトに少なからず驚いた。

「や、でも。藤真とは友達なんだろう?」

「藤真!?うん、アイツは親友だよ。てか、あたしの好きな人って藤真じゃないから」

「え、じゃあ...」

相手が聞きだそうとしているところに、ガチャリと音がした。

外の会話に集中していたため、花形にとってその音は酷く大きく聞こえ、鼓動がひとつ大きくなる。

「まだかー?忘れ物がなんだったか忘れたのか?オイオイ、ボケるにはまだ早いぞ」

勝手にそう言うのは藤真で、花形は自分の呼吸を落ち着けるために大きく息を吐いた。

「いや、見つかった。戻ろう」

結局、あのと誰かの会話は最後まで聞くことは出来ず、それでほっとしている自分に多少戸惑いを覚えた。


部室棟の裏に呼び出されたは溜息を吐いた。

なんだってあんなところに...

しかし、相手がテニス部らしいからそこが一番良いと思ったんだろう。

少し遅れて彼はやってきた。

来てすぐに遅れたことを謝罪し、

が好きなんだ。付き合ってほしい」

とストレートに告白された。

少し、嬉しく感じたけど、それでも自分はこの彼と付き合えない。そう思った。

彼は俯いたままの

「あの、さ。だから、

ともう一度言葉を重ねた。

は彼に申し訳なく思いながら最後まで言葉を言わせないように

「うん、ごめん。あたしには好きな人がいるから」

そう言った。

「や、でも。藤真とは友達なんだろう?」

「藤真!?うん、アイツは親友だよ。てか、あたしの好きな人って藤真じゃないから」

「え、じゃあ...」

答える気がないは彼を風景のひとつとしてボーっと眺めていた。

不意に上のほうから声がした。藤真だ。

誰かが一緒にいるらしい。

誰だったとしても、何となくイヤだなって思った。

「なあ、?」

「ああ、うん。ごめん。それは、言いたくないんだ。本当に、ごめん」

が頭を下げると彼は慌てて

「や。こっちこそ。来てくれてありがとう」

そう言って泣きそうな笑みを浮かべた。

「ごめんね、ありがとう」

はそう言ってその場を去った。

少し、胸が痛んだ。

自分は花形にこんな思いをさせてしまうところだったのだと思い、少しだけ後悔した。


振り返ると体育館からバスケットボールの弾む音と歓声が聞こえる。

は放課後の練習は見に行ったことがない。

ギャラリーの数が凄いから。

どうせ行っても心置きなく見学なんて出来るはずがない。

でも、そのときは気まぐれに体育館へと足を向けた。

体育館の外の人の隙間から見えるだけの視界で練習風景を眺めた。

汗だくの友人たちは、いつも自分と話している彼らとは別人のように見えた。

「見に来なかったら良かったかも...」

俯いてそう呟いき、踵を返した。


「あぶない!」

そう声が聞こえて顔を上げると後頭部に予想外の衝撃が走る。

はつんのめって膝と両手を地面についた。

「大丈夫か!?」

真っ先に体育館から出てきたのは藤真で、続いて他の部員たちも出てくる。

「お、。珍しいな、お前が見学なんて」

だと分かると世間話を始める藤真を軽く睨んで

「てか、先に言うことない??」

後頭部を抑えながら体を起こす。

どうやら、誰かのパスが暴投となったらしく、それが体育館の外へとまっしぐら。

ちゃんとその様子を見ていた他の見学者は避けることが出来たけど、は背中を向けていたからそんな小器用な真似は出来ずに見事にヒットしてしまったらしい。

「悪い悪い。でもな、パスミスは花形だ。文句はあいつに言え」

藤真は花形を指さした。

心配そうに近づいてくる花形に

「痛い」

と文句を言ってみた。

「わ、悪い。大丈夫か、頭」

慌てて花形がそう言ったが、藤真はお腹を抱えて笑い始める。

「あのさ。今の言い方。ニュアンス間違ったら凄く失礼な言葉だよね」

半眼になってそう言うと、

「や。そうじゃなくて。気分が悪いとか、コブが出来たとか」

花形がそう訂正する。

「別に、気分は悪くないよ。コブだって冷やせばすぐに引くから」

そう言って膝の砂を払って立ち上がる。

「え、コブが出来たのか!?」

慌てて花形がの後頭部に大きな手をそっと当てた。

の心臓が跳ねる。

「だ、大丈夫だって。意外と丈夫に産んでもらえてるんだから!」

そう言ってぱっと振り返る。

何処となく頬に朱が差している気もするが、「そ、そうか...」と花形はの頭に触れている手を下ろした。

「じゃあ、帰るから」

そう言って軽く手を振っては体育館から離れていく。

「えー。最後まで居ればいいじゃん。花形がお詫びにってマック奢ってくれるぞ」

藤真がそう言うと、

「用事があるの!練習頑張って!!」

顔だけ振り返っては再び手を振って去っていった。








桜風
08.9.10


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