しのぶれど 6





2時間目の終了のチャイムが鳴る頃、は立ち上がる。

?」

「教室に戻る」

「大丈夫か?」

隣は花形だろう?という言葉までは口にしないものの、心配そうに見上げる藤真に笑顔で

「大丈夫」

と答えたはやはり見ていて痛々しい。

が、自分で戻ると決めたことだからと藤真も引き止めることなく、自分の教室に向かった。


3時間目は教室移動だった。

鞄を持ったまま、はそこへと向かう。

途中、8日前に花形に想いを打ち明けた場所を通り、泣きそうになる。

もう、なかった事なんだから...

自分に言い聞かせて足早に向かった。

席はそのまま教室のとおりだが、隣の席は向かい合う形にななる。

鞄を床に置いては座った。

花形はその後に教室に入ってくる。

。1時間目と2時間目のノート、後で貸してやるから」

数時間前だったら嬉しいと思ったこのことが、今はそんな感じがしない。

きっと花形の声に温度がないこともその要因のひとつだろう。

だから、

「や、いいよ。ありがとう」

思わず断っていた。

「ああ、藤真に見せてもらえばいいもんな」

「ちがッ!」

反射的に否定しかけて止まった。ムキになって言っても、信じてもらえそうにない。

「違う、よ。藤真とはそんなんじゃないから...」

搾り出すようには言う。

そんなの表情を見て、花形も胸が痛んだ。

向かい合わせに座る今の状況を凄く居心地が悪いものに感じた。


昼時間も「あたし、今日は学食だから」とは教室から出て行った。

少しして藤真がやって来て「あれ?」と首を傾げる。

は?」

「学食だと」

そう言って黙々と弁当を食している花形の前にどかっと座る。

「一応、言っとくけど。誤解だからな」

「...何の話だ?」

「分かってんだろう?掲示板のアレだよ。タチの悪いイタズラだ」

「別に。俺には関係のない話だろう?お似合いじゃないか。普段から仲が良いし」

そう言った花形の箸が不意に止まった。

今日の弁当はから揚げを多めに入れてもらった。母親に頼むときにの笑顔が思い浮かんだ。

乱暴にから揚げを口に放り込む。

藤真はこれ見よがしに大きく溜息を吐いた。

「ガキ」

藤真の一言に、花形の箸が止まり、

「何か言ったか...?」

と藤真を睨みつける。

「だから、ガキだって言ったんだよ。いつまで拗ねてんだよ」

「誰が、いつ拗ねてるって言うんだ?」

「花形が、今現在ガキのように拗ね捲くってるって言ってるんだ」

「何だと!?」

ガタン、と花形が椅子を蹴って立ち上がる。

負けじと藤真も立ち上がる。椅子の上に。お陰で少しだけ藤真の方が背が高くなった。


「お、おい。ちょっと待てって」

いつものように花形たちの教室へとやってきたバスケ部3人が間に入る。

「何やってんだよ。何が原因だよ」

下から見上げるチームメイトの視線が少し痛い。

「や、ごめん」

藤真は大人しく椅子から降りた。

花形は相変わらず立ったままで藤真を見下ろしている。

購買で購入したパンの袋と飲みかけのジュースを持って教室を出た。

教室を出たところで、食事を終えて戻ってきたの姿を目にする。

「藤真...?」

小走りで寄ってくる。

「どうしたの?何か、あった?」

「いや。...ごめんな、。俺、案外下手だ」

辛そうに顔を歪めて藤真が呟いた。

「え?どういうこと、藤真?」

は聞き返したが、何も答えずに藤真は走っていった。

教室の中を覗けば、バスケ部が揃っていた。

ふと振り返った長谷川と目が合う。

はドアの影から手招きをした。

「何、どうしたの?」

ドアのところまでやって来た長谷川に聞くと

「俺たちが来た時には、藤真と花形が険悪だったんだ。理由を聞いたら藤真が謝って教室を出て行った」

という。

は瞑目して深く息を吐く。

「長谷川、藤真に伝言お願いできる?」

「自分で言った方が良くないか?」

「ううん、お願い。『あたしのことは大丈夫だから。これ以上花形とこじれるのは良くないよ』って言ってくれる?あと、『心配してくれてありがとう』って。お願いしても良い?」

「分かった」

長谷川が頷いた。一度皆の元へと戻って体育館へと向かう。

「おう、

教室の入り口でと擦れ違った高野が声を掛けてくる。

は片手を上げて答えて教室に入った。

は、どうする?」

いつものように、まるでそれを聞くことが義務であるかのように花形が聞いてくる。

「ううん、いいよ。ありがとう」

の返事を聞いて「そうか」と呟き、花形は教室を出た。

は酷く悲しそうに笑っていた。

その表情を見た花形の胸が締め付けられる感覚に陥り、ワケの分からない苛立ちを覚えた。








桜風
08.10.8


ブラウザバックでお戻りください