| 「はい、これ地図な。乗り換えもちゃんと書いてあるから」 そう言って藤真から1枚の紙を渡された。 翔陽高校のIH予選の緒戦の会場への地図だ。 は藤真の試合は全て見に行っている。別に藤真が好きだからそう言うのではない。 中学のとき、仲良くなりたての頃試合があるから来ないかと誘われた。 御丁寧にも試合会場への地図を渡されては律儀にその会場へと向かった。 練習試合でよその学校だったのだが、たちの学区からは交通の便が悪い。 が、折角乗換えまで書いてくれているのだから、と何回もの乗り継ぎを経てその会場へとたどり着いた。 行ったときにはもう試合が終わっていてバスケ部は帰るところだったらしいが、何本もの乗り継ぎをしてまで応援に来ようとしてくれた事に藤真はとても喜んだ。 以来、彼はどんなに遠くてもその会場までの地図と乗換えを調べてに渡すようになっていた。 さすがに、全国大会の応援にまでは行ってない。経済的負担が大きすぎる。 そこは藤真も理解しているが、それでも何故か最寄り駅からの道のりを案内してくれていた。 今回もその流れでのことだ。 「そういえば、今年のIHは広島でしょう?親戚がいるから交通費だけで済むし。行けそうだよ」 がそう言うと 「そうかー、は広島に行ってまで俺のカッコイイ姿を見たいのか」 と頷きながらそう言う。 「やっぱやめた」 そう言うと藤真は笑う。 「まあ、とにかく予選だけは来てくれよ。全国の話はその後でも遅くないし」 と言っての肩をポン、と叩いた。 「りょーかい」 は受け取った紙をヒラヒラと振った。 翔陽緒戦の日。 は何故か朝早く目が覚めた。何だかドキドキする。 バスケ部の試合なのに、何故自分がこんなにもドキドキしているのかと呆れた。 今日の会場は交通の便がよく、余裕を持って到着することが出来た。 しかし、会場の中、スタンドの前の方はすでに翔陽のベンチに入りきらなかった部員で満員となっている。 仕方なく、後ろの方の空いている席に座った。 IH予選の試合を初戦から見ていた花形が言っていた。湘北は勢いがつくと止めるのが難しいらしい。 藤真は全国区の選手だけど、今年は監督も兼任している。 そこらへんの詳しい事情は知らないし、藤真たちもあまり言いたくないことみたいだから態々聞き出そうとも思わない。 だけど、藤真の居ない翔陽はただの強豪チームらしい。 つまり、今コートの中でプレイしている5人はまだまだ本当の翔陽ではないということ。 前に花形がそう言っていた。 藤真だけでここまで評価が、チームが変わるって凄いと思う。 確かに、コートに立ってる藤真は昔から凄かった。 普段があんななだけに、そのギャップに文句が言いたくなる。 そんなことを思いながら試合を見守っていた。 後半、湘北に逆転される。 藤真が出てきた。 つまり、此処からが真の翔陽ということだ。 だが、後半残り2分弱で翔陽が逆転され、そのまま点が取れずに試合終了のブザーがコートに鳴り響いた。 試合が終わったあと、は暫く呆然としていた。 あの藤真が涙を流した。花形も。 俄かに信じられないその光景をどこか他人事のような思いで眺めていた。 時計を見ると、いつの間にか時間が進んでいたらしい。 重い足取りで体育館を後にした。 すぐに家に帰る気になれずに体育館の植え込みの側に腰掛けた。 どれくらいそうしていたか分からない。 日が傾いた頃、 「あれ??」 聞き覚えのある声がして顔を上げた。 ぞろぞろと長身集団が歩いてくる。翔陽バスケ部3年の5人だ。 「何だ?俺を待ってたのか?」 いつもの調子で藤真がそう言う。 「んなワケないでしょ!」ともいつもの調子で返そうとしたが、失敗した。 赤く腫れた藤真の目を見てしまい、逆に泣きそうになる。 此処で泣いたらいけないと思ったは背を向けて走り出した。 「な!?おい、コラ!!!」 藤真の声が聞こえたが、そのまま聞こえないフリをして走った。 一方残された藤真たちはお互いが顔を見合わせていた。 「花形、バッグ貸せ」 と藤真が言って花形のバッグを受け取り、 「今度はお前が行け!」 そう言って彼のお尻を叩いた。 一瞬面食らった花形だったが、そのままの走り去った方へと向かって行った。 |
桜風
08.10.29
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