シタゴコロ 10





放課後、部活に行こうと思ったら教室の入り口に宮益の姿を見て牧は足早にそちらに向かった。

「おう、宮。久しぶりだな」

そう声を掛けると「ああ、良かった。まだいた」と言われて彼の用事が自分にあることを知る。

「どうした?」

「うん、最近ってどうかな?」

『どうかな?』と聞かれても良く分からないのが正直なところだ。

彼女は自分の常識から少し外れているところにいるイメージがある。

悪い意味でも、いい意味でもなくそう思っている。

がどうかしたのか?」

「今日の昼休憩に久しぶりに話をしたんだけど、何か物凄く落ち込んでてね。部活中に何かあったのかと思って...」

そういわれて昨日のを思い出す。

いつもどおりだったような気がする。

清田と騒いでたし、神と話し込んでいたし。忙しそうに駆け回っていたし...

牧が首を振ると「そうか。じゃあ、俺の気のせいかも」と宮益は呟く。

「ごめん、部活前に。じゃ、俺行くわ」

そう言って宮益は玄関に向かっていった。

そういえば、塾に通っていると聞いたな...


、どこか調子が悪いのか?」

休憩時間にに声を掛けてみた。

「へ?」とがきょとんとする。

いつもどおりの反応と表情だ。

「え、いや。何かおかしかったですか?」

は大抵『おかしい』ぞ」と武藤が茶々を入れ、「武藤さんに言われたくないです!」とが反論している。

確かに、いつもどおりだ。

「いや、特に無いならいいんだ」と言って牧はその場から離れた。

と武藤はまだ口げんかをしている。

これも結構目にする光景だ。

「どうかしたんですか?」

声を掛けられて牧は隣に立った人物に目を向けた。

「ああ、神か。いや、さっき宮がクラスに来ての様子がおかしかったって言ったからな。何かあったのかと思って聞いてみたんだ」

牧の言葉を聞いてを見た神が「いつもどおりですよね、あれ」と呟く。

「だな。宮も気のせいだったかもしれないって言ってたからそうなのかもしれん」

少し安心した口調で牧が言う。

そんな牧の様子に神はそっと溜息を吐いた。


「宮さんと何の話をしたの?」

全体練習が終わって神がこっそりに声をかけた。

「ん?宮益さん?」

「そ。話したんじゃないの?」

「ああ、うん。お元気そうだったよ」

「それは良かった。で?」

「えーと、進路の話?」

疑問系で答える

そういえば、先日そんな話をとしたことを神は思い出す。

「何か、気になることでもあるの?自分が行ける大学を調べるのが面倒になったとか?意外とあると思うよ。学費は高いだろうけど」

「...神はわたしを慰めてるの?突き落としてるの??」

「思ったことを何の配慮なしに口にしてるだけ」

だろうね、とは心の中で納得した。

「わたしは、神や宮益さんみたいにやりたいことのビジョンが無いな、って思って。ここに入ったのは、神も知ってのとおり執念だけど。これ以上、何かあるわけでもなく...」

「また追いかければ良いだろう?」

「いつまで追いかけるのよ、ムリ。いつか辞めなきゃいけないなら、大学進学が良い機会だと思うの。けど、じゃあ、自分が何をしたいのかって考えたら全く思いつかないから焦ってね」

苦笑してそう話すに、そろそろ進路希望調査があるということを思い出した。

2年の今の時期に出すものは教師もぴりぴりしながら目を通すと以前先輩達が言っていた。

ポンとの頭の上に手が乗る。

「ま、とりあえず大学進学をするってのもひとつの手だよ。その中で決める人だって少なくないみたいだし。

やりたいことがあっても諦めなきゃいけない人もいるんだし、色々だろう?」

神が言う。


「わ!」と別のところから声がした。

振り返ると清田だ。

「す..すんません!」

と神は顔を見合わせて「何が?」と神が代表して聞いた。

「あの..神さんと先輩が付き合ってるのってみんな知らないんスよね?」

恐る恐る言われた。

「ああ、うん」と頷く神に「わたしも知らなかった」とが言う。

「俺も」と神。

「へ?」

「やっだー、清田くん。わたし、この腹黒ノッポとお付き合いなんて出来ないって。長生きしたいもん」

「俺だって、こんな色々残念な女の子と付き合うのはちょっと...遠慮したいかな?」

笑顔で爽やかに2人が言う。

しかも、お互いの言葉に文句は無いようで「ねー?」「なあ?」と顔を見合わせて頷いている。

「違うんスか?」

「うん、違う」と

「俺とは幼馴染だろう?それで、おばさんとかに『面倒見てね』って頼まれてるから面倒を見てるだけ」と神。

その点については文句が言いたそうだが、どちらかといえば面倒を見てもらってばかりなので抗議ができない。

「なーんだ...」

力が抜けたように清田が言う。

「おう、こんなところにいたのか」とまた別の声が加わる。

「牧さん!」と清田が駆け寄った。

「じゃ、あんまり悩むなよ。それでなくとも、そんなことに割いている脳みそないだろう?」

酷いことを言い置いて神は体育館へと向かっていった。

「清田、ダメだぞ。ウチの次期キャプテンとマネージャーの恋路を邪魔したら」

笑いながら武藤が言う。

「ははっ、武藤さん。そういうデマ流すの辞めてくださいね?色々と面倒ですから」

薄ら寒くなる笑顔で神がそう言い、「すみません」と武藤が小さくなる。

「...なんだ、違うのか?」

牧に言われて神は目を丸くした。

「ええ、違いますよ。あいつは俺の手に余ります」

そう言ってゴール下に向かっていく神の背中を見送りながら「そうか」と牧は呟いた。









桜風
11.6.22


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