| 数日前に牧と心を通わせたは絶好調だった。 3年は登校する必要が無いが、牧は3日に1度くらいの頻度で学校に来て、図書館で勉強をしている。 勉強は、口実でに会いに来ていたのだ。 その事実も彼女を絶好調にする要因のひとつでもある。 「あ、牧さん」 校内で偶然彼に出会った神が声をかけた。 牧は振り返って「ああ、神か」と足を止める。 「結構ちょくちょく学校に来てるって聞きましたよ」 「か」 苦笑して牧が言う。 神は眉を上げた。 「名前で呼ばないんですか?」 少しだけからかいを入れて言うと牧は苦笑した。 「2年も『』って呼んでるとな、中々...」 「でも、出来なくもないですよ。俺があいつを名前で呼ばなくなったのって高校に上がるときがきっかけでしたから。それまでの十数年はずっと『』って呼んでたんです」 「きっかけがあったならいいだろう」 「牧さんたちこそあるじゃないですか」 にやっと笑う。 「ま、まあ...」 少し気恥ずかしいのか、牧が言葉を濁す。 「、絶対に喜びますよ。あ、気絶したらちゃんと家まで運んでくださいね。俺、回収には行きませんよ」 神はそういい、「たまには、部活に顔を出してください」と言って去って行った。 「名前、か...」 呟いて頭を掻く。 「...」 口に出してみたが、自分がかなり恥ずかしい。 「もうちょっと先だ」 苦笑して図書館へと向かった。 放課後、体育館に行くとが部活の準備をしていた。 「」 神が声をかけると「なに?」と振り返る。 「牧さん、名前で呼んでみたら?」 何気なく言ってみた。 「は..はあ??!!!」 盛大に驚かれた。 「なに、その反応」 「いやいや、恐れ多い」 の反応に神は盛大な溜息を吐いた。 「彼氏に恐れ多いも何も...」 「かかか..彼氏?!」 「...違うの?」 呆れながら神が言う。 「違わない。夢じゃないなら!」 「...ってたまにウザイね」 「あ、久しぶり」 は笑った。 「は?」 神が目を丸くする。 「学校で宗一郎がわたしを名前で呼ぶの」 彼女も名前を呼んで返す。 「あー、そうだね。と俺が付き合ってるって牧さんに勘違いされたら可愛そうだって思ったからね」 「わー、優しい」 「そうじゃなかったら、中学のときみたいにしてたよ」 「わー、迷惑」 彼女は笑った。 中学のときから出来のよろしい頭と、運動神経のよさ、整った外見、そして生来持って生まれた気の利く性格のお陰で彼を狩ろうとしていた女子が虎視眈々と狙っていた。 そこで、幼馴染のを利用していた。 出来のよろしくないの面倒を見る神に、「優しい」という評価がさらにプラスされたが、何だか割って入ることが出来ない雰囲気だったので、彼女たちは遠巻きに神とを見守っていた。 が振られるのも時間の問題だと思っていたのに、結局彼女は振られずに中学を卒業した。 振られるはずも無い。付き合ってもいないのだから。 ただ、そういった経緯のあるお陰で、はたまに女子に辛く当たられたりした。 しかし、は「迷惑だなー」くらいしか思っておらず、一応神も気にしていたので大ごとにはならなかったのだ。 牧の事がなければ、高校でもそれをしようと思っていた神だったがそもそも、牧がいなかったらはこの学校に入学していない。出来ていない。 「人間の執念って本当に凄いね」 マジマジと自分を見ながら言う神に「は?」とは返す。 「を見てたらつくづく思う」 神はそう言って話を切り上げ、練習前のストレッチに入った。 「何だ、あれ...」 は首を傾げて呟き、気を取り直して準備の続きに取り掛かった。 |
桜風
12.11.28
ブラウザバックでお戻りください