| 神に言われたから、と言うわけではないが牧は久しぶりに体育館に顔を出した。 久しぶりと言ってもさほど時間は経っていない気がする。 「お久しぶりです」 体育館入り口で監督に声をかけると「おー、久しぶりだな」と返された。 「少し、体を動かしたいのですが。いいでしょうか」 「おう、ついでに指導をしてくれ」 バッシュも着替えもいつも持ってきていた。 ただ、せっかくバスケ部が新体制になったのに、古い自分が顔を出すことで神の邪魔をしてはいけないと思ったのだ。 自分が体育館にいたら、神はきっと遠慮するだろうし。 体育館の中を見渡すと、が神と話をしている。 彼女が持っているノートを指差して何かを話しているということは、部活の関係の話なのだろうが... (面白くないな) 案外自分は心が狭いらしい。 とりあえず、今胸につかえている気持ちを吐き出すように深く息を吐く。 話が終わったのかはパタパタと駆けながら体育館を出て行った。 「あれ、牧さん」 神が気付いて声をかける。 「ああ、覗いてみることにした。邪魔をするぞ」 「邪魔だなんて」 そう言って振り返った。 もうの姿は無い。 「すぐに戻ってくると思いますよ」 心持ち、小声で言うと牧は少しバツが悪そうに「ああ」と頷いた。 自分がキャプテンをしていたときも彼女とああして話をしていたから、必要なことだというのは分かっているが、どうにも厄介なことだ。 練習に参加していると、戻ってきたが牧の姿を見て、固まった。 それは一瞬のことであったので、殆ど気付かなかったが、牧は気付いたし、神だって気づいた。 2人は同時に溜息を吐いた。 「全く、のやつ...」 神が呟き、それが耳に入って牧は思わず彼を見た。 「なんですか?」 「あ、いや。名前で呼ぶようにしたのか?」 なんともみっともない、と思いながら牧が問うと 「ああ。名前で呼んでましたか?すみません」 と神は謝罪する。 「いや、それは別に...付き合いの長さなら神の方が上だ」 謝罪されたら益々居た堪れない。 「俺が..を苗字で呼ぶようにしたのは高校入学がきっかけって話をしましたよね」 「ああ」と牧が頷く。 「あれ、牧さんに誤解されないためだったんです」 「は?」 牧はきょとんとした。 「、死ぬ気で勉強してこの学校に入ったのって牧さんに会うためだったんです。その牧さんに俺と付き合ってるとか誤解されたら、、死んでも死に切れないと思ったので」 イタズラっぽく笑って神が言う。 「そう..だったのか」 「ええ。今はもう誤解のされようがないと思ったので、うっかりですね。すみません」 苦笑して神が言い 「あ、いや...」 牧がそう返す。 練習が終わり、牧は着替えてを待っていた。 さすがに、後輩たちの居残り練習に混じっているのは、彼らの邪魔になると思い、遠慮していたのだ。 彼女は全体練習が終わってから片づけをするため、少し遅くなる。 「牧さん」 名前を呼ばれて振り返ると急いでやってきたとわかるが立っていた。 「慌てなくても良かったんだぞ」 牧が言うと 「牧さんを待たせるわけには行きません」 と彼女が言う。 どうしても距離を感じてしまう。 彼女にとって自分は憧れのままで、中々隣に、対等にというわけにはいかないらしい。 ただの先輩後輩だったときは特に気にしなかったが、恋人と言う関係になると少し寂しいものだ。 「」 「はい!」 「俺はお前を待つのはイヤじゃないぞ?」 「ありがとうございます」 (うーん、強敵だな...) 元々、彼女と思いを通わせたときに手が掛かりそうだとは思った。 だから、手が掛かるくらいは気にならない。 だが、彼女は牧が手をかけないでいいように気を使いすぎている。 (どうしたもんか...) 彼氏がそんな悩みを抱えているとも知らず、は今も気合を入れて牧の隣を歩いていた。 |
桜風
12.12.5
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