| 「寒いか?」 帰りながら手袋を嵌めた手を合わせて息を吐きかけているを見て牧が問う。 「え、あ。大丈夫です!」 慌てて顔の前に持ってきていた手を下ろしたの手を牧が取る。 「俺は寒い」 (わー、わー...) は俯いた。 「...イヤだったか?」 そう言って牧が手を離そうとすると 「イヤじゃないです!」 と言ってはその手をギュッと握る。 「あ、ああ。そうか...」 勢いに押されて牧はそう返した。 「は...」 「はい」 「俺といて楽しいのか?」 ずっと緊張しているようだ。 それは、果たして楽しいのだろうか。 しかし、牧は自分が口に出した疑問に困る。 これで頷かれたらどうしたらいいのか。 彼女が望むなら、今の関係を無かったことにして... (それは、イヤだな) ピタリと足を止めたに合わせて牧が足を止める。 「どうした?」 「牧さんは、私といて楽しくないのでしょうか」 「あ、いや。そういうわけでもないが。、俺といるといつも緊張しているだろう?楽しくないのかな、って」 「緊張はしますよ!だって、牧さんに憧れて周囲全部の反対を押し切って海南に入ったんですよ。牧さんは私の人生を変えたと言っても過言じゃないんです!そんな人と一緒に歩いて緊張しないとか...私、一応それなりに人の心を持ち合わせています」 捲し立てられて牧は思わず「すまん」と謝る。 「緊張、しちゃダメですか?頑張って緊張しないようにします!!」 そう宣言した後、「ダメですか?」と不安そうに見上げられて牧は苦笑した。 「いや、ダメじゃない。が、頑張らなくてもいい」 そう言ってゆっくりと足を進める。 の歩きやすい早さだ。 牧と歩いていて大変だと思ったことがない。牧との身長差だったらそういうことだってあるかもしれない。 あの神でさえ、たまに置いてけぼりをする。 それなのに、牧と一緒に歩いていてそうなったことが無い。 「わたし、牧さんと歩くの好きです」 不意にそういわれて牧は困った。もう少し..もっと一緒にいたくなる。 「そうか」 とやっとの思いで静かに返すと、は俯いた。 そうなってしまうと、牧にはその表情が見えない。少し心配になった牧が 「?」 と名を呼ぶ。 「はい?」 顔を上げたはいつもの表情で、牧はホッと息を吐いた。 は、送るのは駅までで良いといつも断る。 牧が帰るのが遅くなるからというのが理由らしいが、夜、自分の恋人が暗い道を歩いて帰ることが心配にならないはずがない。 駅の前で押し問答を繰り返して、結局牧が折れる。 ただ、気に入らないのは彼女が「神を呼ぶから」というのだ。 これでは付き合う前と何ひとつ変わっていない。神の方が彼女に近いではないか。 そう思ったが、駄々を捏ねるみたいでカッコ悪いと思ってしまう牧は「そうか」と引き下がってしまう。 その日もいつもどおり押し問答をして結局牧が引き下がった。 「そういえば、。今度の休みも練習あるよな?」 「いえ、体育館の点検が入っているので」 大抵、体育館の点検は、全国大会に行っている間にするのだが、どうも今回は珍しく今の時期である。 どの道、近々休養日をと思っていたところでの体育館の点検なので、予定を早めての休養日となった。 「そうか、都合が良いな」 休日の部活は午前だけで終わることがあるから、午後からでもと思っていた。 だが、丸一日空くと言うのだ。 「何かあるんですか?」 が問うと 「出かけないか?」 と牧が言う。 「へ?」 「もう用事が入っているのか?」 「全然!ノープランです!!」 の勢いに押されて牧は思わず仰け反る。 「だったら、水族館にでも行かないか?」 何処がいいかと考えた。 ただ、冬にずっと外は寒いだろう。 だから、水族館。も好きそうだ。 「行きたいです!」 「それは良かった」 牧が笑う。 (わわ...) まっすぐその笑顔を目にしたは俯く。 「どうかしたか?」 「だ、大丈夫です!」 ぐっと拳を握って彼女が言う。 「そうか?」 コクコクと頷き、 「はい!」 と彼女が笑った。 「そうか」 自然と牧の表情も柔らかくなった。 |
桜風
12.12.12
ブラウザバックでお戻りください