| 最寄り駅から自宅に向かってダッシュだ。 が、途中寄り道をした。 インターホンを何度か連打すると神の母親が出てきた。 「あら、どうしたの?」 「こんばんは、宗一郎帰ってきてる?」 「まだよ。帰ってきたら行くように言うわ」 「ありがとう!」 頬を上気させ、彼女はそう言う。 (何か嬉しいことがあったのねー) 神の母親は慣れたもんでニコニコと彼女を見送った。 のあんな表情は、そう、高校受験に合格したとき以来かも知れない。 「宗一郎も大変ねー」 年を重ねるごとに大人びてくる息子は 「同じ年とは思えないんだよね。妹、妹だよって」 と苦笑して話したことがある。 確かに、とその話を聞いて神の母親も苦笑した。 子供っぽいところがある。でも、それが甘ったれな感じがしない。 ただ、純粋なだけなのだろう。 だから神も付き合ってやっているはずだ。 彼は甘ったれは好きではない。 自宅のインターホンが鳴り、は玄関に向かった。 ドアを開けると 「なに?」 と少しだけ迷惑そうな神が立っていた。 「おかえり!」 「え、ああ。ただいま。お邪魔します」 苦笑してそういい、神はの家に上がる。 「あら、宗ちゃん。いらっしゃい」 の母親が声をかけてきた。 「お邪魔します」 「どうしたの?」 「さっき、がウチにピンポン連打したらしいので」 「あらあら。ごめんなさいね」 「慣れてます」 苦笑して神が言う。 「宗一郎ー」 既に自室に戻ったが声をかける。 「ごめんね」 「いいえ」 の母親とそんな会話をして、神はの部屋に向かった。 部屋の入り口で足を止める。 「入って」 「...やだ」 「何で!」 さすがに、幼馴染とはいえ、一応お年頃の女の子の部屋に入るのは何だかマナーとしてどうだろうと思うのだ。 しかも、彼女は恋人がいて、その恋人は自分の尊敬する先輩。 一応解けたとはいえ、彼は昔自分がと付き合っているのだと思っていたのだ。 その誤解を自然に解くようにとなるべく距離を置いていたのに、彼女はそんなことお構いなかった。 「いいから。っていうか、普通さ。彼氏が出来たら幼馴染でも男を部屋に入れないよ」 「そうなの?!」 が頓狂な声を上げた。 「少なくとも、俺だったらヤだし」 「なにが?」 「幼馴染でも、自分の彼女の家に男が遊びに行くの」 そう言って神は眉間に皺を寄せる。 「牧さんに俺の話してないよね?」 「『俺の話』って?」 神は溜息を吐く。 誤解は解けたはずだが、どうやら不愉快な思いはさせているかもしれない。 「宗ちゃん」 の母親が声をかける。 「はい」 「リビングを散らかしてほしくないから、入って?」 こういう人だった... 神は「はい」と敗北を喫しての部屋に足を踏み入れた。 全然変わっていない。 彼氏が出来たのだからそれなりに変化があるかと思ったのに... そこまで思って思いなおす。 恋人が出来て、まだひと月も経っていなかった。 部屋の変化の前に色々と変わらなくてはならないところがあるはずだ。 勿論、変わらないでいてほしい箇所もあるが。 「で?」 用件を促した。 彼女は自分のクローゼットを全開にして色々と服を取り出してベッドに投げ出す。 「どうしたの?」 神が問うと、 「今度のお休み。牧さんとデートすることになったの...!」 興奮気味に彼女が言う。 「良かったね」 「うん!何着てったらいいかな!!」 「別に、服を着ていけば何でも良いんじゃない?」 面倒くさそうに神が答えると、「何がいいの!」と縋りつかれた。 盛大な溜息を吐いて神はのベッドに並べられている彼女の服を眺めた。 まあ、知ってたけど。色気は無い。 (や、それが『らしさ』だよね...) 「これとこれは?!」 「何処に行くの?」 「水族館」 「屋内か...だったら、こっちの方が良いんじゃない?」 結局手を貸してしまう。 「あ、そうだ。」 「何?」 「絶対に、牧さん俺に服を選ぶ手伝いをさせてって言ったらダメだからね」 「...?うん」 分かっていないようだが、何度も念を押すと「血判状でも何でも作るから!」と彼女は鬱陶しがった。 結局トータルコーディネートをさせられた神は、全ての任務を終えて帰宅の途に着く。 「ありがとうね」 玄関まで見送りに来たが言った。 「でも、。服よりももっと気にしなきゃいけないことがあるんじゃないの?」 神の言葉に彼女は首を傾げる。 「その日、バレンタインデーだろう?」 「きゃーーーー!!」 「俺、それだけは絶対に手伝わないからね」 そう言って神は「おじゃましましたー」と家の中に声をかけて玄関を出て行く。 最も重要な任務はこれからだった。 |
桜風
12.12.19
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