スローテンポ 7





藤真の1on1は校内でも有名になった。

相手が、バスケ留学していたことを各所で自慢していたこともあり、バスケ留学した彼よりも強いというのでかなり注目を浴びることになったのだ。

そんな周囲の反応は、藤真としても予想外のことで戸惑っているようだった。

「ねえ、

良く一緒に居る同じ学部の子が声をかけてきた。

教授の出張が入ったので休講になって時間が空いてしまったため、テラスでお茶を飲んでいるときのことだった。

「藤真君、だっけ?前に話してたわよね。彼、カノジョ居るの??」

「さあ?」

首を捻る。実際、そんな話は聞いたことがない。

そして、藤真の言葉をふと思い出す。

1on1をするきっかけになったあのときの言葉だ。

思い出して赤くなっているに気付かない彼女は

「お願い、彼を紹介して」

と手を合わせてきた。

「は?」

「だって、ウチの学校に入ってバスケもできるんでしょう?しかも、カッコイイと来た。絶対に自慢できる」

はあからさまにむっとした。

先日彼女は藤真のことを『顔だけ』と言ったのだ。

彼の努力とかそういうのを考えず、そう言い放っておいて...

(今度は紹介しろ?あわよくば恋人になりたい、だ?!)

が断るために口をあけたところで

!」

と藤真がやってきた。

そういえば、この時間の授業はとっていないと聞いたことがある。

とりあえず、今は非常に間が悪い。

「藤真君!」

と話をしていた彼女が甘えた声で藤真に駆け寄った。

「この間の試合、凄かったわね。相手ってバスケ留学してたんでしょ?普段から、自分はそんじょそこらのバスケットプレイヤーじゃないって豪語してたらしいわよ。そんな人に勝つなんて、凄いわー」

媚を売っている彼女に藤真は少し困惑している。迷惑がっているようにも見える。

「あ、うん。ありがとう」

適当に返しての元に足を向けていると腕をつかまれた。

藤真の眉間に皺が寄る。

「ねえ、今度ご飯食べに行かない?学校のこととか、少し不安じゃない?あたしが色々教えてあげるわ」

「...遠慮します、先輩」

そう返して彼女の腕を少し乱暴に振りほどき、の元に辿り着いた。

「なあ、

「...『』!」

むっとしたように言われて藤真は面食らう。

「へ?」

「何で『』なの?」

拗ねたようにが言う。

「や、だって...」

(この間のって、ドサクサに紛れてっていうか...チョーシ乗って口走っただけだし)

藤真だって名前で呼びたいな、と思っていた。だが、何だか本人の了解も得ていないのに勝手に呼び方を変えるのもなー、と遠慮していたのだ。


ちなみに、その話をしたら花形は大爆笑をした。おなかを抱えて当分笑い、笑いすぎて酸素が足りなくなってヒーヒー言っていた。

物凄く失礼なやつだと思って抗議をしたら

「お前がそんな繊細なやつだとは思わなかったよ」

とやっぱり笑いながら言ったのだ。

腹が立ったので尻をグーで殴っておいた。

物凄く痛そうに尻を擦る花形を見て溜飲を下げたのはいうまでも無い。


「えっと...」

(よし、名前を呼ぶぞ!)

と気合を入れた途端、が立ち上がる。

「行こう」

そう言って藤真の手を取って歩き出す。

(あ、あれ...?)

の体温を感じる。間違いなく、彼女に手を握られている。

無言で歩くの後を藤真も無言で続いた。

暫く歩いて、が足を止めた。

...」

!」

「あ、うん。名前で呼んでも..いいの?」

遠慮がちに問うと

「イヤだったら言わない」

とキッパリ言われた。

「そか」

嬉しくて頬が緩むのが自分でもわかる。

「あ、で。ごめん。用事があったんだよね」

さっきの彼女の態度とか、藤真からの呼ばれ方とかに腹が立って思わず藤真を引っ張ってきていたが、良く良く考えれば彼は自分に用事があったのだ。

「あのさ、頼みがあるんだ」

覗うように藤真が言う。

「なに?」

「勉強、教えて?」

彼女につかまれていない方の手を顔の前に持ち上げて拝むように言う。

きょとんとしたは苦笑して

「いいよ、それくらい」

と返す。

「マジで?!」

「私、透みたいにバイトしてないし。あんまり遅くまでは無理だけど、大丈夫よ」

頷くに「助かる!」と藤真は笑った。

「ところで、バスケバカの藤真くんはいつからバスケを再開するの?」

イタズラっぽく笑ってが言う。

「俺の心配事はただひとつ、勉強だけだったし。先生に教えを請うことが出来るなら、近いうちに。は?」

「ん?」

もやろうぜ」

笑って藤真が言う。

少し悩んでは頷いた。

「そうね。バスケットボールもそろそろ部屋のオブジェに飽きたって言いそうだし。女の子の会員もそれなりに居るって透も言ってたし」

「なら、決まりだ。の男性恐怖症ってのも克服したみたいだし」

「へ?」

心底不思議そうな表情を浮かべるに「ほら」と彼女につかまれたままの腕を上げてみた。

「わ!ごめん」

慌てて離そうとするの手を追いかけて掴まえる。

「イヤじゃないんだろう?」

藤真の言葉には頷く。

「じゃあ、克服したんじゃないのか?」

「藤真くんが、平気になっただけだと思う」

申し訳なさそうにが言った。

(え?ってことは、三歩進んで四歩下がった?!)

名前で呼べるようになった。つまりは前進したということだろうが、自分だけが平気になったということは花形のようなポジションに置かれたということで...

(強敵だぁ...)

「あ、でも。透とはちょっと違うよ?上手くいえないけど、ちょっと違うの」

慌ててが言う。

(前言撤回。下がったのはたぶん二歩だ)

ほんの僅かだが、前進してる。

知らず藤真の口角は上がっていた。









桜風
12.9.26


ブラウザバックでお戻りください