Sweet expression 3





夕飯を食べ終わって約束のマドレーヌを作成して牧の家まで歩いて向かう。牧の家は家から歩いて10分弱のところにある。

少し多めに作っておいた。

牧は体が大きいし、食べられないならおばちゃんたちが食べればいいのだから。

いつもの事だから門の中に勝手に入り、インターホンを押しながら玄関脇にある見慣れない自転車に気付く。

牧の家にあんな自転車あったかな?

「はい」と出てきたのはおばちゃんで「こんばんは」と挨拶をすれば機嫌よく中に迎え入れられる。

「どうしたの?」

「ああ、牧にマドレーヌを」

おばちゃんお前では、牧のことは名前で呼んだほうがいいんだろうけど、今更『紳一くん』とか言うと背中が痒くなる。


しかし、玄関にも見慣れない靴がある。

高砂とか来てんのかな?

そう思って階段を上がり、部屋のドアをノックした。

「牧?」

声を掛けると

「おう、入れよ」

と返事があったからそのまま部屋に入って驚いた。

「え、何の会合!?」

そこには、牧の他に清田くんと、そして神くんもいた。

「ああ、昼間のだよ。結局清田は昼は担任に呼び出されて時間が殆ど取れなかったからな」

自分の学習机の椅子に腰掛けていた牧が答えた。

因みに、清田くんはその側で正座をしており、神くんは牧のベッドに背を預けて座っている。

先輩は、どうしたんですか?」

神くんが聞いてきた。

「へ?あ、ああ。あたしは牧に揺すられて...」

「じゃあ、もうノートは要らないんだな?」

「ごめんなさい...」

そう言いながら鞄から先ほど出来たばかりのマドレーヌを取り出した。今日は多めに持ってきていて正解だ。

「まあ!紳一!!」

丁度あたしにコーヒーを持ってきてくれていたおばちゃんに話を聞かれてしまった。牧は苦い顔をする。

「ダメじゃないの!ちゃんにノートくらい無償で貸してあげなさい!」

おばちゃんが援護射撃をしてくれるけど

「いえ、大丈夫ですよ。お菓子作るの嫌いじゃないし。寧ろ勉強が嫌いですから」

そう言うと一瞬絶句したおばちゃんが「そう、なの...」と言って次の言葉が出ない。

「もういいから」

そう言って部屋の入り口までやって来た牧がおばちゃんの手からあたし用のコーヒーを受け取っておばちゃんの背中を押して部屋の外に追い出してドアを閉めた。


「おばちゃんに悪かったかな?」

「勉強が嫌い宣言をした事がか?」

からかうように牧が言いながらテーブルにあたしのコーヒーを置く。

「うーん、まあ。ね?」

テーブルの上にマドレーヌを置いて座る。

「もらうぞ」と言って牧がひとつ取ってさっき座ってた自分の席へと戻る。

「清田くんと神くんもどうぞ。沢山持ってきて正解だったわ」

そう言って勧めると「いただきます!」と清田くんが嬉しそうにひとつ取って「美味しいっス!!」と頬張りながら叫ぶ。

「じゃあ、俺もいただきます」と神くんの細い指がマドレーヌに伸びていった。

バスケ三昧なんだろうから牧みたいに手にマメとかあるんだろうけど、それでも凄くきれいな手をしている。

いいなー。羨ましいなー...

「ああ、ホントだ。美味しい」

そう言って神くんがにこりと微笑むから思わずあたしもにこりとしてしまう。


「あ、そういえば。清田くん。牧に相談ごとって終わったの?まだならもう帰るよ」

それが目的で来ていたとさっき言ってた。

「あ、大丈夫っス。グッドタイミングで先輩が来ました」

ということは、つまり。相談は終わったのかな?

「そうなんだ?まあ、あたしも別にこれと言って牧に用事なんてないから...やばい、あった」

思い出した。

「古文の宿題貸して!!」

全然手をつけてない。

「バナナシフォンケーキ」

牧は一言そう言う。

「材料が家にあったら明日作って持ってく」

そう返事をすると牧は机の棚からノートを取り出した。

「明日、これを家に忘れて学校に来るなよ」

「忘れないから」

と言って受けとる。危なかった...


先輩っていつもこんな感じなんですか?」

不意に神くんが聞く。

『こんな』ってどんな??

そう疑問に思っている間に牧が「いつもこんなだ」と笑いながら答えてた。

え、ちょっとは否定して...

神くんを見ればにこりと笑う。

ああ、カッコいい先輩でいたかったなぁ。

そう思っても後の祭り。

あたしの口から深い溜息がもれたのは言うまでも無い。









桜風
08.12.17


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