Sweet expression 4





こんなことなら古文のノート、持って来ておけばよかった...

結局あたしはまだ牧の家に居座っている。

折角神くんが居るんだから目の保養だ。そんなあっさり家に帰れない。

「そういえば、牧。今度は何がいい?」

主語の無いあたしの発言に

「饅頭系がいい」

と何でもないように牧が答える。

「え、何の話っスか?バナナシフォンケーキなんじゃ...」

清田くんが興味を持って聞く。

「ああ、今度バスケ部の差し入れ。毎回悩むのよ。でも、饅頭系か...甘さ控えめでいくと」

と考え始めるとあたしは止まらない。

「調理部って他の運動部に差し入れ持って行ってるんですか?」

神くんの声にあたしの思考が止まる。

「ん?バスケ部だけ」

そう答えると首を傾げる。

「何で、バスケ部だけなんですか?いや、俺は嬉しいんですけど、クラスの他の部のやつらが煩いというか...」

そうなってると思った。牧にも何回か言われてたしな...

「俺も言われました」

清田くんまでそう言う。

「分かんないんだけど。何十年か前の、最初に始めた先輩の彼氏がバスケ部に居たから、とか。その当時のバスケ部が弱すぎて何とか頑張らせようと学校側が画策したのが差し入れだったとか。色んな説が有るけど、まあ、誰も伝統を変えようとしなかっただけだよね。高頭先生の時代にも差し入れ制度があったって仰ってたからかなり歴史のある事みたいだけど」

正直、此処まで律儀に歴史として受け入れなければならないものかと悩む。

が、これを楽しみにしている部員がいるのは確かだし、今やめたら2年1年が可哀想だし...


「でも、実際のところ。差し入れ、やめられても俺は構わないけどな」

牧がそう言う。

「そりゃ、牧さんはノートを貸す度にこんな美味しいお菓子が食べれるんだから構わないでしょうけど。俺はまだ1回しか食べてないんですよ。あ、今日で2回目か」

清田くんが必死に抗議をする。

「まあ、俺も最近またサッカー部から煩く言われているからな。と幼馴染なんだからサッカー部も勧めとけとか」

サッカー部のキャプテンの顔を思い浮かべる。ああ、アイツなら言いそう。

「...面倒くさい。それで無くてもバスケ部はまだ人数が多いんだし。サッカー部も大概人気のある部だしね。しかも、バスケ部よりも辞める人数が少ないでしょ?作るのは好きだけど、量が半端ないってのと、ウチの部員たちが姦しいのにはちょっとウンザリするよ。まあ、美味しいって言ってもらえるから、量の事に関してはそんなに気にならないけど」

しかし、どうしたもんだろう?

一応、今度の部会で取り上げてみようか。

「あ、でも。バスケ部のがなくなるってのはないから」

これは教えておかないとね。

「え、ホントっスか?!」

「本当」

「何でですか?」

「バスケ部は部費の一部を材料費として入れてくれてるのよ。だから、今年度分は契約済み。来年度以降はどうするか分かんないけど。だって、良く考えてよ。何の大会とかも無い文化系の部費なんて微々たるものよ?そんな雀の涙の部費で、どうやってあの大所帯のバスケ部を賄っていくのよ?」

あたしの返答に後輩2人の視線が牧に向く。

「何だよ、牧さん!無くならないって知ってたんスか!?」

「酷いなー。俺、本気で差し入れがなくなるかもって思っちゃったじゃないですか」

神くんまで抗議する。

牧はそれを笑いながら受け流していた。

「まあまあ。そう騒ぐな。明日、若しくは明後日になるかも知れんが、がバナナシフォンケーキをお前らの分まで作ってきてくれるから」

ええ!?

思わず牧を見た。「な?」とか言ってる。

オイオイ、何であたしが牧の発言で損ねた後輩たちの機嫌を直さねばならないのだ?

そう思っていたけど、

「ホントっスか!?楽しみっス!!」

と清田くん。

「楽しみにしていますよ」

と神くん。

2人を見て再び牧を見上げるとニヤリと笑っている。

ま、仕方ないか。明日のお昼も目の保養が出来るのならば。

諦めて「オッケ」と約束した。


もういい加減家に帰らないと宿題する、じゃなかった、写す時間が無くなる。

「じゃあ、牧。あたし帰るわ」

そう言って鞄とさっき借りた古文のノートを持って立ち上がった。

「おう、気をつけて帰れよ」

「じゃあ、ね。おやすみ」

部屋の中の3人に声を掛けてドアを閉めた。

おばちゃんに声を掛けて玄関を出た。









桜風
08.12.24


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