| 門を出たところで「先輩」と声がして振り返る。 「神、くん?」 「送りますよ」 そう言って玄関脇に置いている自転車を押してきた。あれ、神くんのだったんだ。道理でサドルが高いと思った。 「いいよ、近いし」 「でも、遅いですから。さっきのマドレーヌのお礼です」 そう言ってにこりと笑う。 「じゃあ、うん。でも、本当に近いんだよ?」 もう一度念を押すと 「大丈夫ですよ」 と言った。 「後ろ、乗ります?座れませんけど...」 少し申し訳なさそうに神くんが言う。 けど、歩いて帰って神くんの時間を取るほうが申し訳ない。 「重いけど大丈夫?」 「俺、意外と力ありますよ」 否定をせずに神くんが笑いながらそう言う。まあ、いいけどね。自分で言い出したことだし。 「じゃあ、お願いします」と言うと神くんがサドルに跨る。自転車の後輪に足を掛けて神くんの肩に手を置いて乗った。 「しっかり掴まっていてくださいね」と言って神くんがペダルを踏む。 「寒くないですか?」と少し下から声がした。普通に立っていたらあたしの方が背が低いけど、今は神くんの頭があたしの目よりも下にある。 「ちょっと寒い。あ、そこのコンビニを右ね」 そう指示を出した。「はい」と言って神くんは次の交差点を右に曲がる。 「そこの街灯の向かいのマンションだよ」 本当、信号がないから自転車だったら4分くらいで着いてしまう。 「本当に近いんですね」 「だから、言ったでしょ?」 そう言って神くんの自転車から降りた。 「ありがとう。でも、助かっちゃった」 「いいえ」と神くんが言ってポケットから携帯を取り出す。 「先輩、アドレス教えてもらえますか?」 「え、あ。う、うん。ちょっと待って」 突然でビックリした。慌てて鞄の中の携帯を探す。ああ、もう!牧の古文のノート邪魔!! アドレスを交換して、 「じゃあ、明日。シフォンケーキ楽しみにしてます。信長には俺から言いますから」 あ。そう言うこと。明日シフォンケーキ作ってきたかどうかの連絡を携帯に入れろって話ね。なるほど... アドレス聞かれたとき、結構ドキドキしたんだけど。ちょっと納得。 「じゃあ、また明日ね」 と言って手を振ると神くんはペコリとお辞儀をしてペダルを踏んでどんどん遠ざかっていった。 携帯を弄りながら玄関のドアを開ける。 あれ?神くんの名前ってどう書くんだろう?? よくわからないままカタカナで登録した。 『ジンソウイチロウ』 何か難しい単語みたい。 台所に向かって材料を確認する。 あ、ある。バナナまである。 仕方ないから、明日も神くんで目の保養をしたいから作る事にした。 宿題は丸写しだから、焼いている間にでも出来るでしょう。 恐ろしく睡眠時間が少なくなる事を選択したあたし。 明日は授業中は熟睡だな。 まあ、前の席が牧だからある程度隠れるし。 いやはや。大きいのが壁になってくれるって便利だわ... 寝る前に携帯を見ると受信があったことに気付く。 見ると『ジンソウイチロウ』から。 『先輩は全然重くなかったですよ。 宿題写すのが大変だったら明日じゃなくてもいいですから。 じゃあ、おやすみなさい』 たった3行。 それでも、その3行が何だかとても嬉しかった。 |
桜風
08.12.31
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