| 翌日、2時間目が終わったところで神くんにメールを打っておいた。 すぐに『楽しみです』と返事があって、携帯を眺めながら思わずにやけてしまう。 「ご機嫌だな、」 そんなあたしの表情を見た牧が声を掛けてきた。 「そうでもないよ。あ、次古文だね」 机の中から牧のノートを取り出して渡す。 「全部写せたのか?」 「ばっちり!ありがとう」 パラパラとノートを捲りながら「おう」と牧が返事した。 「そういえば、牧」 「ん?」 「神くんってどういう字を書くの?」 「神の名前か?神社の『神』に、宗教の『宗』、あとは『一郎』だ」 ふーん、神宗一郎ね。 後で携帯の登録直しておこう。 「牧」 「今度は何だ?」 「あたし、これから寝るから。当たりそうだったら机小突いて。多分起きれる」 「...わかった」 呆れたような溜息混じりの牧の返事を聞いてあたしは机に突っ伏した。 コン、と机を小突かれて目を覚ますと目の前に神くんと清田くんがいる。 え、何で?! 「2時間ぶっ通しで寝てたぞ、」 「うそお!?」 「ホントだ。どうする?此処で食べてもいいが...」 「屋上か中庭。外が良い」 「じゃあ、屋上にしましょうよ」 神くんがそう提案した。 反対する人はいないため、屋上へと向かう。 「先行ってて。あたし飲み物買ってくる」 お財布だけ鞄から抜き出して鞄は牧に預ける。 「おう。あ、俺にもコーヒー買ってきてくれ」 「了解」と返事をして屋上へ向かう牧たちとは逆に階段を下りていく。 購買の中にある自動販売機にお金を入れて、天を仰いだ。 レモンティ売り切れ。 じゃあ、どれにしよう? まあ、それはともかく。牧のコーヒーは購入して。 ウーロン茶でシフォンケーキは食べたくないな。仕方ない、あたしもコーヒーだ。 「先輩」 振り返ると神くん。 「あれ?神くんも要るんだった?言ってくれれば買ってったのに」 「先輩にそんなこと頼めませんよ。寧ろ、さっきの『俺が行きます』って言わないといけなかったのに」 そう言って笑う。 「うわ、体育会系だ」 「バスケ部ですからね」 そう言ってにこりと笑って神くんはウーロン茶。 「でも、それを言ったら清田くんが買い物をするようにならない?一番の若造だよ」 「信長は、ちょっとそそっかしいから。自分で行った方が安心します」 神くんは清田くんのことを『信長』って呼んでるんだ。 ウチのバスケ部って、全国区の強豪らしけど、その割りに上下の仲が良いんだよね。そういう雰囲気、あたしは好きだな。 「持ちますよ」 神くんがそう言って手を差し出す。 やっぱり、多少マメがあるにしてもきれいな手だなって見惚れてしまう。 はっと我に返って 「大丈夫。あたしは牧みたいに直接部活の先輩じゃないんだし、そんなに気を遣わなくていいよ」 そうお断りしたのに、あたしが持っていたコーヒーは神くんの手に納まっていた。 階段を上っているときに気がついた。 「神くん、先に上がってていいよ。遅いでしょ、あたし」 神くんの足を進めるスピードが遅い。 「いいですよ。一緒に行きましょう」 にこりと微笑んで神くんは相変わらずペースを上げない。 「そういえば、先輩の名前の『』って字はどう書くんですか?」 不意に聞いてきた。 指で空に字を書く。 「へー、きれいな名前ですね」 神くんはそう感心したように呟いた。 「ありがと」 名前を褒められるとやっぱり何だか嬉しいな。 屋上に上がれば、清田くんが自分のお弁当を前に『待て』状態だった。 必死にお弁当箱を凝視している。 「ごめん、遅くなったね」 「いいや、悪かったな」 牧にコーヒーを渡す。 「清田くん、ごめんね」 「大丈夫っス!」 目が凄く必死な清田くんは表情とは裏腹の言葉を口にする。 「じゃあ、食べよっか」 あたしの言葉が合図になって清田くんはパンッと手を合わせて「いただきます!」といったかと思うと凄い勢いでお弁当を口の中に掻き込んでいる。 その勢いが凄すぎてあたしは牧と神くんを見た。2人とも呆然と清田くんを見ていた。 2人のその表情が可笑しくて、少しだけ笑ってしまった。 あたしの持ってきたシフォンケーキも大絶賛しながら貪るように食べる清田くんに、思わずあたしの分まであげてしまった。 「信長にだけずるいです」 まさか神くんがこんな抗議をするとは思わなかったから少しビックリしたけど 「じゃあ、また今度作ってきてあげるから」 と言うと 「絶対ですよ」 とイタズラっぽく笑いながら念を押してくる。 「うん、約束」 あたしの答えに満足したのか、神くんは「楽しみです」と柔らかく微笑んだ。 |
桜風
09.1.7
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