| 試合の合間、ハーフタイム。 下を見下ろせば高頭先生が部員たちに指示をしている。 何だか、授業中の先生とはまた別の意味で厳しそう。 ふと、神くんが見上げてきた。 目が合うとにこりと微笑む。いつもの優しい笑顔で。 けど、あたしはいつもどおりに笑えていない。自分でそう感じたし、神くんの表情もちょっと違っていた。 「どうしたんですか?」 そんな風に口が動いた。 何か見透かされそうであたしは慌てて顔を背けて別のところを見た。 自分がひとり、置いていかれたと勝手に思って、そして、勝手に寂しがっているだけなんだから。 そんなの、凄くカッコ悪いよ。 ピーッと後半を始める合図の笛が鳴った。 もう1度海南のベンチを見た。 今度は清田くんと目が合って、彼はゴールを指差して笑った。またダンク決めますよ、って。 そして、視線を感じて見てみれば、やっぱり神くんで。 でも、今度はいつもの笑顔を作れた。がんばって、と声を出さずに口だけを動かす。 神くんは頷いて微笑んだ。 後半も前半のような流れで。違うといえば、牧も神くんもベンチに下がった。 コートに残った清田くんは伸び伸びと縦横無尽にコートの中を駆け巡っていた。予告どおりのダンクを何回もやってのける。 そして、試合終了の笛が鳴ったときには、前半が終了したとき以上の差をつけて海南が圧倒的な勝利を収めた。 皆が礼をしているときにあたしは体育館を出た。 そして、そのまま開放されている校舎の中に入り、屋上へと向かった。 爽やかな風が吹き抜ける屋上。 入り口から見えないところのフェンスに背を預けて空を見上げる。 抜けるような青い空。 なのに、あたしはやはり何処か重く沈んだ気持ちを抱えていた。 はぁ、と溜息が漏れる。 いつもよりも大きめの鞄にはサンドイッチが入っている。 「先に清田くんに預けておけば良かったな...」 お弁当箱を開けて呟いた。 「じゃあ、俺にください」 突然声を掛けられて驚いた。顔を上げるとまだユニフォーム姿の神くんが立っていた。 「ど、どうしたの!?」 「試合が終わってギャラリーの中の先輩を探したんですけどいなかったので、探してました」 と膝をつく。 「女の子たちに囲まれなかったの?」 ハーフタイムの間、あちらこちらでバスケ部に差し入れを持ってきたとかプレゼントを持ってきたとかそんな会話がされていた。その中に固有名詞で神くんの名前も挙がっていた。 「逃げてきちゃいました」 いつもの優しい笑顔であっさりとそう言う。 「逃げてきちゃいました、って...」 「先輩の様子がおかしかったし。心配になったので。俺にはこっちの方が大事です」 そう言ってあたしと肩を並べてフェンスに背を預けた。 「どうしたんですか?」 ハーフタイム中に彼が口にしたと思われるその言葉が耳に届く。 「どうもしないよ」 「嘘だ。俺、こう見えても騙されにくいんですよ」 「『こう見えても』って。そのままだよ?」 ちょっと可笑しくて笑う。 「じゃあ、観念して言っちゃったらどうですか?」 視線だけあたしに向ける。 そうだな、観念しちゃおう。 そう思ったら少しだけ、心が軽くなった。とても不思議。 「寂しかったの」 神くんは驚いたようで今度はきちんと顔まで向けてきた。 「寂しかった、ですか?」 「そう。凄くね」 神くんは少し視線を彷徨わせた後、 「詳しく、聞いてもいいですか?」 と遠慮がちに口を開いた。 「皆、バスケをしてるときは全然知らない人みたいなんだもん。凄くカッコ良かった。でも、あたしの知らない皆だった。置いてかれたって感じがしたんだ。かっこ悪いでしょ?勝手に拗ねてたの」 ははっと笑いながら言うと、 「かっこ悪くないですよ」 と神くんが呟く。 「じゃあ、慣れちゃいましょうよ」 そんなことを言う。 「え?どういうこと??」 「これらかもずっと試合を見に来てください。練習も。そしたら、バスケをしてる俺たちに慣れるじゃないですか。俺、今日は凄く緊張してたんですよ、こう見えて」 神くんは気恥ずかしそうに笑う。 その言葉の真意が見えないで考えていると 「先輩が応援に来てくれるって聞いてたので。これは、ミスできないなって。カッコ良いところ、見てもらわないとなって。だから今日、俺をカッコ良いとか言ってくれたなら、それはいつもの3割増です」 まじめな顔をしてそんなことを言う。 当社比3割増か... 「3割引いてもカッコ良かったって言ったら?」 気になって聞いてみた。 実際、良くわかんないけど3割引いてもカッコ良かったと思う。 「うーん...それはそれで凄く嬉しいですね」 のんびりとそう言う。いつもの神くんだ。 嬉しくて、可笑しくて笑った。 「でも、先輩も時々違う顔をしてるんですよ?」 不意に言われる。 「そ、そうかな?」 「そうです」と神くんは頷く。 「部員を前にしたときとか。ウチの部に差し入れを持ってきてくれるとき、先輩は沢山の顔を見せてますよ」 うーん、自分では気付かない。 「でも、やっぱり俺が好きなのは一緒にお弁当を食べたり普通に話をしてるときかな?部長の顔をしてる先輩じゃなくて、っていう1人の女の子の顔。寝顔も可愛かったです」 最後のはかなりダメージを受けてしまった。 そうだ。授業中寝こけていて、そのまま昼休憩に入って神くんと清田くんがあたしの寝顔覗いてたんだ。 牧ももっと早く起こしてくれたら良かったのに... 「ねえ、先輩。お願い、聞いてくれますか?」 「なに?」 改まってのお願いって何だろう? 「先輩のこと、名前で呼んだらダメですか?」 そんなことを言われた。 「いいよ」と言いかけて口を閉じる。 そして改めて口を開いて 「次の試合でスリーポイント、10本決めたらね」 と答えた。 神くんは一瞬目を丸くして、そして 「じゃあ。先輩は応援に来てくださいね。俺、いつもの3割増になりますから」 と笑顔でそう言う。 「分かった。今度の差し入れは何がいい?」 神くんに聞くと 「フィナンシェが食べたいです。でも、その前に。それ、食べていいですか?おなかが減っちゃいました」 と言ってお弁当箱を指差す。 「どうぞ。あ、飲み物買ってくるね」 立ち上がろうとしたら腕を掴まれた。 「やっぱり、まだ食べなくていいです。だから、もう少しここにいてください」 いつもの、いや、いつものじゃない? えーと、よく分かんないけど、笑顔の神くんにそう言われてあたしは頷いた。 もう少し、このままでいよう。 神くんは甘さ控えめなのと、ちゃんと甘いのどっちが好きなのかな? もう少ししたら、聞いてみよう。また神くんの新しい顔が見れるかもしれないから。 |
桜風
09.2.4
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