| 清田くんとゴミ捨てに行き、やっぱり体育館裏まで一緒に歩いた。 そこまでは持ってくれると言ってくれたので、清田くんの厚意に甘えてそのまま空になったゴミ箱は清田くんの手にある。 「そういえば、先輩は可愛いお嫁さんになりたいから花嫁修業で料理が上手くなったんですか?」 不意に聞かれた。 それは本当に突然でいつも作っていた嘘を吐けずに「違うよ」と答えてしまった。 「違うんですか?」 「...うん」 「へぇ。じゃあ、何で料理を?」 あたしは諦めて息を吐く。さっき清田くんのナイショを盗み聞きしてしまった事だし、こちらもナイショを教えてもいいかなって何となく思ってしまった。 「ウチね、あたしが小さいうちに両親が離婚したの」 あたしの言葉に清田くんは足を止めて目を大きくしている。 「続き、聞く?」 聞きたくないものを無理矢理聞かせるのも如何なものかと思い、聞いてみると清田くんはコクンと頷く。 「父がね、どうしようもない人だったの。お酒とタバコとギャンブルと。結局お母さんは何も言わずに外に居た男の人の所に行ってしまったの。あたしと、父を置いて。それでも、父は目が醒めなくて、そのあともう少しダメ父だった。だから、そのダメ父だった間、あたしは牧の家に居たの」 「牧さんの!?」 「そう。おばちゃんが父と幼馴染で。それで、あたしがあの家にいるのは良くないって、預かっててくれたの。あたしまで居なくなって父は初めて自分が愚かだと気付いたみたい。それで、ゆっくりだけどダメ父を返上するように頑張ってた。 でも、父は夜にも仕事に出ていたから結局あたしは小学校を卒業するまで牧家にお世話になってたな。ああ、でも四六時中お世話になってたのは3年生くらいまでだけどね。家に置いてもらってるんだからって思っておばちゃんのお手伝いをさせてもらってたの。それこそ、最初は失敗だらけで迷惑しか掛けてなかったんだけどね」 思い出す。割ったお皿の数はもう数えるのも気が重くなるほど大量で、それでもおばちゃんたちは「だいじょうぶよ、手伝ってくれてありがとうね」と言ってくれていた。 「おばちゃんにクッキー作りを教えてもらって作った事があるの。それが記念すべきあたしが作ったお菓子第1号。そのとき、少し焦げて苦くて、硬かったんだけど。でも、おばちゃんもおじちゃんも、牧も。みんな『美味しい』って言ってくれたの。それが嬉しくてね。 で、残ったのは家に持って帰って父に置いていたの。夜中に帰ってくるから。朝起きたら、父の字で『美味かった』ってクッキーを入れていた袋の側に一言書いてあった。それが凄く嬉しくて。それからかな?料理が好きになったのは。家にいる時間を少しずつ増やして、父も少しずつ夜の仕事を減らしていって」 いっぱい失敗をしたけど、父はいつも全部残さずに食べてくれた。ついでに、牧も。 「それからね。小学校卒業する半年くらい前かな?家に帰ったら知らない女の人がいたの。一瞬帰る家を間違ったかと思ったけど、それは間違いじゃなくて。その女の人はあたしに気がついて、そしてこう言ったの。『私と運命共同体にならない?』って」 「運命共同体、っスか?え、誰だったんですか?」 「父の、会社の取引先の営業さん。まだ新人で、でもカッコ良くてね。そうは言っても、意味わかんないでしょ?『運命共同体』って言われても」 清田くんが頷く。 「あの人ね、こう言ったの。『私はしたり顔でさんの母親面をするつもりはないわ。さんも無理に私の娘として振舞わなくて良い。だから、運命共同体になって一緒に生活しない?』って。つまりは、父と再婚したいって話だったみたい。『あの、ダメさ加減に惚れたわ。私が軌道修正したくなっちゃう』そう言ったの。 あたし、思わず『じゃあ、お願いします』って言っちゃったのね。でも、笑っちゃうのよ。シホさん、って言うんだけど。その人、父に言う前にあたしにそうやってプロポーズしてたのよ。家に帰ってきた父がシホさん見てポカン、て口を開けてて。あたしとしては、あれ?どうしたんだろう?って思ったら突然でビックリしたって。今は父とシホさんと一緒に暮らしてる。賑やかよ。シホさん、料理苦手だから結局料理はすべてあたしがやってるんだけどね」 「そう、だったんスか」 「そうだったのよ。だから、花嫁修業じゃなくて、必要に迫られて、ってのが強いけど。今となってはそれで良かったって思う。だって、楽しいもの」 そう言って笑うと、清田くんは凄く複雑そうに笑った。まあ、仕方ないかもね。 「まあ、そんな感じ。あ、これ他の人にはナイショよ?」 「はい!」 清田くんはいつもの元気いっぱいの返事をした。 「じゃあ、そろそろ部活に戻らないと鬼キャプテンに叱られるよ」 「あ、そうっスね!」 「ゴミ箱、持ってくれてありがとうね。助かっちゃった」 「そんなことくらい、いつでもしますよ」 清田くんはニカッと笑う。いつもの笑顔。 「信長、いい加減戻って来いよ。あれ?先輩も一緒だったんですか?」 体育館から神くんがやって来た。 「ごめんね、さっきまで清田くん借りてた。怒らないであげて」 手を合わせると 「俺は怒りませんけど、監督と牧さんの分の責任までは持てませんよ」 と笑いながら言う。 確かに。 「じゃあ、清田くん。牧に怒られたら、諦めて怒られて」 そう言うと凄く情けない顔で頷いた。 「じゃあ、ね。2人とも部活頑張ってね」 手を振って体育館裏を通り抜ける。 あ。昔の話をしたのって清田くんが初めてかも。 そう思ったら、何だか可笑しかった。 |
桜風
09.5.6
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