Sweet heart 6





練習を抜けていった信長の帰りが遅くて、いい加減戻らないと牧さんや監督に怒られるだろうと思って探しに出た。

体育館裏に用事があると言っていたからそこへ向かい、思わず壁の陰に隠れた。

何故かそこには先輩もいて、もしかして信長を呼び出したのは先輩なのかと少しだけ心が騒ぐ。


「ウチね、あたしが小さいうちに両親が離婚したの」

先輩の、別の意味での告白に俺は驚いた。

何でそんな話になったのか分からないけど、それでも、いけないことだって分かってたけどそこから離れることができずに立ち尽くして、そして先輩の言葉に意識を向けた。


いつも明るい先輩の過去。

それには牧さんの存在は絶対的で、だからこそ、今でも軽口を叩き合って笑い合っている2人。

先輩の牧さんに対する信頼の表れだ。

「盗み聞きとは、趣味が悪いな」

不意に声がして振り返ると牧さんが口の端を上げて笑っている。

「いつから、そこに?」

「俺の家にやってきた話を始めたころからかな?」

「殆ど俺と同時じゃないですか」

非難の意味を込めてそう言うと「そう怒るな」と苦笑いをされた。

「俺も、正直があの話を誰かにするとは思ってなかったからな。驚いて聞き入ってしまったんだよ」

そう言って壁の向こうに視線を向ける。

「まさか、清田に話すとはな」

牧さんがポツリと呟く。少し、声が寂しそうな表情をしていた気がした。

「俺は先に戻る。清田に早く戻るように言っとけ。因みに、もう手遅れだ。監督は青筋を立ててるぞ」

そう言った牧さんはいつもどおり威厳のあるキャプテンの顔をしていて体育館へと向かう。


俺も深呼吸をして体育館裏へと足を運ぶ。

「信長、いい加減戻って来いよ。あれ?先輩も一緒だったんですか?」

白々しいな、と自分で思う。

「ごめんね、さっきまで清田くん借りてた。怒らないであげて」

先輩は可愛らしく手を合わせる。

「俺は怒りませんけど、監督と牧さんの分の責任までは持てませんよ」

と笑いながら言う。

先輩は真顔で頷いた。

「じゃあ、清田くん。牧に怒られたら、諦めて怒られて」

そう言うと凄く情けない顔で信長は頷いた。

「じゃあ、ね。2人とも部活頑張ってね」

手を振って体育館裏を通り抜ける。

空のゴミ箱が少し重そうだった。


体育館へ戻ると牧さんの言ったとおり青筋を立てた監督がいて、何故か俺も怒られた。

凄く不満だ。

ペナルティで練習後にグラウンド10周とか言われるし。

予定通りに練習が終わり、グラウンドに出る。

「俺も付き合おう」

まさか牧さんがそう言うとは思わなくて呆然としてたら、「ほら、何をモタモタしてる、神!」と呼ばれた。

慌てて牧さんの隣に並んで走る。

「神、今日聞いたことは聞いてないことにしておけよ」

牧さんを見た。

「盗み聞きされていい気はしないだろう?何故清田に話したのか知らんが、普通は他のやつには話さないようなことだからな。たぶん、あいつの仲のいいクラスメイトでも知らないことだ。小学校から付き合いのあるヤツだって、まさか離婚の原因があれとは思わないだろうしな」

「何で、信長には話したんですかね?」

「口が滑ったんじゃないか?清田は不思議と人をリラックスさせる雰囲気を持つからな」

と何でもないことのように言う。

「俺だけ仲間はずれですね」

思わず呟く。

隣を走っていた牧さんが噴出した。

「拗ねるなよ」

「放っておいてください」

そう言って少し走る速度を上げた。

牧さんはそれについてくる。

「神は..まあ、清田もだが。いつもの作ったものに『美味しかった』って言うだろう?」

「はい。美味しいじゃないですか」

美味しいものに美味しいと言うのは当たり前じゃないのかと思う。

は、どんな言葉よりもそれが一番好きなんだと。どんな美辞麗句並べた言葉よりも、自分の作った料理に『美味しい』って言われるのが一番胸に響くって、昔言ってたな。最上級の告白の言葉だって」

牧さんを見るとニヤリと笑う。

それが何を意味しているのか考えるのを何となく先延ばしにしたくなった。

だから、考えない。

「そうだったんですか」

と適当な相槌ですませる。


後ろからは「神さーん!」と俺の気も知らないで無邪気に遅れて出てきた信長が追いかけてくる。

追いつかれたら癪だから、もう少しだけ走る速度上げた。

そんな俺に少し後ろを走っている牧さんが笑った気配がある。

後ろでは相変わらず信長が俺の名前を呼んでいる。

俺は面倒くさいからそのまま聞こえない振りをして走り続けた。










桜風
09.5.13


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