| いつも気を張り詰めて過ごしていた。 だから、こんな事になるなんて、何年ぶりだろう? おでこに冷たい感覚を覚えて目を覚ますとそこには黒い塊がいた。 「何で、いんの?」 そう言おうと口を開けて声が出ない事に驚く。 別に声を失ったわけではないが、どうやら喉が渇ききって音が出ないようだ。 気付け、真っ黒クロスケ。 念を込めて睨むと、それは振り返る。 「おう、目が覚めたか?」 真っ黒クロスケこと、牧紳一は振り返ってあたしの顔を覗く。 頷くだけであたしが声を出さないことに疑問を持ったのか「どうした?」と聞いてすぐに自分で納得した。 「飲むか?」 と言ってあたしに見せたのは牧の愛飲のポカリのペットボトル(500ml)。 頷くと牧はそのペットボトルのキャップを捻ってコップに注ぎ、ついでにあたしの体を起こしてくれる。 「ゆっくり飲めよ」 とコップを持ったあたしの手にその大きな手を添えて静かにコップを傾ける手伝いをしてくれる。 ゆっくり嚥下して、やっと自分の喉から音が出そうだと落ち着いた。 コップの中の液体を飲み干して、そして、また横たわる。 部屋の壁に掛けてある時計を見ればまだ2時過ぎで、授業は残っている。 「学校は?」 掠れた声で牧に聞く。自分の喉から出る声の掠れ具合に驚いてしまった。 「6時間目はサボった。もう少ししたら部活しに戻るけどな。けど、が風邪で寝込むなんていつぶりだ?」 そう言いながら苦笑いを浮かべる。 本当、いつ振りだろう...?いつもは熱があっても這ってでも学校に行ってたんだけどな。 「鍵は?」 「家に帰って取ってきた。預かってるからな」 「おばちゃんは?」 「後で来るって。シホさんは飯作れないからな。まあ取り敢えず、俺は親公認でサボリだ」 牧はそう言って笑った。 「折角、今日は調理部の差し入れの日だったのにな」 牧が苦笑しながら言う。 ああ、そうだった。今日は抹茶ゼリーだ。 「抹茶ゼリーだよ」 そう言うと牧は「そうか」と優しい目で返事をした。 「ああ、そうだ。プリン買ってきたぞ」 そう言って側においていたコンビニの袋をがさごそと漁ってそれを取り出して部屋を出る。暫くして戻ってきた牧の手にはスプーンが握られている。 あたし愛用のスプーンも牧が手にすればとても小さくておもちゃのように見える。 「もう1回起きれるか?」 そう声を掛けながら体を起こしてくれてスプーンとプリンをくれる。 1口2口食べて体がだるくて起きているのが億劫になってそれを牧に訴えると、またゆっくり体を倒してくれる。 「どうする、これ?」 「あげる」 食べかけのプリンを牧にあげた。 牧はそのままプリンを1口食べて手を止める。少し首を捻ってパクパクと最後まで食べた。 「の作ったやつの方が美味いな」 凄く納得いかないといった表情だ。 お金を出してまで買ったのが自分が食べ慣れているそれよりも美味しくなくてちょっと不服のようだ。 「また作るよ」 そう言うと 「じゃあ。風邪が治ったら、作ってくれよ」 と言って額に張り付いた前髪を梳いてくれる。 「うん」 「寝るか?」 そう声を掛けてきた。 あたしは返事をしようと思ったけど、どうも体が言う事を聞いてくれず、いつの間にか周囲から音が聞こえなくなっていた。 結局、あたしが目を覚ましたのは翌朝早くで。 枕元の携帯で時間を確認しようとしたら、『受信しました』と言うメッセージが見えてボックスを開くとそこには神くんと、そして知らないアドレスからのメッセージがある。 神くんからは 『先輩が居ないんでビックリしました。牧さんが言うには数年ぶりの大風邪だそうですね。早く治して学校に来てください。先輩のおやつが食べたいです。元気になったら作ってくださいね』 と書いてあった。 知らないアドレスは、どうやら清田くんで牧か神くんから聞いたんだろうって思う。 『大丈夫っスか!?先輩が居ないと俺すげー寂しいです。はやく良くなってください!!』 メールまで全く印象が逆だなって思うとちょっと可笑しい。 体を起こすと昨日1日中寝ていたせいか、酷く重く感じる。側においていた体温計で熱を計ると37度1分。 昨日よりかなり引いたけど、それでもまだ微熱が残っている。 今日も休んだ方がいいかな? 時計を見れば既に5時過ぎている。 牧はもう起きてるだろうか?バスケ部は朝練があると聞くし、今の時間に起こしても悪くはないだろう。 そうは言ってもこんな早朝に電話は非常識だろうと思い、牧に今日も休むということをメールしておいた。 『今日で完全に治せよ』 6時過ぎにそんなメールが届いていた。 その時間、あたしは再び夢の中に沈んでいた。 |
桜風
09.5.20
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