| 風邪が全快し、その翌日。 2日ぶりに学校に行くと、教室に入ってきた牧が少し驚いた表情をして、そして笑った。 「もういいのか?」 「うん、すっかり脳みそが溶けたよ」 そう答えると 「溶けるほどあったのか?」 と失礼な事を言われた。いつもの意地悪牧だ。 お見舞いに来てくれたときは凄く優しかったのに。 1時間目が終わったところで廊下からバタバタと賑やかな音が聞こえて、その勢いのままウチの教室の前で音が止まる。 肩で息をしているのが清田くんで 「先輩!」 と教室の中までやって来た。 「清田くん、久しぶりー。メールありがとう」 あの夜中に送られてきたメール以外に、昨日は更に休憩時間の度に何かしらメールが来た。 「もういいんスか!?」 「もういいんスよ」 そう返事をするとニカッと笑う。 「じゃあ、失礼します!!」 「あ、お昼屋上ね」 去っていく寸前の清田くんにそう声をかけると「分かりました!」と言って勢い良く教室を出て行った。 「作って来たのか?」 「うん。牧のリクエストでプリン」 そう言うと牧はフッて笑う。少しだけ嬉しそうだった。 予鈴が鳴って慌てて神くんにもメールを送った。『今日は屋上でお昼ね』と。 本鈴が鳴ったのに、あたしの携帯が震える。先生の目を盗んでこっそり見ると神くんからで、神くんが授業中にメールを打つなんて想像できないからかなり驚いた。 『もう大丈夫なんですか?』と1行。 『心配してくれてありがとう。もう元気になりました』 そう返事を送れば『安心しました。先輩の顔を見るのは久しぶりだから嬉しいです』とある。 2日しか経ってないのに、と思った。 お昼は清田くんが全力で教室まで走ってきた。 屋上で待っていてくれたらいいのに... 「一緒に行きましょう!」 牧はモテモテだ... 「違うと思うぞ」 あたしの思考を読んだかのように牧がそう呟く。 「ん?」 「と一緒に屋上に行きたいんじゃないか?」 そうなのかな?と思ったけど。清田くんはなにやら張り切っていてあたしと牧の前をズンズン歩いている。 まあ、どっちでもいいや。 屋上へと続く階段の踊り場に神くんが佇んでいた。 「先輩」 そう言って微笑む。 癒されるなぁ... 「あ、あたし飲み物買ってくる」 「レモンティですよね?買って来ましたよ」 神くんが手に持っているそれを微かに振ってみせてくれた。 「え、ホント?!あたしがレモンティ好きだって何で知ってんの?」 「いつもレモンティを飲んでるじゃないですか」 そう言って微笑む神くん。侮れない... 大きな男子高生3人に囲まれたあたしは女子の平均くらいの身長。凄く小さく感じるな... 屋上に着くと、気候もいいこともあり結構人が多い。 「どこにしようか?」 スペース的にどこも微妙だな。 「此処なんでどうスか?」 そう言って清田くんがスルスルと梯子を登っていく。屋上の入り口の上。つまりは究極の屋上だ。 「先輩、大丈夫ですか?」 「うん。大丈夫。先に上って」 あたしがそう言うと神くんが首を傾げる。 「落ちたら危ないんで、下で支えておきますよ?」 凄く親切な神くん。でもね? 「パンツ見えちゃう」 そう言うと神くんは赤くなって慌てて梯子を上った。因みに牧はクツクツとあたしと神くんの会話に笑ってる。 「ほら、牧も」 「俺は見えても構わんぞ」とか言うから「エロオヤジ」と言ったらヘッドロックを掛けられた。 「牧さん!何やってるんスか!!」 清田くんが上から声を掛ける。 「ああ、今上がる。鞄貸せ」 何でもなかったかのように牧も梯子を上っていき、あたしが最後。 お?意外と難しい。 「大丈夫ですか?」 と手を差し伸べてくるのは神くん。優しいな。 その大きな手に捕まって究極の屋上へ到着。 いつもの場所よりも吹き抜ける風が気持ち良い。 お弁当を食べてお待ちかねのデザートタイム。 取り出したプリンに清田くんは目を輝かせてくれた。 相変わらずの勢いであっという間に完食する。 「美味かったっス!ごちそうさまでした!!」 勢い良く手を合わせて頭を下げる。 「はい、お粗末さまでした」 「市販のプリンが食べられなくなりますね」 神くんが呟いてカラリと容器をコンクリートの上において「ごちそうさまでした」と手を合わせる。 「美味しかったですよ」 とにこりと微笑んで言ってくれた。 「ありがとう」 「やっぱりのプリンの方が美味いな。ごちそうさん」 牧も容器を置きながらそう言ってくれる。 『ごちそうさま』『美味しかった』 これはあたしを元気にしてくれる言葉。また料理がしたくなる呪文。 「また何か作るね」 容器を片付けながら言うと 「じゃあ、抹茶ゼリーがいいです」 間髪入れずに神くんが言った。 「一昨日食べたでしょう?ウチの部の差し入れで」 「先輩の抹茶ゼリーが食べたいです」 神くんの言葉に驚いたけど、 「了解」 と返事をすれば嬉しそうに神くんが微笑む。 つられてあたしもにっこりと。 予鈴が鳴って慌てると皆はその場に留まっている。 「何で?」 「先に降りてもいいが、見えるぞ」 何が、とまでは牧も言わなかったしあたしも分かった。 「鞄、後で投げて」 梯子を下りながら言うと 「持って降りるから大丈夫だ」 牧が覗き込んでそう言う。 屋上に足をつけると清田くんはそこからジャンプして降りる。 牧に続いて神くん。 「じゃあ、先輩、ごちそうさまでした。走るぞ、信長」 神くんはそう言って走って屋上から居なくなり、「失礼します!」と清田くんも走っていった。 あたしたちはまだ時間に余裕があるから歩いて階段を下りる。 「あ、鞄ありがとう」 と手を伸ばしても牧は 「これくら良いさ。教室まで持つ」 と言ってくれた。 「ありがと」 「おう」 ゆっくりと、のんびり廊下を並んで歩いた。 |
桜風
09.5.27
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