| 結局あの練習試合以来、試合は組まれなかったようで。 あたしは神くんとの約束どおりに海南の試合があるという体育館へと向かった。 それはIH予選の5日目ということもあり、観客は満員になっていた。 ちらほら聞こえる噂話と、応援旗の『常勝』の文字に海南の凄さを改めて実感する。 前の席はもう埋まってるんだろうなと思って後ろの方をウロウロしていたら海南のバスケ部員に声を掛けられて、席を取っているといわれた。 ベンチに入れない部員たちはスタンドでチームの応援をしている。 スタンドの最前列の空席に案内されて流石に怯む。 勉強してないのに... 選手たちが入場してきて、その中に当然牧も神くんも清田くんも居る。 清田くんはあたしと目が合い、そして前の練習試合のときと同じようにゴールを指差して笑った。 その意味が分かったあたしは頷いて笑う。清田くんはまたぴょーんて飛ぶんだ。 試合の前に数分練習時間を設けてあるらしく、みんな淡々と練習をしていた。 淡々と練習をしているけど、王者の風格と言うか、そういうものが漂っている。 試合が始まってあたしは指を折っていた。 シュートを打ってすぐに振り返って見上げてくる神くん。 振り返ったときはちゃんとそのボールは乾いた音を立ててネットを潜り抜けていた。 結局、神くんはあっという間にあたしの右手いっぱいのシュートを決めた。 そして、大差をつけて前半を終えて後半。 コートに入る前、神くんが見上げてきて右手をパーにする。 何のことだろう?と思ったけど、それが前半のシュートを決めた数だと分かり、頷く。 「あと5本」と口が動いて指差してきた。 驚いたけど、頷くと笑顔になって、でもコートに向かうときには真剣な眼差しになる。 後半は、前半よりももっと早く5本シュートを決めた。そのあとも3本くらい。 何か焦っているようなそんな印象を受けてたら、神くんは他の選手と交代した。 一緒に観戦してる部員に聞くと、神くんとか牧は得点に大差が着いていたら温存するというか、とにかくベンチで休ませる事が多いとか。 なるほど。だから、神くんは前半よりも強引にシュートに行ってたんだ。 ベンチに下がった神くんはスタンドを見上げて右手は人差し指を、左手は人差し指と中指、そして薬指を立ててこちらに向けた。 うん、『13』だ。 試合は全くと言っていいほど危なげなく、呆気なく終了し、大差の末に海南大附属高校は決勝トーナメント進出を決めた。 試合が終わって、スタンドで一緒に応援していた部員に誘われて控え室の前まで行ったけど、やっぱりどう考えてもあたしは部外者であって。そこへと続く廊下すら何とも居づらく感じていた。 結局、体育館のホールに居ると一言言ってその場を去った。 何だか場違いも甚だしいと思っちゃったし。 手持ち無沙汰で、ボーっと皆を待てたけど、それも飽きてホールに飾ってある観葉植物の鉢を観察していた。 根元は意外と根が見えてるんだ...土から出てる。 「何か面白いものでもありましたか、先輩」 聞きなれた声で慣れない呼ばれ方をする。 顔を上げると向かいにはさっきまでぽこぽこシュートを決めていた神くんが顔を上げてにこりと微笑む。 「んーん。面白いものはないよ。さっきの試合、神くんは流石だね」 そう言って屈めていた腰を伸ばした。 「3割増ですから」と笑いながら神くんも屈めていた腰を伸ばしたから途端に神くんの顔までの距離が広がる。 そして、その側には清田くんが居て、突然あたしの呼び方を変えた神くんに困惑したのか、あたしと神くんをさっきから忙しなく交互に見ていた。 「何だ。突然仲良しだな、」 牧がゆったりと言う。 「な、何で神さんは先輩の事を名前で呼んでるんスか!?」 勢い込んで言われた。 あたしと神くんは顔を見合わせて、そして 「「ナイショ」」 と言いながら自分の唇に人差し指を当てる。 それが全く同じ言動だったから可笑しくて、また顔を見合わせて笑った。 笑顔の神くんに清田くんは必死に縋りつき、牧はあたしと神くんを見比べていた。 さっきまであんなに凄いプレイを繰り広げていた人たちとは思えないいつもの3人に、あたしは自然と笑顔になる。 「帰るぞ」と牧が声を掛ける。この様子なら牧たちは学校に帰るんだろうと思ったあたしは「じゃあねー」と手を振ってバス停へと向かった。 が、それは牧があたしの腕をつかんだ事で阻まれる。 「なに?」 「いいから付き合え。少し練習して、それが終わったらラーメン食って帰ろう」 牧の提案に清田くんは諸手を挙げて賛成し、神くんも「いいですね」と頷いていた。 「というわけだ。付き合え」 牧がもう1度言う。 何となく、今さっきまで凄い試合を見ていたからテンションが上がってたのかもしれない。 いつもだったら断ると思うけど、今日に限って 「牧の奢りね」 と言って頷いた。 牧は眉間に皺を寄せたけど、それでも「おう」と返事をし、「じゃあ、仕方ないから付き合ってあげましょう」とあたしは得意げに答えて学校へ足を進めた。 |
桜風
09.6.3
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