| 牧たちの、海南大附属高校の17年連続IH出場が決まった。 決勝リーグは全部見に行った。 湘北とかっていう赤いチームのルーキーには笑わせてもらった。 しーん、となった会場であたしは危うく会場いっぱいに響く大爆笑をしてしまうところだった。 あの試合の翌日に教室に入ってきた牧に 「おはようございます、先輩」 といったらほっぺをむにーんて引っ張られた。 相当気にしているようで、その髪型を変えてはどうかとアドバイスをしておいた。 前髪は下ろしたほうが若く見えるはず... 牧たちのIH出場が決まった後は憂鬱極まりない定期テストがあり、それが終われば夏休みはもう目前だ。 最後の夏休みを満喫すべく、ウキウキと過ごしていたら朝練が終わって教室へやって来た牧に 「。昼休憩に英語研究室へ来いってさ」 と言われて首を捻った。 何でだ?何かしたか?? あ、赤点!? 牧に聞くと 「俺も一緒に来るように言われてるから、赤点はないだろうな」 としゃあしゃあと言われた。 昼休憩になって手早くお弁当を食べ終わって並んで研究室へと向かう。 「何だろうね?」 「俺は夏休みの合宿の話だと聞いたけどな」 牧の言葉に一瞬イヤな予感が頭を過ぎるが、それは気のせいという事で処理しておいた。 「失礼します」と部屋に入ると、ウチの部の顧問、先生と高頭先生が仲良く何か企んでいるご様子。 「帰っていいかな?」 「例え帰ったとしても、結局は聞かなきゃならなくなるだろうな」 溜息混じりに牧に言われた。 「おお、来たか」 「待ってたわよ」 その後に『手薬煉引いて』という言葉が付きそうな笑顔だ。 「えーと、牧に言われて来たんですけど」 「ええ、そうね。合宿しましょう」 「ワケ分かりません」 満面の笑みの先生にあたしも満面の笑みで間髪いれずに返す。 「それがね。高頭先生に提案されたんだけど。今年のバスケ部の合宿を調理部が手伝うの」 「何でまた、今年に限って...」 高頭先生を見て聞くと。 何でも。毎年手伝ってくれている地元の婦人会の方たちがそれこそ今年に限ってその合宿に予定している間に旅行に行くとかいう計画を立ててしまっているのだとか。つまり、人手、というか、とにかく食料の確保が最優先課題となってしまったらしい。 バスケ部に保護者会とかないのかな?有りそうなのに... まあ、そんな困った状況の中、調理部部長とバスケ部部長が仲良しでもあるし、手伝ってくれとそういうことらしい。 『仲良し』って...否定できないわ... 「、凄い顔してるぞ」 牧に呼ばれて慌てて笑顔を作ってにこりと微笑む。 「そんな顔作ってももう遅いわよさん」と半眼になって顧問がコメントくれる。 「はっはっは。は素直だから顔に出やすいんだな」 と豪快に笑いながら高頭先生は言った。 「で、牧。お前はどう思う?」 話を振られた牧は 「俺は構いません。確認しますけど、調理部に手伝ってもらうのは、食事の事だけなんですよね?その他の事は例年通りに1年の仕事となるんですよね?」 と何だかキャプテンの顔をして受け答えをしている。 「ああ、それは勿論そうだ。どうだ、」 「人数が揃えば。元々人数が少ない部ですけど、夏休みは既に予定が立っている家も少なくないでしょうし、一応、3年は受験勉強に本腰を入れる時期のはずですので。過半数の参加があるようでしたら、という回答にさせてください」 元々調理部ってのは人数が多いわけではない。 今の部員は3年が5人。2年が4人で1年が3人。ああ、でも大会がない文系では多い方なのかな? ウチの部は、転入してきた人以外、4月の入部締め切り日までに入部届けを出さないと受け付けない事になっている。 それは、3年になってからの特権を目的で2年の終わりとかに入ってくる子がいたら今まで頑張っていた子達に悪いからとか。 だから、この人数は減る事はあっても増える事はない。 あたしのその答えに高頭先生は頷き、先生は「じゃあ、明日の部会で議題にしましょうね」と楽しそうに言っていた。 「態々すまなかったな。もういいぞ」 高頭先生の言葉を聞いて「失礼します」と頭を下げて部屋を出た。 「なんであんなに先生は嬉しそうにしてるんだろう?」 さっきの話は先生も絶賛推進派だった。 「海が近いからじゃないのか?」 牧が言う。 「近いの?海南大の合宿所を借りてやってるんだよね?」 「そうだが、まあ。近い方じゃないか?歩いて10分から15分程度で浜辺だ」 ああ、そりゃ近い。 「毎年合宿の最終日とその前日の練習は午前中だけになってるんだ。だから、最終日は帰る仕度をするようになるが、その前の日の練習後は自由時間だし最後の夜にはそこまで行って花火をしたりするしな。それなりに遊びの要素もあるぞ」 凄く厳しいというイメージしかなかったバスケ部だったけど、意外と遊び心も持ってるんだ。王者とか何とか言われてるけど、そこら辺の男子高生と変わらないもんね。 「そういえば、さっきの」 不意に牧が声を出す。 「ん?」 「何か、いつもの抜けてるじゃない感じがしたな」 「一言多い!カッコよかった?」 「まあ、いつものじゃない感じだったな。少し、驚いた」 牧の言葉にあたしも機嫌が良くなる。あたしだって本気を出せばこんなもんよ! 「...来れそうか?」 主語が無い牧の言葉は合宿の事だろう。 「分かんない。だって、今の部員数何人だと思ってんの?12人。そのうち3年があたし含めて5人!」 「...確率が低い、ということか」 「ということです」 あたしがしっかり頷いて答えると「そうか」と返事した牧の声が少しだけがっかりしていたような気がしてビックリした。 でも、見上げた牧はいつもの貫禄十分な顔で、あたしの聞き間違いだなって訂正しておくことにした。 |
桜風
09.8.12
ブラウザバックでお戻りください