| 神くんが居てくれて助かった... ああいう勧誘は苦手だから、大抵ああいうのが来たら最後まで聞いてそれで断るというコトをしていた。 中々断れないでいても、さんが帰ってきたら根掘り葉掘り相手の素性を聞き始めて、それが怖くなるらしく、あの手の人はすごすごと帰っていくのだ。 一緒に戻って、さっきまでと同じことをする。 あたしは料理。神くんは手持ち無沙汰。 手持ち無沙汰...新聞を手にしてテレビ欄を見てスイッチを入れる。 「バスケやってみるたいだよ」と言いながらチャンネルを変えると大きな人がちょうどシュートを放つシーンだった。 神くんは食い入るようにその画面に集中し始めた。 その間、あたしは神くんの胃袋の大きさを勝手に推測してそれを満たすような量のカレーを作り、ご飯を炊く支度をした。 後はじっくり煮込んで、というところまで来たから神くんのそばに行くと、神くんの目の前のグラスは空っぽで、さて、次は何を出そうかと悩む。 そして、気になるのが試合を見ながら神くんが色々と小さく呟いている。 こんな神くんは見たことないな... 面白いから神くんを観察することにした。 試合が終了し、神くんは小さく声をあげる。 「ビックリした。先輩、いつからそこに?」 「5分くらい前からかな?」 「そんなに前から?何してたんですか?」 「神くんの観察。中々楽しかったよ」 と答えれば、神くんは見る見るうちに真っ赤に染まっていく。可愛い... 玄関でガチャガチャと音がして、誰かの帰宅を知らせる。 「紳ちゃん!?」 と嬉しそうな声はさんのもので、あたしは思わず苦笑した。 「神くん、キミの出番だ」 あたしの言葉に神くんは心底不思議な顔をして首を傾げた。 そして、何のことか聞こうとした彼が口を開いた途端、何者かに後ろから抱きつかれて言葉を失った。 「あれ?白い」 さんは抱きついた相手の神くんを見て呟いた。 「残念、紳ちゃんじゃないよ」 笑いながら言うとさんは「あらら」と呟いた。 因みに、神くんはこの状況についていけずに固まっていて、それがまた可愛い。 「神くん。神宗一郎くんだよ。牧の後輩」 「ああ、だから美形さんなんだね」 さんは納得しながらまじまじと神くんの顔を眺める。 「いやぁ、ちゃんもわたしと同じで中々男を見る目があるね。紳ちゃんに続いてまたいい男を家に連れ込んで」 「言い方がかなり気になるんだけど?しかも、さんに『わたしと同じで男を見る目がある』って言われても全然褒め言葉に思えない...」 「ナマイキー」と笑いながらさんはやっと神くんから離れた。 「着替えてくるわ」 「うん。今日は約束どおりカレーだよ」 「やった!」と言いながらさんは自室へと向かった。 「ごめんね、神くん。予備知識の無い中であんなになって...」 未だ放心状態の神くんはやっと気を取り直したようで「ええ、驚きました」と呟いた。 「紳ちゃんって、牧さんのことですか?」 「そう。さんのお気に入り。だから、牧はウチに近寄らないよ」 笑いながら言うと、「まあ、確かにそうなるかもしれませんね」と神くんも笑った。 さっきまでスーツでビシッと決めてたさんは着替えてくるとダラダラな格好になる。 ジャージにTシャツ。そのギャップに神くんは少し驚いた感じがあった。 「わたしの旦那は?」 さんに聞かれて 「あたしの父はまだ帰ってきません。誕生日プレゼントを慌てて購入中に杏仁豆腐」 「まっさかー。愛する奥さんの誕生日をお忘れになるほど記憶はぶっ飛んでないでしょう?覚えているに、そうね。ちゃんがこの間ベタ褒めしていたカフェでランチ」 「早く父が帰ってこないかね?」 「杏仁豆腐って楽じゃない?桃饅頭も付けようよ」 あたしたちの会話は完璧神くんを置いてけぼりで、神くんは心底困った表情をしていた。 「宗ちゃん、自己紹介が遅れたけど。わたしは。戸籍上、ちゃんの母に当たるわ。実際は運命共同体でいわば戦友ね!」 さんが明るく自己紹介。すでに『宗ちゃん』呼ばわり... 「あ、神宗一郎です。海南大附属高校2年でバスケ部です」 神くんが律儀に自己紹介をすると 「ああ、だから背が高いんだ?」 さんは納得したように頷く。 「牧よりも高いよ」 「あら、ホント?ちょっと立ってみて」 さんに言われた神くんは立ち上がる。 「ちゃん、並んでみて」 「あたしが並ばないと背の高さ分かんないの?」 そう言いつつも神くんの隣に立つと本当に彼の背の高さを感じる。 「ああ、ホントだ」とひとりで納得していた。 座ってもいいのか分からないあたしたちはお互い顔を見合わせて笑った。 そのとき、丁度インターホンが鳴る。 「あたし、出る」 「勧誘だったら呼びなねー」 「ちゃんと相手を確認してくださいよ」 さんと神くんに声を掛けられて手を上げて答えながら玄関に向かう。 ドアの覗き窓から見ると黒いのが立っていた。 「どうしたの、珍しい」 ドアを開けて言うと 「さん、まだ帰ってないよな?」 と言いながら玄関の中へと足を進めてきた。 あたしは、黒いの、つまり牧の背後に回って玄関の鍵を閉めて、牧が逃げ出せないように右腕にしがみつき、 「さーん!紳ちゃんが来たよ!!」 とリビングにいるさんに声を掛ければバタバタとけたたましい音をさせて玄関までさんがダッシュでやってきて「紳ちゃーん!」と抱きついた。 あたしは牧の腕を開放してリビングに戻る。 そろそろカレーも頃合だ。 |
桜風
09.9.2
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