Sweet love 5






今朝海に行かないかと誘ったら、「今日はさんの誕生日だから」とが断った。

ああ、あのテンションはどう考えても夏向きだな、と思いつつ、何だかんだでプレゼントを買いに行く気になった。

それは単なる口実で、本当はの家に久しぶりに行ってみようと思ったのであって。

だから、さんが帰ってくる前に退散しようと思っていたのだが、それは既に叶わないことになっていた。

「あの、離してください」

さんに言うと、

「えー!」と抗議の声が上がりつつも抱きつきは収まり、腕は絡められる。

「上がっていくわよね?」

有無を言わさない声のトーンに頷いて初めて気がついた。でかい靴。おじさんだってそこまででかい靴は履いていない。

じゃあ、誰だ?

さんが腕にしがみついたまま俺をリビングへ引っ張って行って、思いがけない人物と目が合った。

「神!?」

「こんばんは、牧さん」

いつもの笑みを浮かべて神が会釈をする。

「どうして、神が?」

ちゃんが招待したみたいよ?うわぁ、両手に花だ、わたし」

「『花』って可愛い表現が似合うとも思えないけどね。その左側の方は」

が鍋をかき混ぜながらニヒルに笑ってそう呟く。

さんの左側。つまり、俺。

も、同じだろう?」

「あたしは可愛いもん!ね、神くん?」

そう言って神に同意を求め、神はやや照れながら「そうですね」と頷く。

「自分で言うと寒いぞ?」

俺が言うと「ムカつく〜!」と言って乱暴に鍋をかき混ぜ始めた。

「紳ちゃんもウチで食べていきなよ」

さんに言われて、もう掴まったのなら早々に帰る必要も無いから取りあえず、手を離してもらって家に電話をした。

お袋は俺がの家に長居するのが久しぶりで、それが楽しかったのか、「帰ってこなくていいから」とか言った。


「今日の夕飯ってカレーか?」

「そう。さんのリクエスト」

が楽しそうに答える。

「もっと良いものリクエストすりゃ良いのに...」

俺が言うと

「何を!?カレーを笑うものはカレーに泣くんだぞ!!」

さんがムキになってそう言う。

カレーに泣くってどんな状況だ...

「ああ、そうだ。俺が今日来たのは、コレ」

さんに差し出した。適当に選んだえらく派手なハンカチ。さんみたいに賑やかなヤツ。

「あら、わたしに?」

「誕生日だろう?から聞いた」

「まあ!ステキな男の子にプレゼント貰っちゃったわー!」

嬉しそうにさんは笑う。

「あ、あたしも!牧が今渡すならあたしも今渡す!!」

そう言ってが自室に走って行った。


「紳ちゃんさ。未だに好きな子を苛めるとかいう小学生みたいな愛情表現してんの?」

さっきまでのテンションではなく、幾分落ち着いた感じでさんが聞いてきた。呆れたように。

俺は返事をせずに視線だけさんに向けて笑った。さんの向こうの神は驚きを隠せないでいる。

ちゃんは素直だから、そのままを受け取っちゃうよ?名前に恥じないように紳士に振舞ってみたら?」

「アドバイスをどうも。でも、この方が近くにいられるんですよ」

「うわ、今紳ちゃんものすごく悪役っぽい顔をしてるよ。打算的!」

さんは笑いながらそう言い、

「宗ちゃんは今のままが良いと思う。うん。紳ちゃん路線で行くと失敗するよ?」

神に顔を向けて真面目にアドバイスをしていた。

神の表情は驚いたまま固まっている。

何かを言おうと口をあけたときに

さん!」とが戻ってきて、さんのテンションもさっきのものに戻った。

「何、これ?」

「ビーズアクセサリ。作ってみた」

「ホント!?」と嬉しそうにラッピングをはがして出したものはブレスレットっていうのか?それで、が嵌めてやってる。

「さすが、あたし!」

自画自賛。

けど、本当に素人が作ったものとは思えない出来栄えで流石だと思った。


少ししておじさんが帰ってきて、俺と初めて見る神に驚いたが、の友人だと分かると安心した表情になった。

「いっちょ前に娘の彼氏を品定めしようとしてんの?」

が言い

ちゃんが選ぶ子は大丈夫よ。反面教師がいたんだから!」

さんがトドメを刺していた。

気の毒に...

そして、俺が来る前にしていたらしい賭けだが、それはの勝ちで今度夏休み中にさんとランチに行けると喜んでいた。

おじさんはさんにものすごく怒られていた。女ってこういうのに煩いんだよな...

がケーキのデコレーションをしているときには神が「手伝いましょうか?」と声を掛けて「神くんは本当に優しい!」と俺の目を見て言う。あてつけのように。

良かったな、神。大絶賛だ。


さん、ロウソク何本?」

「35本挿せば?」

たしか今年で35だったと思う。

「34!4本とかで良いよ」

間違っていたらしく、さんに睨まれた。1歳くらい良いじゃないか。

「出来たよ」とが声を掛けてきて、ケーキを運んでくる。

部屋の電気を消してさんがロウソクの火を吹き消し、が丁寧に切り分ける。

「そういえば、さん」

さんが改まってを呼ぶ。

「んー?」とフォークを口に運びながらは返事をして話を促す。

「誕生日プレゼントください」

「さっきあげた」

間髪入れないの返事にぐっと詰まりながらもさんはめげずに言葉を紡ぐ。

「ではなくてですね、休暇と言うものを...」

「休暇?」

コーヒーを飲んでが聞き返す。

「そう。1週間ほど御旅行に...」

「2人で、でしょ?」

2人、というのはさんとおじさんのこと。は何だかんだと言って父親と行動したがらない。

今でもさんが出張で家に居ないときはウチに泊りに来るほどだ。仕方ないとは思うが...

さんもそれを知っているからなるべく泊まりの出張は控えているようだが、営業の仕事をしている彼女はそう簡単な話にならないみたいだ。

「いつから?」

「今月の16日から」

さんの言葉に、俺とと神はお互いを見合わせる。

「ああ、いいよ。あたしも16日から1週間、牧」

が説明しかけたところで

「デート?デート?デート!?」

と息の続く限りさんは『デート』を繰り返し訴えていた。そして、息を継いでいるときに静かに

「牧の所属するバスケ部の手伝いで合宿に同行するから」

とさっき言おうとした言葉を言い切った。

「つまりは、お泊りデートね!」

結局はデートの括りにされては肩を竦め、ケーキの続きを食べ始めた。









桜風
09.9.9


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