| 合宿6日目の夕飯の後は、昼間も行ったビーチで花火大会。 これは、火を使うから、と監督たちも一緒だ。 信長はロケット花火に追いかけられ、それぞれ思い思いに楽しんでいるようで。 ふと、首を巡らせて探した人物は見当たらず、もしかして合宿所に残ったのかなと思っていたら 「神くん」 と背中から声を掛けられて振り返れば探していた人物、先輩が立っていた。 俺が座っている岩場の上を少しバランスを取りながらゆっくり近付いてきた。 「大丈夫ですか?」と立ち上がって手を取れば、「ありがとう」と微笑む。 「神くんは花火しないの?」 隣に座った先輩が聞いてきた。 「ええ、まあ。見てるだけでも楽しいので」 と言って皆のいる方を見ればやっぱり信長がロケット花火と競争をしていた。 「清田くん、チャレンジャーだよね」 と言いながら先輩はクスクス笑っている。 「ねえ、神くん」 「はい?」 先輩の笑い声が心地良く、耳を傾けていると先輩が俺の名前が呼ぶ。 「じゃあ、さ。線香花火くらいはやらない?」 そう言って羽織っていたパーカーのポケットから線香花火が結構な量出てきた。 「これ、どうしたんですか?」 「向こうにあった線香花火、全部持ってきちゃった」 そう言って笑う。 たぶん、みんな最後の楽しみに思っているんだろうな、と思いつつもこのまま放っておけば良いやという気持ちにもなる。 「いいですよ」 俺が返事をすると先輩はおそらく一緒に持ってきたんだろう、ライターで火をつけた。 静かな炎が時折激しく輝く。 花火の炎の性質の問題なんだろうけど。線香花火をしているときは誰もが妙に口数が少なくなると思う。 それは、今の俺と先輩も例外じゃない。 お互い向かい合ってるくせに先輩は全然口を開くことなく、花火の炎を見つめていた。そして、俺はそんな先輩の表情を盗み見ていた。 「あたしさ、線香花火好きなんだよね」 先輩がぽつりと言う。目元が穏やかに緩む。 「そうですか」 「うん、そう。何か、余韻に浸れるでしょ?いいよ、そういう静かな感じが。終わるときもなんか潔くない?」 そう言って微かに笑う。 「たしかに、ぽとりと落ちてそれでお終いですよね」 「そう。他の花火だったらたまに突然またなんか出たりするでしょう?終わった、って思ったらちょこっと火花が出て驚くんだよね」 そう言って笑う。 「花火は良くするんですか?」 と聞けば、 「さんが好きなのよ、ああいう騒げるものが。だから、毎年公園まで歩いて行って打ち上げやら色々やってるよ。まあ、さんは途中から缶ビールを開け始めて結局あたしが独りで機械的に花火を消化していってるんだけどね」 と苦笑いを浮かべてそう言う。 「それは、勿体ないですね」と返すと、「じゃあさ。来年、誘ってもいい?」と言われた。 一瞬考えて、「ぜひ」と言い、「良かった。これで楽しむ花火が出来る」と先輩はまた笑う。 ぽとりと最後の線香花火の火球が岩場に落ちる。 「終わっちゃったね」 「そうですね」 少し離れた所から先輩が何か叫んでる。 「やばい、バレたかな?」 「かも、しれませんね」 お互い顔を見合わせて笑う。 「じゃあ、適当に誤魔化しちゃおう」 先輩がそう言い 「そうしましょう」 俺も賛成して岩場を降りる。 不安定な足場だから、と先輩を支えながら。 |
桜風
09.11.18
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