Sweet love 10





合宿の最終日、バスに荷物を載せている間にドサクサに紛れて先輩に声を掛けた。

「明日、デートしませんか?」

先輩は一瞬驚いたようにきょとんとして、

「どちらにエスコートしてくださるのかしら?」

イタズラっぽく笑った。

意外にもあっさりOKされて一瞬俺の方が驚いたけど気を取り直して、

「今晩電話しても良いですか?」

と聞けば

「いいよ。待ってる」

と返事があり、思わず先輩の目の前でガッツポーズをしそうになった。


その夜、電話の目の前で思わず正座をして電話を見つめる。

けど、自分のその姿を客観的に見ると凄く滑稽だからすぐに足を崩してダイヤルする。

『もしもし?』

「こんばんは、神です」

『うん、こんばんは』

「あの、遊園地とか平気ですか?人が多いと酔うとか」

『ないよ、今のところ』

「じゃあ、明日は遊園地にしませんか?」

『いいよ。時間と待ち合わせ場所は?』

「午後からでいいですか?」

『うん。神くん、休養日だけど明日も練習するんでしょ?終わってからでいいよ』

自分の行動を理解されているのが嬉しい。しかも、凄く当たり前のように言われた。

「じゃあ、14時にその入り口で」

そう言うと軽く了承されてそのときの電話は切った。

そして、部屋の中を見渡す。

明日、何を着て行こう。

一瞬こんな乙女な思考になった自分に思わず苦笑が漏れる。

気がつくと、受話器を握っていた自分の手にうっすらと汗が滲んでいて、誰もいないのに照れ笑いが漏れた。



翌日、約束の時間より30分も早く待ち合わせ場所に着いた。

先輩が来たらすぐに入園できたら良いと思い、チケットは買っておいた。

時間少し前に、キャップを被った先輩の姿を見つける。

キョロキョロと俺を探しているようで、「先輩」と駆け寄ると「ああ、神くん!」と軽く手を挙げた。

先輩は、黄色に近いオレンジ色のショートスリーブのポロシャツに細身のデニムカプリにサンダル。

凄くシンプルだけど、それでも、いつもは制服や昨日までの合宿のジャージ姿くらいしか見ないからとても新鮮で、しかも実年齢以上の大人っぽい雰囲気を漂わせていたのは、もしかしたら先輩が化粧をしていたからかもしれない。

何で俺はこんな人の多いところに行こうと話したのだろうとかなり後悔していたり。自分の意外な独占欲に気付いて苦笑が漏れる。先輩と一緒にいると知らない自分がたくさん出てくる。


「あ、やっぱり神くんはお洒落さんだ」

先輩はそう言って笑う。

「そうですか?」

「うん。雑誌とかそんなに見なくてもちゃんとオシャレが出来る人だね。羨ましいな...」

先輩だって、今日のそれ。凄く大人っぽいですよ。前に家にお邪魔したときとは全然印象が変わりました」

以前1度だけ見た私服姿を思い出す。あの時もカジュアルな格好だったけど、今のとはだいぶ印象が違う。

「ありがと」と先輩は微笑み、「じゃあ、チケット買おうか」と言われて思い出す。

「さっき、もう買いました。だから、もう行きましょう」

俺の言葉に先輩は驚いて「え、早い!いくら?」と聞いて鞄を掛けようとしたその手を掴む。

「俺が出しますよ」

「いやいや。そう言うわけには...」

断ろうとした先輩の手をそのまま引っ張って、つまり手を繋いでゲートをくぐった。

先輩も諦めたようで

「夕飯は、ご馳走させてね」

と言いながらそのまま俺に手を引かれる。

「あれ?作りに帰らないといけないんじゃ...」

確か、先輩の運命共同体のさんは家事が一切できないとか言ってたような...

「うん。今日は神くんとお出掛けするって言ったら、夕飯は外食で済ませるって。門限はないけど今日中には帰っておいでよって言われたくらいかな?」

これは予想もしてなかった。

家のことがあるだろうから6時ごろには先輩を家まで送り届けないといけないと思っていたからかなり嬉しかったりする。

「あ。でも、神くんが帰らないといけないってのだったらちゃんとその時間までに帰れるように遊ぼうね」

と気を遣う。

「大丈夫です。ウチは原則放任主義ですから」

そう言うと「じゃあ、思う存分遊べるね」と先輩は微笑んだ。




「まずはどれにします?」

遊園地内の地図を広げて先輩に見せる。

「近いし、此処は?」

そう言って指差したのは、この遊園地で一番人気のジェットコースター。

「これ、ですか?」

「うん。神くん苦手?」

そう聞かれたら「はい」なんていえはずも無く、実際苦手ではないから「大丈夫ですよ」と言ってその列に並んだ。


それから延々、先輩が行きたいというところは全て『絶叫系』という括りに入るものばかりで、しかも1度では満足できないのか、2度3度同じ物に乗る。

先輩って、案外体力あったんですね」

乗り物に乗っている間も壊れたのかと思うくらいケタケタと笑っており、それはそれで何となく怖かった。

「あれ?神くんギブアップ?じゃあ、どっかで休もうか?」

そう言ってベンチに向かって歩く先輩の手を取って

「次は、アレがいいです」

と指差したのは、お化け屋敷。

先輩が固まるのが掴んだ手を通して伝わる。

やっぱりそうだ。

地図を広げたとき、先輩はお化け屋敷の文字を見て少し眉を顰めた。

苦手なんだろうなって思ったけど、ちょっと悔しいからちょっとだけ意地悪をしたくなった。

「え、いや。神くん。この年でお化け屋敷ってのも、ね?」

後ずさりながらそういう先輩の手を引いて俺はお化け屋敷へと足を進めた。










桜風
09.11.25


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