Sweet love 11






独特のひんやりした空気と音と照明。

既に腰が引けている先輩が可愛いなと思いつつ、手を離して先を行く。

「ま、待って。神くん!」

慌てて追いかけてきた先輩は、俺の右腕にぎゅっと抱きついた。

...これは予想外。

あって手を握ってくるくらいかな?普通に服の裾とか袖とか、と俺の予想はその程度だったのに、先輩は俺の腕にぴたりと体をくっつけ、しかもその腕の篭る力が強くて、少しだけ悪いことをしたかもと思った。

「大丈夫ですよ。作り物じゃないですか」

まったく味気の無い慰めの言葉を口にしても

「でも、その中にホンモノがいたらどうするの!?」

と本気の目で訴える先輩。

「ホンモノがいたら、掴まえてみましょうよ」

本当に掴まえてみたい。

「神くんって、度胸あるね」

突然真顔になってそう言う先輩が可笑しくて思わず噴出すと「何で笑うの!」と拗ねた子供みたいに俺の右腕をぶらぶらと振って抗議する。

「まあ、とにかく。度胸のある俺が一緒なんだから怖くないでしょ?ちゃんと手も握っておきますから」

そう言って先輩の左手に指を絡めて、俗に言う『恋人つなぎ』ってやつでしっかり握る。

「うん、そうだ、キャーーーー!!」

折角頷いてくれるところだったのに、井戸の中から血を流し、髪を乱している人形に邪魔された。

やっぱり、苦手なものは苦手か...

涙目になって歩いている先輩を見て、少しだけ後悔した。

ちょっと意地悪しすぎたかも...

お化け屋敷の中では先輩は叫びっぱなしで、けどさっきまでの絶叫とは別のそれは酷く辛そうで。

やっと出口まで辿り着き、外の光を浴びたときには憔悴しきっていた。

あれだけ絶叫系でケタケタ笑いながら何度も乗っていてケロリとしていた先輩だというのに。

「あの、先輩。少し休みましょうか?」

声を掛けると少し覇気の無い表情で頷いた。

近くのベンチに先輩を座らせて「飲み物買ってきます」と声を掛けると「ごめんね、ありがとう」という声が返ってきて、尚更良心が痛んだ。

先輩の好きなレモンティを見つけてそれを購入して急いでベンチまで戻る。

先輩」と声を掛けると先輩は振り返る。何を見ていたんだろうとさっきまで先輩が見ていた方を見るとそこには観覧車がある。この遊園地のシンボルでもあるそれは、結構並ぶらしい。

「観覧車、乗ります?」

「でも随分並ぶみたいだよ?さっき側を通ったときに1時間待ちとか書いてあったし」

ありがとう、と俺の持っているレモンティを受けとってそう言った。

「でも、乗りたそうな顔をしてましたよ?」

俺が言うと、「正直、乗りたい」と言って苦笑いを浮かべる。

「じゃあ、並びましょう。あ、でも先輩は辛いですか?俺だけで並びましょうか?1時間待ちなら10分前に来れば良いし」

「ううん、一緒に並ぶ」

そう言って先輩は立ち上がる。

「大丈夫ですか?」

「うん、少し休んだから結構元気。行こう?」

そう言って先輩は大観覧車に向かって歩き始めた。


観覧車は相変わらずの長蛇の列で、今回は1時間半の待ち時間。

「延びましたね」

俺が言うと

「そろそろ夜景がきれいだからじゃない?1時間半も待てば丁度良いよ」

と笑いながら返す。

しかし、周囲を見れば明らかにカップルと言う表現が浮かぶ男女ばかり。

今、先輩が言ったように夜景を共に眺めようとかそんなことなのかなって思う。そして、俺と先輩も周りから見たら恋人同士に見えるのだろうか、と少しだけ気になった。

もし、周りがそう見ていたとして、先輩は嫌だとか思わないのだろうか?

一瞬、聞いてみようかと思ったけど、それで「イヤだな」とか言われたら立ち直れないと思うからやめておいた。


1時間半の待ち時間の後、やっとゴンドラに乗ることが出来た。

日は沈んで、ゴンドラの中から見える遊園地の敷地内もライトアップされ、その外の街にも灯りが灯っていた。

向かい合って座っていると

「今日は楽しかったね」

先輩が呟いた。

「それは何よりです」

そう言って答える。

突然先輩の目が輝き、「ねえ、あれ!」と指さしながら立ち上がる。

急に、しかも勢いを持って立ち上がったため、思いの外ゴンドラが揺れて先輩はバランスを崩してよろけ、咄嗟に手を伸ばして先輩の腕を引き寄せれば、想像以上に軽い体があっさり俺の腕の中に収まり、この予想外の事態にちょっとだけ驚いた。

「ビックリした...」

先輩も呆然とそう呟いて俺を見上げてはにかんだ笑顔を向ける。

先日の未遂を思い出して今度こそ、と思い顔を寄せると突然上空で大きな音が鳴り先輩は俺の腕からするりと抜けていった。

「凄い、神くん!花火だよ。近い!!」

ガラスに手をついて楽しそうに外を眺める先輩に「そうですね」と答えながら何となく安心した。いつもと変わらない俺と先輩の距離に。

変えたいと思う気持ちと変わるのが怖いと思う気持ち。

そのバランスが凄く微妙で、不安定だけど、もしかしたら今が一番心地良いのかもしれない。


「今日は本当に楽しかったよ」

先輩の家までの道のりでそう言われた。

「俺も楽しかったです。夕飯も御馳走になって」

「たまに、外で食べるのも良いよね」

そう言って笑う。

「またデートしましょうね」

俺が言うと

「エスコート、期待してますわよ」

と言って軽く膝を折った。スカートだったら裾を軽く摘んでいただろう、そんな感じ。

先輩のマンションの前まで送り届けて

「じゃあ、今度は学校で」

「うん、またね」

先輩はそう言ってニコニコと笑ってその場に立っている。

もう一度「じゃあ、」と言ってマンションを後にした。

一度振り返ると先輩はまだマンションの前に立っていて、俺が振り返ったのに気がついたのか手を振る。

俺もそれを返して、そして、本当はまっすぐ行ったほうが近いんだけど、この調子だと先輩は俺が見えなくなるまで外に居るのではないか思い、次の角で曲がった。

次に会えるのは1週間後か...

長く感じるんだろうな、と思いながら駅への道を歩いた。









桜風
09.12.2


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