Sweet love 13





3時間目が何となく面倒くさく感じられて屋上でサボることにした。たまにはこんな日があって良いと思う。

3年生は何だかんだで忙しいらしく、2学期になって1度も先輩のデザートを食べていないことを思い出す。

かといって「作ってください」なんて信長じゃあるまいし、図々しくねだれるものではなく、食べたければあのカフェに行けば良いんだろうなと思ったけど、あのときの先輩の声の調子が頭を掠めて、結局あのお店には行けなくなってしまっている。


先輩はきっと明確な境界線を持っている人なんだと思う。

そこまでだったらいくらでも近づいても良いし、それを許している。

けど、その境界線を越えようとすれば、きっとこの間みたいにはっきりと拒否するのかと思う。

だから、そんな先輩から昔の話を聞き出せた信長は、牧さんが言うとおり他人をリラックスさせる性質を持っているんだろうし。牧さんはそれこそ幼馴染として他の誰よりも先輩の近くに居る。

やっぱり、俺だけだと思った。


「あら。寒いのに、まあ...」

不意に声を掛けられて顔を上げると運が良いのか悪いのか。風に煽られて目の前のスカートが捲れた。

グレーと水色のストライプ。

慌てて抑えた彼女のその腕時計に見覚えがあり、更に顔を上げるとそこには

先輩!?」

「ちょっと、神くん。見たでしょ!!」

真っ赤になった先輩が居た。

「み、見てません!!」

「嘘だ!」

尚も顔を真っ赤にして言う先輩はこれ以上風にスカートを捲られないようにという気持ちでか、屋上のコンクリートの上にぺたんと座って俺の顔を覗き込む。

此処は日陰だから、正直コンクリートはひんやりと冷たい。

お尻が冷えるけど大丈夫なのかな?と思いつつも、困ったことに先ほどから俺の頭の中はグレーと水色のストライプが焼きついて離れない。

「見たよね?」

「見てませんよ」

「嘘だ。神くん顔が真っ赤だよ」

先輩にそう指摘されて慌てて頬を抑えると「やっぱり」と溜息と共に先輩が呟く。

つまり、鎌を掛けられたってことだろう。

目の前の先輩は膨れている。

「あの。ごめんなさい」

「すぐに謝っちゃえばいいのに」

まだ少し拗ねた感じの先輩はそう言って俺の隣に座って俺と同じようにフェンスに背を預ける。

少しフェンスが揺れた。


「風が冷たくなってきたね」

先輩は空を見上げて呟く。

「そうですね。先輩も、サボリですか?」

「ですよ。ノートは完璧に取ってあるから安心なんだ」

と笑いながら言う。

「いいですね。でも、怒られません?」

「怒られるよ。でも、結構慣れた」

カラカラと笑う。

「ねえ、お腹空かない?」

「朝ご飯食べてきてないんですか?」

「ガッツリ頂いてきたわよ。朝ごはん抜きなんて考えられない。けど、さっきの時間は体育だったんだよね」

イタズラっぽく笑う。

ああ、だから今も布製の鞄を持っているんだ?

ごそごそと鞄をあさって先輩は何かを取り出した。

「初めからサボる気満々だったから」

と笑って袋を開けるとその中からマフィンが出てきた。

「食べる?半分こしようか?」

先輩がそう言った。

「はい」

素直に頷くと先輩はそれを割って大きい方を俺にくれた。

「いいんですか?」

「ですよ。神くんのほうが体が大きいし」

そう言ってそのままぱくりと食べ始める。


「そういえばさ」と全部食べ終わった俺に声を掛けてきた。

「はい」

「この間。気にしてたでしょ?」

この間。気にする??

「何でしたっけ?」

「あたしのバイト先のカフェで店長が言った事」

そう簡潔に言われて頷く。

「あれね、専門学校の話」

「専門学校、ですか?」

「そう。あの店長の推薦でさ。行かないかって。結構有名なところなんだけど、だからこそ推薦が要るとか何とかで。それで、店長もその学校の出身者で推薦するよって言われてね」

「いい話、なんですよね?」

あのとき、先輩は結構迷ってる感じを受けていた。

だから、俺が聞いてもいい話しだと思うこの話は、先輩にとってはいい話ではなかったのかと疑問に思う。

「まあ、そうなんだけど。今も言った様に有名な学校で推薦が必要でしょ?行きたくても行けない人はたくさんいるよね。だから、いい話だったんだけどね。あ、結局は行くことにしたよ?まあ、試験があるらしいからそれに受かれば、だけど」

先輩は他に行きたいところがあったんですか?」

「ないね」

「じゃあ、何で?」

そう聞くと先輩は少し寂しそうに笑って

「ピーターパンシンドロームって知ってる?」

「大人になりたくないっていうやつですよね?」

先輩はそれに頷く。

「進路を決めるってのは大人になれって急かされているようで、あまり気持ちの良いものじゃなかったの。結局、あたしにあるのは勉強じゃなくて家庭科、というか料理だからそれ以外の選択肢はなかったんだけどね」

そう言って先輩は伸びをするように天に向かって腕を伸ばした。空を飛ぶ鳥の自由に憧れるように。

「ホントはね、あの時言っても良かったんだけど。けど、話を聞いたら神くん、いい話だってどちらかといえば勧めちゃうでしょ?」

「まあ、たしかに。今聞いてそう思いましたからね」

「だから、話したくなかったの。分かってたんだよね、いい話だって。けど、人に勧められてその学校を選んだって形にはしたくなかったの。自分が選んだ上で、背中を押してもらうのなら、いいけどね」

「牧さんには?」

「言ってないよ。牧こそ凄く勧めてきそうじゃん。だから、独りで決めてさんと父に話した。実際、早く家を出たいと思ってるから専門学校で技術を身に着けた方が早く独立できそうだし、店長も卒業後はバイトじゃなくて就職しないかって言ってくれてるから」

そう言った先輩はやっぱり少し寂しそうで、諦めを孕んだ表情をしていた。

「可愛いお嫁さんへの道は険しいみたいですね」

そう言うと先輩は驚いたように眉を上げて、

「そうね。でも、あとは相手次第だわ」

と言った。

「ねえ、神くん。知ってる?女の子ってのはね、恋をするとみんな可愛くなるのよ?」

そう言っていたずらぽく笑う先輩は可愛いと思う。

だったら、先輩は誰かに恋をしているのだろうか?

またしても、聞きたくても聞けないというジレンマに陥ってしまい、空を見上げて溜息を吐いた。









桜風
09.12.16


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