Sweet love ―杏仁豆腐―





練習試合をするから、と先輩を誘ってみたら「知ってる」と笑われた。

牧さんからか、それとも他の人からか。

どの道、試合があれば先輩に声をかけるというのがウチの部の隠れたルールのような気がする。

「来られますか?」

「間に合う、と思う」

「忙しいんですか?」

「試験の日とドンピシャ」と言って先輩は笑った。

『試験の日』というのはきっと専門学校のだろう。

「無理しない方が良いですよ」

試験の方に集中できなかったらそれはそれで拙いだろう。

「ああ、大丈夫。筆記なんてものは殆どないから」と先輩はまた笑った。頼もしい笑顔だ。



練習試合の相手は、正直びっくりしたけど翔陽高校。

翔陽との練習試合を組まれたことは今まであまりないらしい。今回は向こうからの申し込みで、監督は受けることにしたと言っていた。

翔陽は藤真さんがキャプテンで、監督。そうならざるを得なかったやんごとなき理由があるんだろうけど、少し変わったチームだ。

「間に合った!」

制服を着た先輩が体育館入り口でそう言った。

意外と大きな声で、みんなの視線が集まり、それに気づいた先輩は気恥ずかしそうにそそくさとギャラリーへの階段に向かった。

「あれ?!」

今度は藤真さんが声を上げる。

振り返った先輩も「おお〜!」と反応している。

「どういう知り合いでしょうか」

とりあえず、先輩の情報はこの人に聞けばたいていの事がわかる、と思って牧さんに声をかけてみたけど、牧さんも「さあなぁ」と首を傾げていた。

2人は何だか楽しそうに話をしている。

「神」と牧さんに声をかけられ、こちらのミーティングが始まった。

ミーティング中も何だか時々聞こえる先輩の笑い声が気になってあまり集中できなかった。

「藤真さんとどういう関係なんスかね?」

信長も気になったらしく、そう言ってきた。

「俺に聞かずに先輩に聞けば良いだろう?」

俺だって知りたい。

「そうっスね!」

そう言って信長は駆けて行った。

え、ちょっと!ホントに直球だろう!!

慌てて追いかけていくと先輩と藤真さんが俺たちに気がついた。

「ちわッス!」

信長が先輩に頭を下げ、「こんにちは」と俺も挨拶をする。

「試合、もう始まるんじゃないの?」

そう言って俺たちの後ろのベンチの方を気にしてる。

「ええ、まあ」

先輩って藤真さんと知り合いだったんですか?」

ああ、直球。

「うん。あ、藤真くんって言うんだ?あれ?バスケ部だったんだ??」

何か、基本的な情報を知らない知り合いって...

「オレ、甘党なんだよ」

藤真さんが口にしたその一言でどういう知り合いか何となく分かった。

信長は首を傾げているけど、親切に教えてやることもないだろう。

藤真さんはきっと、先輩のバイト先の常連か何かなんだ。だから、パティシエをやっている先輩と藤真さんは顔見知りではある。

で、何でちょっと馴れ馴れしいのかな??

藤真さんを見たらにやりと笑う。

何だろう、その笑顔。ムカつくんですけど...?

「神くん、清田くん。そろそろ先生のこめかみが大変なことになりそうなんだけど...」

言われて振り返る。

あ、ホントだ...

「じゃあ、また後でな

そう言って藤真さんが翔陽のベンチに向かっていく。

その間際にちらりと俺を見てニッと笑った。

あ、ムカつく。心からムカついた。

「いきなり名前呼びで呼び捨てぇ?」と先輩は特に気にしていないようでおかしそうに笑っている。

俺は全く以って面白くない!



試合は、ウチが勝ったけど。僅差で。

もちろん決勝点は俺のスリーポイントだけど。意地で決めた。

試合が終わり、藤真さんは監督に挨拶をして体育館を後にした。

先輩に特に声をかけずに。

「さっき、『後でな』って言ってませんか?」

「ああ、たぶん藤真くんは今日もバイト先に来る予定だったんでしょう」

ギャラリーから降りてきた先輩に声をかけるとそう返ってきた。

ああ、なるほど。って、『今日も』?!

「バイトなんですか?」

「今日は試験があったからシフト代わってもらったの。お休みよ」

思わず小さくガッツポーズ。

藤真さんは先輩のバイト先に行って、少し呆然としたら良い。

「神くん。なんか悪いこと考えている人の顔してるよ?」

覗き込んで先輩がそういう。

...ちょっと反省。

「ちょうど良いや」

そう言って先輩はバッグから何かを取り出した。

「死守するなり、分けるなり。神くんの心次第ってコトで」

手の上に載せられたのは、杏仁豆腐..かな?

「今日の試験で作ったの。今日、試験の途中に試験官が倒れてしまって1個余ったから持って帰れって言われたし。どうぞ?」

「いただきます」

これは死守しなければ...

「じゃあね。今日もかっこよかったよ、神くん」

「3割増ですから」

俺の返事に声を上げて先輩は笑い、「またあしたね」と言って体育館を後にした。

とりあえず、これは見つからないように先に食べてしまおう。

こっそり体育館を抜け出し、戻ったときにはきっとこっぴどく叱られるんだろうなぁと思いながら体育館から遠ざかった。





リクエスト内容
『sweet heartの主人公で、逆ハー(?)で、海南対翔陽の試合で、藤真vs神(あるいは海南3人)できれば神おち』

リクエストありがとうございました!!





桜風
09.12.30


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