| 何だか必要以上に長く感じてしまった夏休み残りの1週間が終わって9月になった。 でも、学校が始まったからと言ってすぐに先輩に会えるはずもなく。教室まで会いに行けばいいけど、最近の3年の校舎は何だか緊張感があって気軽に尋ねる事が出来なくなっている。 それは、進路と言うものを突きつけられているというコトで、そういえば、先輩はどうするんだろうって思った。 生物室からの帰り、見慣れた背中を見つけて思わず駆け出していた。 「先輩!」 振り返った先輩は「ああ、ノブりん」と言った。 「あの、『ノブりん』ってやめてほしいんスけど...」 思わず脱力しながらお願いする。 「やっぱダメか」と笑う先輩の笑顔はいつもと違って見えた。 「何か、あったんスか?」 よく見てみると牧さんがいない。 「牧さんと、喧嘩したとか...」 「牧とあたしはセットじゃないよ。もう!何でみんなそう思うのかなぁ...」 それは、いつも先輩が当たり前のように牧さんと一緒に居て、それに誰も違和感を感じないから。 そう思ったけど、それを口にするのがなんだかイヤで「すんません」とちょっとご機嫌ナナメになった先輩に謝っておいた。 「今日はあたし当番だったから片付けてて。清田くんは?」 「あ、俺も教室移動の帰りです。生物」 「あら、2年前どんな実験したんだろう、あたし」 そう言いながら笑う。 「そういえば、久しぶりだね。学校が始まってから清田くんウチのクラスに来ないよね」 「まあ。3年ってそろそろ忙しくなるんですよね。あんまり行ってたら邪魔になるんじゃないかって思って...」 そう言うと先輩の顔が曇る。 「そうなんだよね。皆ピリピリしてんの。やだよー。清田くんは2年後それだね」 明るい口調で、でも、どこか寂しそうで。 何か言ったほうが良いのかと考えてたら「清田ぁー」とクラスのやつが俺を呼ぶ。 「お友達が呼んでるよ」 「あ、はい。じゃあ...」 クラスのやつのところに戻って一度振り返る。 先輩の背中はいつもよりも頼りなく見えて、それは側に牧さんがいないからなのかって考える。 それから調理部の差し入れとかで何度か先輩と話をしたけど、先輩はいつもどおりのように見えて。 俺の勘って意外と当たるんだけど、今回は違ったのかなとちょっとだけホッとした。 10月に入って、昼間もだいぶ気温が落ちてきた。 昼休憩に中庭を通りかかるとそこには気に体を預けた女子がいた。 見慣れたその人に近づくと目を瞑って気持ち良さそうに寝ている。 けど、ここはちょっと寒いんじゃないかと思う。 だから、上着を脱いで掛けておいた。先輩が風邪を引いたら大変だ。 放課後になって掃除を済ませて体育館へと向かう。 そういえば、上着。どうしよう? 先輩はもう帰ったかな? そう思ってると 「清田くん!」 と俺の名前を呼ぶ声がしてそっちを見ると男子の制服の上着を持った先輩がいた。 「先輩!」 駆け寄るとその制服をズイと差し出してくる。 「これ、清田くんのでしょ?」 「あ、はい。何で分かったんですか?」 「勘っスよ」 そう言って笑う先輩から制服の上着を受けとった。 「ごめんね、今日ちょっと寒かったのに」 「大丈夫っス!このスーパープレイヤー清田信長は丈夫ですから!!」 「そっか。でも、本当にありがとうね。起こしてくれても良かったのに」 「い、いや。先輩、凄く気持ち良さそうに寝てたから。最近、元気ないみたいでしたし」 ああ、これ。俺の気のせいだったのに!! 思わずつい最近まで引っかかってた事が口に出た。 目の前の先輩は驚いたように目を大きくして、 「そう見えてた?」 と言う。 「まあ、はい。何となく、ですけど」 俺が答えると「ありゃりゃ...」と呟いて苦笑いをする。バレたか、といった感じに。 「清田くんも中々やるねぇ」 そう言って笑い、 「大丈夫だよ」 と言う。 その『大丈夫だよ』ってのにはきっと何の根拠も無くて、俺に心配かけまいという先輩のある意味口から出任せといった感情が含まれているようで。 だから、 「あ、こ、今度!」 つい慌てて口に出した言葉が 「今度、選抜の予選が始まります!見に来てください!!」 と結構どうでもいい言葉で。 「ダンク。ダンクしますよ、俺!」 となんでこんなに必死なんだろうって自分でも驚くくらい必死だった。 目の前の先輩もきょとんとしていたけど、突然噴出して 「行くよ。大丈夫。ガッツリ応援させてもらうから。そうだね、ダンク見せてね」 笑いながら俺の肩を叩いて帰っていった。 凄く、自分がカッコ悪く感じてしまったけど、さっき先輩が笑ったのは作り物でも何でもないってのがわかって。 そう笑わせたのはたぶん俺で。 だから、あんなカッコ悪くてもまあ、良かったと少しだけ嬉しく思えた。 |
桜風
10.2.3
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