| 部屋の隅にが移動したのを見て、俺もそこへ向かう。 「おう」と声を掛ければ、壁に背を預けていたが見上げて「おう」と返し、右隣りをトントンと叩いて「座れば?」と言う。 の右隣りに座り、壁に体重をかける。 は自分が持てるだけ缶を持って来たようで。 そのうち1本は今空になった。 「慣れてるな」 声を掛けると 「さんが一緒に飲まないかって誘ってくれるからね」 と笑いながら答える。 ああ、あの人なら未成年がどうこうと堅苦しいことは言わないだろうなと納得出来る。 「牧も、様になってんじゃん。ビジュアル的にも」 といつもの様に余計な一言を加えて笑う。 「ウルサイ」と返せば何が可笑しいのか、笑った。 暫く話さず部屋の中で増殖している屍をどうしようと考えていると左肩に負荷がかかる。 見れば、のつむじがあり。 つまりは、が俺の腕に体を預けてきたということだ。 「どうした?」 聞けば、ううんと首を振る。 「酔ったのか?」 気がつけば、の周りには本人が持ってきた缶は全て空になっており、俺が持って来た発泡酒に口を付けてる。 「まだ、大丈夫かな?」 比較的しっかりした声では答え、また一口缶に口を付ける。 「みんな、弱いね」とほぼ全滅した部屋の中を眺めながらがのんびり言った。 「まあ、高校生だしな」 と返せば、「そうだね」とクスクス笑う。 暫くして、がまたふふふと笑う。 「今度はなんだ?」 「牧と一緒にお酒を飲む日がこんなに早く来るとは思わなかった」 「そうだな」 「ねえ、牧。あたしのこと、好き?」 突然の問い掛けに不本意にも言葉に詰まり、 「酔ってるな?」 と聞き返せば、 「酔ってないよ」 と、酔っ払いの常套句を口にした。 はいよいよ酔ったらしい。 俺は溜息を吐いての腕を肩に掛けて立ち上がらせる。もう部屋に連れて行こう。 「ねえ、牧」とさっきの返事を促すように名前を呼ぶ。 その声は、鼻にかかったやけに甘い声で、あのでもこんな声が出せるのかと見当違いも甚だしい感想が頭に浮かぶ。 「ああ、好きだよ」 伝えられずに抱えている想いを酔っ払いの幼なじみに向かって口にした。 大抵のことに大雑把なだが、家庭科と括られることへの矜持は意外にも高く、それは分野が違うにしても俺と同じで。 だから、近くにいても心地よかったのだろうし、それは変わらないと思う。 時々考えていた。 に男ができれば俺は今の場所に当たり前のように立つことは許されないだろう。だが、納得できないだろうな。 俺はを支えていると自負している。 だから、が何処かへ行くといえば、もしかしたら止めるかもしれない。 そんな権利はないのに。 それで止まってくれなかったらショックを受けるんだろうな。 の部屋の前までやってきた。 「鍵は?」 「ここ〜」 と間延びした声で尻ポケットを叩く。 「出せよ」 「ふっふっふ。取ってごらんなさい」 と言って得意げに笑う。 は何がしたいんだ? 言われたとおり尻ポケットに入っている鍵を取り出したら 「牧のすけべー」 と笑った。 「男とは、大概そう出来てるものだ」 と答えながら鍵を開けて部屋に入る。 同室のひとりはもう寝ていた。 の着ていたシャツが畳んで置いてあったため寝床はわかり、布団を剥いだ。 「いやよ。まだ寝ない!」 駄々っ子よろしくが抵抗したが、膝の裏に手を差し込んで抱え上げ、そこに寝かし付けようとしたが、逆にが俺の首に腕を回してきたため、それが叶わなくなる。 「手を離せ」 「いや!」 取り敢えず、の背が布団に着くように体を屈めた。 「ほら、寝ろ」 すぐ目の前にあるのは、酔って朱のさした自分の惚れた女の顔。 アルコールのせいもあってか、暑いらしくうっすらと汗を掻いている。 「おやすみのチュウしてくれたらいいよ」 どれだけ酒癖が悪いんだ。 据え膳喰わぬは何とやら。 俺はの唇に触れる寸前で止まり、軌道修正して頬にキスした。 敢えて『何とやら』を選ぶことにした。 このまま自分の欲望に身を任せてしまったら、今までの心地良い関係でいられなくなるのは目に見えている結果で。 それは俺の望む形ではない。 「じゃあな、おやすみ」 声を掛けてから離れた。 「牧...」 いつもより、少し甘えた微かな声が俺の耳に届く。 「何だ?」 「お色気ムンムン...」 ......。 寝言、だよな? 寝言だ。寝言だが、すごく気になる単語で、でも、明日の朝聞くとどうせ覚えてないんだろう。 さっきの部屋に戻り、まだ意識のある者に言い付けて潰れた奴を部屋に帰した。 と同室のに部屋の鍵を渡してついでに酔い潰れたのことも頼んでおいた。 明日の練習、コイツら大丈夫か? 一抹の不安を感じながら、部屋のなかを片付けることにした。 |
桜風
09.9.23
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