Sweet love 9





2日目の練習は思ったとおりに皆グダグダで、監督の怒声がいつも以上に飛ぶ。

それは調理部も似たようなものだったらしく、ただ、運動をしなくていい上に、空いた時間がある分向こうは楽そうだ。

その中で、あれだけ飲んで酔い潰れたはずのは、結構しっかりしており、同学年のがダウンしてしまって大変だと笑っている余裕すらあった。

実際、食事に関しては人数が減ったにも拘らず、時間までにはしっかりとした食事を大量に作り終えており、実は部員が過半数もいなくてもがいれば何とかなるんじゃないかとすら思うほどだ。


そして、午後の練習にはも見学にやって来た。

「昨日は来なかったのに珍しいな」

と声を掛ければ

「今日はもう大丈夫っぽいから」

と返事がある。

は昔から自分の頭の中で考えていることの一部を口に出して、そのクセそれを説明しようとしないから的を得た答えというものが中々返って来ない。

まあ、俺はもうそれに諦めというものを備えているため気にならないが、部員たちは大丈夫なのだろうかと思うこともある。

しかし、そんな答えを言う割にはの手には計量カップと計量スプーンが有り、

「何でそんなものを持ってるんだ?」

と聞けば、ポカリの粉とそれを薄める水を手にした。

容器に粉を入れてその説明を読み、水を計量カップで測りながら入れて薄めていく。

これは、にとってみれば料理の部類にでも入るのか、完璧を目指すつもりらしい。

「牧、飲んで」

側で観察していた俺にそう言ってコップに注ぐ。

「少し、濃いな」

一口飲んで感想を言うと「そっか」と呟いて今度は計量スプーンでちまちまと水を足していく。

足すたびに俺は味見係として一口飲まされる。いい加減水腹になるような気がするな、と思った頃に漸く丁度いいものになっていた。

「丁度いいぞ」

と言えば、は持っていたノートを千切って今入れた水の量を書く。

「これで、今後も美味しいポカリが出来るよ」

と言って満足そうに笑う。

「しかし、それでいいとは限らんだろう?」

そう言ってみる。俺の味覚でのポカリだ。

「そんときは、牧が責任を取ってくれたらいいよ。牧の舌に合わせたんだから」

そう言ったはニヤリと笑う。

しかし、すぐに

「まあ、あれだけ毎日市販のポカリを飲んでるんだから舌がそれに慣れてるんでしょう?だったら、文句はその製造会社の方に言えばいいじゃない。うん、そうしてもらいなよ」

相変わらずそういうところはいい加減で、そして非常識な事をそれと理解して言葉にする。

俺が溜息を吐くと何が楽しいのか、は笑った。



その日の勉強会にもの姿はなく、いい加減自力で多少なりとも勉強をしろと文句を言いに部屋を訪ねた。

すると出てきたは先ほどまでのスウェットではなく、ジーパンにTシャツといういでたちに着替えていた。

「脱走か?」と聞けば、「何か、ポカリの在庫少なかったよ。明日の練習分有るか無いかじゃない?」と言われて思わず眉間に皺が寄る。

ちゃんと確認しろと言ったのに。

が、すぐに思い出す。この合宿でのポカリは学校の練習で飲んでいるものよりも少し濃いめだった気がする。

その上、練習が厳しく喉の乾きも学校での練習とは比べものにならない。

つまり、学校での練習並にしか考えていなかったのだろう。だが、それにしてもなくなるのが早すぎるため、やはり買出しのミスだと思った。

そして、さっきのの言葉を思い出す。

「買いに行くのか?」

「領収切ってもらえばいいんでしょ?」

「まあ、そうだが...」

此処はかなり田舎という状況に近いため、人通りは少ないが街灯も少ない。

「俺も行こう」

本来なら買出しは1年に行かせるべきかも知れないが、既に行く気満々のを止める術はなく、だったら俺が一緒に行ったほうがいいと思いそう言った。

「お?牧と一緒なら先生に見つかっても怒られそうにないね」

笑いながらが言う。

丁度廊下で擦れ違った宮に先ほどの話の流れを説明して外出した。


敷地から出ると少し先を歩いていたが振り返り、「冒険みたいでワクワクするね」と言って笑った。

「はしゃぐなよ」

そう声を掛けても聞かないで嬉しそうに笑いながら俺に体を向けて後ろ歩きで少し急勾配なふもとへの坂を下る。

「危ないぞ」と声を掛ければ「平気だもん」と返事をして、更に空を見上げ始めた。

しかし、案の定というか。

は足を引っ掛けて背中からこけるという器用な事をするところだった。

手を伸ばして腕を掴む。

「だから言ったろう?」

「ごめんごめん」とおおよそ反省の気持ちがこれっぽっちも篭っていない言葉を口にしては進行方向に向き直る。

俺が掴んだ手はそのまま繋いだ形となり、が嫌がる気配が無いため、そのまま繋いで歩くことにした。

「牧と手を繋ぐのってどれくらいぶりだろうね」

「小学校の低学年くらいまでは繋いでたかもしれないから、10年か?」

そう言うとは「そっかー。10年だ」と感心と驚きの両方を含んだ声で頷いた。

「牧の手っていつの間にかマメだらけだね」

「気持ち悪いか?」

不快感を感じるなら手を離すべきだろうと思って聞いた。

「ううん、そんなこと全然思ってないよ。凄い練習したんだね」

何だか改まってそう言われると少し気恥ずかしい。

「まあ、俺にとってバスケは優先順位の1位だからな」

「だよね」

しみじみと頷く

でも、本当はそれと同じくらいのものが有り、それは目の前で神妙な顔で俺の言葉に頷いたやつで。

きっとコイツはそんなこと微塵も思っていないんだろうと思った。

坂のふもとのコンビニのポカリを買占め、領収を切ってもらい、今度はあの少し急な坂を登っていく。

下りと違っての口数は極端に減っていき、それは登るのが精一杯だという事だ。

荷物は持ってやってるし、それ以外だったら。

「負ぶってやろうか?」

と聞くと

「大丈夫!足手、まといな、ら置い、てって」

と気丈に振舞うも、すでに息切れが酷くもう少し歩く速度を抑えて、更に休憩を何度も入れて合宿所へと戻った。


翌日、は俺に向かって筋肉痛を訴えてきた。

「だから、負ぶってやろうかって言ったんだ。寧ろ、運動不足ということでもっと運動したらどうだ?」

と言えば、

「翌日に筋肉痛が来たということは、まだ若い証拠よ!」

と拳を握りしめて言う。

高3の人間が何を言ってるんだか...

相手をするのが面倒くさくて適当に返事をしてその場を収める事にした。









桜風
09.9.30


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