Sweet love 10






合宿6日目は練習は午前中で、午後からは自由時間となる。

それは大抵皆海に出かけて遊んで過ごすというのがよくあるパターンだ。

俺としては同じ海に行くならボードに乗りたいというところが本音だが、生憎そんなものは無く、はしゃぐ部員たちを眺めて過ごした。

「オッサン臭い」

頭の上から声がして見上げるとパーカーを羽織ったが立っていた。

「何が?」

聞き返せばは俺の隣に腰を下ろして、さっき海の家で買ってきたのかラムネを持っていた。

「この、部員たちを見守ってる牧ってのがね。何か。子持ちのお父さんて感じ?」

失礼なことを言う奴だ。

「若い父親だな」

そう言うと

「いやいや。あたし今言ったよね。『オッサン臭い』って。あ、飲む?」

「炭酸は飲まない事にしてるからいい。だが、相変わらず失礼だな」

さっき思ったことを言ってみる。

するとは苦笑いをしながら「あら、ごめんなさい」と全く心の篭っていない謝罪を口にした。余計に腹立たしい。


暫く並んで海を眺めていたが、が突然

「今日の波はどう?」

と聞いてくる。

「ん?まあ、どうかな?悪くないと思うが...」

「浮き輪で波に乗れないかね?」

「俺は曲芸師じゃない」

と返事をすれば、「ああ、そっか」とつまらなさそうに返事をした。

「お前こそ、海に入らなくて良いのか?」

「あたし、別に泳ぐのとか好きじゃないし。特に海は」

そう言いながら空になったラムネのビンを小さく振る。中のビー玉がカラカラと少し涼しげな音を立てた。

「さて、と」と言いながらは立ち上がり、尻についた砂を払った。

「あたし、戻るわ」

そう一言いう。

「戻るって、合宿所にか?」

「うん。材料切っとく。それに、ここにいても日焼けしちゃうだけだしね」

そう言ってラムネの空き瓶を持って海の家へと向かって行った。


この合宿最後の夕飯は毎年バーべキューで、今年も例年に倣ってそうするとが言っていた。

たしかに、バーベキューなら材料を切るだけで、あとはバスケ部にでも丸投げするのだろうが...

「一緒に戻るか?」

鞄を取りに戻ってきたに声を掛ける。

先日あの登り坂でへばっただ。あの時は夜で今と比べれば涼しくてあれだったのに、今、炎天下のこの空の下、はちゃんと登りきれるのだろか?

「ありがとう、大丈夫。牧はみんなのお父さんしててよ」

そう言って軽く手を振って合宿所へと帰って行った。

まあ、へばったらちゃんと休憩するだろう。

さっき見えた鞄の中にはお茶が入っていたことだし、水分補給の方も問題ないだろう。



夕飯はの予告どおりにバーベキューで、それを焼くのは3年の仕事という伝統がある。

そして、そのバーベキュー監視担当、つまりは結果的に焼くほうに係わっているために自分が一番食べられないというポジションを俺が引き受ける事になった。

そして、調理部部長のもそれなりに忙しそうに駆け回っている。

「牧、代わろうか?」

と言ってきたのはで、何となく断った。

いつも美味いもの食わせてもらっているのだから、焼くことくらいはちゃんとしよう。

しかし、は俺の側から離れる事をせず、

「食べさせてあげようか?」

などとニヤリと笑いながら言い出す始末で、正直、困った。


部員たちの腹も随分満たされたらしく、やっとゆっくり俺も食事にありつけるようになった。

会話をする余裕も生まれてくる。

「そういえばさ。今日一人で戻ったじゃない?」

「ああ」

も一応気を遣っていたのか今になって会話を振ってきた。

「陽炎が立ってたよ。それに気付いた途端倒れるかと思った」

「陽炎を見るまで暑いのに気がつかなかったのか?相変わらず鈍感だな」

と返してみると「あたしが行き倒れていたかもしれないってのに、何その言い草!」と怒り始める。

「行き倒れてたら、帰りに俺が拾ってやってたよ」

「...ああ、だから牧は無駄に体がでかいんだね。あたしが倒れたとき要員のために」

は何故か深く頷いた。

「無駄にとか言うな...」

俺の反応が可笑しかったのか、は笑い始め、よくよく観察していたら。ウチの部員たちを凌ぐ量の肉を食べている事に今気がついた。

「太るぞ?」

俺のこの一言の返事は、無言の蹴りだった。









桜風
09.10.7


ブラウザバックでお戻りください