Sweet love 11





合宿が明けて翌日はまたしても休養日となる。

本当ならもう1回くらい海に行きたかったが、今朝掛かってきた突然の電話でそれは阻止された。


「おい、こら。早く写せ」

早く写し終われば少し出かけることだって出来る。

「暑くない?面倒くさくない??」

「というか、普通は写すのではなく、自力でやるものなんだ。それをは楽をしているんだぞ?」

一応正論を言えば、

「牧が先生くさい...ひいてはオッサンくさい事を言う!」

と文句を垂れながら用に出してやった折りたたみ式のテーブルに突っ伏した。

中身を見れば、残り4分の1くらい。

「ほら、あと少しだろう?それを終わらせたら残りの夏休みは完全フリーだろう?」

俺は部活があるけど。

何とか宥めながら宿題をさせている自分はの父親かと時々錯覚を起こしてしまう。

のろのろと体を起こしてがシャーペンを手に持って書き写すかと思えばくるくるとそれを回す。

「ねえ、ここって何でこんな答えになるの?」

に聞かれて問題を見る。

「ああ、ここは...」

は頭は悪くない。宿題も唯書き写すだけのことの方が多いが、ちゃんと考えることだってある。

だから、が赤点を取るのはやる気が非常に無かったときだけで大抵は赤点ギリギリに留めている。

つまり、の勉強に於いての欠点はそのやる気のなさで、料理に注いでいる情熱を少しでもそっちに回せば教師が注目するくらいにはなるはずだと俺は思う。贔屓目抜きで。


実際、ヤル気になったは残りの宿題の写しは30分くらいで終わらせた。

たぶん、さっきまでのペースで行ったら夕飯を作りに帰らないといけない時刻までのらりくらりとしていたと思う。

「何で、いつもそんなにヤル気を出さないんだ?」

「さあ。何でかね?」

そう言いながらは俺のベッドにダイブした。

「何はともあれ、夏休みの宿題、終わったー!」

そう言って布団に顔を埋めて嬉しそうに足をバタつかせる。

「おい、コラ。降りろ」

「やあだ。気持ちいいんだもん」

そう言ってうつ伏せのまま枕を抱え込む。

取り敢えずテーブルの上を片付けて、の荷物は俺の学習机の上に置く。

ベッドの側に腰を掛けると

「アイス」

と一言くぐもった声でが呟く。

「何だ?」

「アイスが食べたい」

「作ればいいだろう?」

そう言うとガバッと顔を上げて

「アイスは作らないの。市販のが満足できるくらい美味しいし安いし」

と言う。

「けど、ウチにはないぞ。普段俺も食べないし」

と言えば、

「5分くらい歩いたところにコンビニエンスストアという便利なお店があるじゃありませんか」

とにこりと笑う。

「行って来いよ」

が言いたいことは分かるけど、流石にすんなりパシリになるつもりはない。

「牧は外に出たがってたじゃん。あたしは暑いのイヤだって言ってたでしょ?つまりは、どういうことか分かるよね、成績優秀の牧さんや」

「ヤル気を出せばもしかしたら俺よりも成績がよくなるはずのお前の考えは、残念ながら全く想像も付かないな」

「まったまたー。分かってるクセに!!つまりは、『買ってきて、牧』ってお願いしてるのよ」

そう言った後、もう1回「ね、お願い」と言われて俺は渋々立ち上がり財布をポケットに入れた。

「寝るなよ」

そう一言言って自分の部屋を出た。


コンビニに着いて以前美味しいとが主張していたアイスを2つ購入して急いで家に帰る。

家とコンビニを往復する、ものの10分も経たない内に俺の予想通りに俺のベッドの上のは寝息を立てていた。

だからイヤだったんだ。

部屋まで持って上がったアイスを冷凍庫に仕舞うべくもう1度部屋を出た。

喉が渇いていたため、冷蔵庫に常備してあるポカリを飲んで再び自分の部屋に戻る。

取り敢えず、ベッドに背を預けて本を読みながらが起きるのを待つことにしたが、それでも、やっぱりこの静かな空間で耳に入るのはの寝息で、どうも落ち着かない。

「暑かったから」とこの部屋に入ってきた途端、上に着ていたシャツを脱いでタンクトップとショートパンツという姿になったときは本当にやめてもらいたいと思った。

そして、今もその格好で俺のベッドに寝そべり、寝返りを打てばわき腹や背中がチラチラ見える。

寝返りを打つときにの口から漏れる声が少し悩ましげで、合宿のときに引き続いて『据え膳喰わぬは何とやら』ってやつかと思う。


結局、文字が頭に入ってこない本をパタリと閉じての顔を覗きこむ。

成長しても寝顔は昔と変わらないとよく言ってる奴がいるが、もその例に漏れず、あどけなさの残る寝顔は昔のを思い出させる。

髪を梳けば少しくすぐったそうに肩を竦める。その仕草が愛らしく、毒気が抜かれてしまった俺はやはり『何とやら』の方を選ぶ事となった。

の間抜けで幸せそうな顔を見ていると俺まで眠たくなってくる。

取り敢えず、に大きめのバスタオルを掛けてやった。


いつの間にかベッドに顔だけをうつ伏せて寝ていた俺の肩にはさっきに掛けてやった大きめのバスタオルが掛かっていた。

時計を見ると既に7時近い。

は夕飯の仕度をするために家に帰ってしまったらしい。

1度伸びをして体を動かすとポキポキと骨が鳴る。少し無理な体勢で寝ていたせいかもしれない。

立ち上がれば俺の学習机の上に紙切れが置いてあり、

『お邪魔しました。牧のベッドは気持ちがいいね。ついでに、寝顔だけは年相応に見えるね』

と、は何とも喧嘩を売っているとしか思えない置手紙を残していた。


取り敢えず、俺をパシらせて何も無く済むとは思っていないだろう。

だから、次にが菓子を持って家に来るのが少しだけ楽しみに思う。

どんな顔をして来るのだろう?少し怒ったフリをしたらどう反応するだろう?

少しだけ、意地悪をしてみようと思った。









桜風
09.10.14


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