| 夏休み最後の日、は何故か作らないと言ったアイスを持って家にやって来た。 「何だ、作らないんじゃなかったのか?」 「そのつもりだけど、一応。でも、やっぱりこれに関してはあたしは市販のが好きだわ」 と言いながら皿に盛り付ける。 「どうぞ」と言われて差し出されたそれをスプーンで掬って口の中に入れると甘さ控えめなバニラアイスは口の中でさらりと溶けた。 「俺はこっちの方が好きだな。あっさりしてる」 「あたしはもうちょいしつこい甘さが欲しいのよね、アイスに関して言えば」 そう言いながら自分の皿の中のアイスを掬っては口の中に運んでいた。 「なら、ウチの冷凍庫にあるの持って帰れよ」 と言えば、少しだけ目を大きくして「あるの?」と聞く。 「この前、お前の我侭で買ってきてやったアレだよ」 「牧は食べなかったの?」 「俺は普段食べないんだよ。持って帰れよ、2つとも」 そう言うと、喜びたい気もするけど、素直に喜ぶ事ができないという顔で葛藤し始めた。 その表情が面白いから少しの間、放っておく事にした。 2学期が始まって、久しぶりに制服姿のを目にする。 クラスメイトに「宿題やった?」と聞かれて「ばっちり!」と答えているは凄く誇らしげに頷いていた。 俺の宿題を写しただけだというのに... 2学期早々席替えをする事になる。 「牧の後ろがよかった...」 そう呟きながらはくじを引いて戻ってきた。 黒板に書かれている番号を見ながら、机を抱えて移動を始める。 「何番だ?」 「18。窓から3列目の一番後ろ」 「俺は24だ。隣だな」 そう言ってさっき自分が引いたくじを見せるとは俺の腕ごと掴んでそのくじに書かれた番号を確認する。 「やった!」と小さく呟くの真意が分からずに次に発する言葉を待っていると「これで、教科書持ってこなくて済む」と言ったから思わず「コラ」と頭を小突いた。 俺が小突いた箇所を無言で擦りながらが恨めしそうに見てくる。 「教科書くらいは持って来いよ。宿題も写して教科書も持って来ないって、どれだけやる気がないことをアピールしたら気が済むんだ...」 溜息混じりにそう言うと 「わかった。教科書くらいは持ってくるけど、宿題はしない」 不満そうに宣言した。 何故、それで不満なんだ...? 今度は隣という事もあって、は比較的授業中は起きているほうで、本当に俺を壁にしていたから思う存分寝ていたんだと感心する。 そして、3年の2学期ともなれば既に殆どのクラスメイトの希望進路が決まっており、進学する者は当然志望校まで定めている。 そんなクラスの雰囲気には心底居心地が悪そうだった。 「まだ、決まらないか」 声を掛けると「何が?」と聞き返すことはなく「うん」と力なく頷く。 「まあ、『可愛いお嫁さん』と言っても相手が見つからない事には何とも出来ないしな。いい加減、どっちか決めろって?」 今日の昼休憩に担任に呼び出されたに聞くと「うん」と頷く。 は大人になるのを嫌っている。 大抵の人間はそういうところが多少なりともあるだろうが。両親の離婚を経験しているは大人にはなりたくない、と昔ポロリと零していた。 だから、進路調査票に子供じみた事を書くし、でも、それは恐らく本人にとっては無意識の選択なのかもしれない。 両親の離婚したてだったときのの様子を見ているから俺自身、あいつに「大人になれ」なんて言えず、だけど、どうにかしてやりたいってのはあって。 さて、どうしたものかと悩む。 と言っても、俺がに割いてやれる時間は本当に少なく、冬の選抜に向けて練習が段々厳しくなってくれば、逆に自分のことで手一杯になりに構ってやれなくなるのは事実だ。 「牧は?」 そんなことを考えていればが聞いてきた。 「俺?俺の進路の事か?」 聞き返せばこくりと頷く。 「学校まではまだ決めていないが、大学進学するぞ」 「バスケ?」 「ああ。推薦の話を貰っているからな。答えは冬の選抜が終わるまで待ってもらっている」 と答えると「そっか」と項垂れたまま呟いた。 「ゆっくりでいいんじゃないか?どちらも選択しないって選択肢もあるんだしな」 「ニート?」 「...それは、まずいか」 流石にそういう選択肢は勧められない。 「まあ、追々決めるよ」 「俺もあんまり時間は取れないし、相談にも乗りづらいけど。愚痴を聞くくらいの時間はあるからな」 と言えば「ありがと」と少し寂しそうには笑った。 |
桜風
09.10.21
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