Sweet love 13





部活が終わって家に帰る途中に偶然見かけてしまったのがさん。

いつもだったら逃げるように、見つからないように歩く道を変えて家に帰るけど、今日はそうはせずに、寧ろ俺から声を掛けるという選択をした。

「あら、紳ちゃん?」

さんはと似ている。

表と裏があって、それは極身近なものにしか見せない顔というもので。さんの場合、あの異常なまでのテンションの高さは作り物っぽい気がする。不安を紛らわせるように。

「こんばんは」

「部活の帰り?結構遅いのね」

「大会が近付いてますから」

と答えれば、「まだ引退してなかったの!?」と驚かれた。

まあ、多くは夏で引退するだろうから、さんもそう思っていたのかもしれない。そして、ひとりで「だからなのか...」と何かに納得していた。

「何が、ですか?」

何となく予想できたけど聞いてみた。

ちゃん」

「やっぱり、そうですか...」

「時間ある?ちょっと寄り道しない?」

そう言ってさんは態々電車に乗って少し離れた町の喫茶店へと俺を連れて行った。


「ごめんね、こんな遠くまで」

「いえ。近所の人たちに見られるとの耳にも入り易いですから」

俺の答えにさんは少し寂しそうに頷いた。

注文を取に来たウェイトレスに注文を済ませて水を一口飲む。

「学校であの子、どう?ほら、わたしは懇談のときに先生から聞く話くらいしか知らないから。家で学校の話あまりしないのよ。友達の名前も少ないし」

そう言うさんは、今まで見たことがないくらい不安を露にしている。

「友達、というか、クラスメイトとはそれなりにつるんでいますけど、大抵俺と一緒にいますね。だから、ウチの部員には顔見知りも多いし、神みたいに後輩も懐いてますよ。ただ...」

「『ただ』、何?」

「やはり少しは浮いてるでしょうね。俺と一緒にいることが多いってのもその原因のひとつでしょうけど。他人と必要以上に仲良くならないようにしているというか。だから、神や、あと清田って後輩もいるんですけど。アイツらがちょっと特殊ですね」

「清田君って、秀吉君?」

「惜しい、信長です」

「ああ、そうだったっけ??」

さんが知っているということは、清田の名前も家で出ているという事だ。


ウェイトレスが注文の品を持ってきた。

俺が注文したワッフルセットを迷わずさんの前に置いたのを見て俺とさんは小さく笑う。

ウェイトレスが去って行ったのを確認して俺とさんはお互いの注文したものを取り替えた。

「まさか紳ちゃんがワッフルなんて、って思ったのかな?」

クスクスと笑いながらさんが言う。

「でしょうね。と出かけたときもよくされますよ」

ナイフとフォークを使ってワッフルを一口大に切って口の中に放った。


「わたしね、不安なのよ」

いつも明朗快活わが道を猪突猛進のさんの口からそんな言葉が漏れるとは全く想像もつかないことで。

俺は口に運びかけたワッフルを途中で止めて暫くそのままの姿勢になっていた。

「紳ちゃん、今凄く間抜け面」

口を開けたままフォークを中途半端なところに持って言ってる俺はたぶん、さんが呆れたように呟いたことが表しているように凄く間抜けなんだと思う。

だから、取り敢えずそれを口に運んで、そして

「不安って、何が?」

とさっきのさんの言葉を聞き返した。

「ほら、わたし。あの子の父親と再婚するのに『母親面するつもりはない』って言っちゃったでしょ?」

「らしいですね。が笑いながら話してました」

「そうなんだ?うん、だからさ。今回の進路の話とか、何処まで踏み込んで話したらいいのか分からないのよ」

そう言って、コーヒーを一口飲んだ。

「俺からしてみたら、さんは似たもの母子だと思いますけどね」

俺の言葉にさんは瞠目して「そ、う?」とぎこちなく聞き返す。

「そうですよ。2人とも呆れるくらい他人を頼らない。自分で勝手に壁を作って、それの壊し方を忘れてあたふたしてて。今のが動けないならさんから動いてやってくださいよ。もう35なんだし」

「34!え、でも。どういう...」

「ここは思い切って母親面してみたらどうですか?」

「だから、それが怖いんだってば」

溜息交じりにさんがそう言い、軽く俺を睨む。

「運命共同体なんでしょう?が悩んでるんなら、さんも同じことを一緒に悩んでやったらいいじゃないですか」

「そっかな?」

「そうですよ。それは、今はさんにしか出来ませんよ。俺は次の大会の事でそれどころじゃないし、がおじさんを頼るとは思えないし。だったら、運命共同体のさんしかいないでしょう?」

そう言い終わって最後の一口を口に運んだ。

「ごちそうさまでした」と手を合わせてコーヒーを飲む。

の作ったワッフルの方が美味かったですね」

そう言うと

「でしょ?わたし殆ど外で焼き菓子は食べらんない」

こそっとさんがそう言った。


帰りの電車の中でさんが

「じゃあ、紳ちゃんの大会が終わるまでわたし頑張ってみようかな?」

と呟いた。

「その先は?」

期間限定なのか?

「その先は、紳ちゃんに任せる。どうせ、紳ちゃんもそのつもりでしょう?」

さんがイタズラっぽく笑ってそう言った。

答えることはせずに肩を竦ませただけに留めたら、

「頼りにしてるからね、紳一君」

肩をポンと叩かれた。

俺は答えずに笑うだけに留めておいた。









桜風
09.10.28


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