Sweet love 15




の目は先ほどと同じくらい大きく見開かれて俺を凝視していた。

何を考えているのか分からない、という表情で。

俺自身、そんな理由で学校を決めた事に呆れる部分も有るけど、俺が大学を決める条件はバスケ環境重視。

でも推薦に、スカウトに来ている学校はすべてそう言うのは揃っていたし、だったらどの学校でも同じということで。

どの学校でも同じならの近くにいたいと思ってしまったんだ。

親に東京に行くといったら

ちゃんをしっかり守るのよ」

とおおよそ大学進学の話をしているとは思えない言葉が返ってくる。


は何だか落ち着かなくなったらしく、部屋に置いていたバスケットボールを抱えた。

「住む場所は決まったのか?」

「まだ。これから探す」

の答えを聞いてすぐに浮かんだ言葉がそのまま口に出た。

「じゃあ、一緒に暮らすか?」

流石に言った後にこれは結構後悔してしまった。

はさっきから忙しなく視線を彷徨わせて「え」とか「あ、」とか「う」とか単語にもならない音を漏らしている。


「あ、ああ!そっか。そうだね。そのほうが家賃が安くて済むもんね。知らない人とルームシェアするよりも安全だしね」

自分の中でそう納得し始めたようで、少し落ち着きを取り戻しつつあった。

だが、

「そういう意味じゃないな。同居と言うよりも同棲という表現が近いんだが?」

俺のこの一言でまたパニックを起こし始めたらしい。

は自分の周りにボールを転がし始めた。くるくると。

「で、どうする?返事はそんなに急がないが、1月の半ばくらいから知り合いの不動産屋に部屋を探してもらう予定だからそれくらいまでに返事は欲しいな」

動揺しているにそのまま何でもないことのように話かけた。

「ダメ、だよ」

喉の奥から搾り出すように俯いたが呟く。

「何故?」

「だって、そんなの。お別れしちゃったらもう会えないんだよ」

言うと思った。

が他人と距離を取るのは別れた時の寂しさを知っているから。だから、必要以上に踏み込ませないし、踏み込む事も無い。

俺のことを『牧』と呼ぶのだって、それは距離を取るというささやかな抵抗。まだ母親がいたときは俺のことを「紳ちゃん」って呼んでたらしいし、俺もそれを何となく覚えている。

だから、俺は敢えて『』と名前で呼ぶ。

俺が近くにいるということをいつも当たり前のように思ってほしかった。から離れる事のない存在があることを、ちゃんと分かっていてほしかった。

「別れないし、離さない」

がゆっくり顔を上げる。今にも泣きそうなその表情は、昔から変わらない。凄く困ったときの顔だ。

の真正面に座り、視線を合わせる。

「俺は、を泣かさない。嘘も吐かない」

はっきりそう言う。

それは幼い頃から心に決めていたことで、からかうときもちゃんと引き際を見定めているつもりだし、悲しませる嘘は吐いたことは無い。まあ、宿題も出てないのに、宿題が出たとかそういう可愛い嘘は沢山吐いた事は有るけど。

「早速牧は嘘つきだ」

そう言いながら両手で顔を覆う。

「ああ、悪い。言い方を変えよう。を悲しませて泣かせる事はしないし、そんな嘘は吐かない」

「だったら、まだ嘘つきじゃない」

それでも顔を覆ったままのを抱き寄せた。

は俺の胸に顔をつけて背中へと腕を回してシャツを強く握る。

泣いているを落ち着かせるために背中をさする。ゆっくり、ゆっくりと。


「あたしがご飯を作る」

「ん?」

不意に胸の中のから声がして聞き返すが、

「牧は、ゴミ捨て。で、えーと。掃除は自分のテリトリーはそれぞれで、共用は当番制。押し売りは牧がちゃんと追い返して」

話が続いているようだ。

「ああ」

「あと、買い物も牧」

「多いな」

「じゃあ、アイロン掛けはあたしが丁寧にしてあげる」

「助かる。他には?」

つまりは、これは一緒に住むということはOKだということだよな?

「バスとトイレは別で、シンクも広めに。ガスコンロは2口でグリルつき。オーブンも欲しい」

「贅沢だな」

「オーブンがないとお菓子が作れないよ」

「それは困る。ぜひとも導入しよう」

俺の言葉には噴出す。さっきまで泣きべそかいていたのに、もう笑う。

「他には?」

もういい加減無いだろうと思いつつも促してみるとは俺の胸につけていた顔を上げて、

「牧はもっと優しくなればいいと思う」

と言ってにっこりと笑う。

今の俺は十分に優しいと思うんだが?

まあ、いつものの減らず口だろうから気にするつもりはないけど。

「じゃあ、は俺のことは名前で呼んだらいいと思う」

似たような言い方で返してみるとは一瞬言葉に詰まり、「やっぱりイジワルだ」と呟く。

に関して言えばこれ以上ないくらい優しいと思うがな?」

そう言って返すと

「ううん。紳一はイジワルだよ」

俯いてそう言う。耳を真っ赤にして。

一瞬危うく聞き逃しそうになったけど、ちゃんと俺の耳には届いていて。

が下を向いてて良かったと心から思った。


「今度からちゃんとそう呼べよ」

と耳元で囁けばはコクリと頷いた。

やっと、が心を開いてくれたと思えた。










桜風
09.11.4


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