Sweet love 16





何度もさんと話した結果、あたしは東京の短大に進むことにした。

前から顧問の先生に推薦の話はもらっていたのだ。

でも、こんなに真剣にさんと向き合った事は今まではなく、前回の受験のときは牧が海南大附属に行くと言うからあたしもそこを選んだだけで、それについてさんは何も言わなかったし、父に関して言えば、尚更あたしに口出しをしない。


昔のことがあるからあたしは未だに父が苦手で、なるべく話をしないようにしている。

時々思ってしまう。

この人があたしの大切なものを奪ったと。でも、その代わりと言っては何だけど。さんを連れてきたのも結果的にこの人で。それでも、やっぱり一緒にいるのは苦痛に思えるときもある。

昔の、母がいたときを思い出すから。

さんは、以前からそんなあたしの気持ちを察していたらしく、あたしが家を出て東京に行くのはあたしと父にとっては、もしかしたら良いことかもしれないと頷いていた。

無理なく距離が取れるから。

とにかく、あたしは大学進学を目指す事にした。

それは誰にも言わないでほしいと担任と先生、さんに父に口止めをお願いした。


牧には、冬の大会の予選の決勝戦を見に行って、優勝したその日に話した。

牧はあたしの受験に驚いたようだったけどすぐに気を取り直して学科を聞き、そしてあたしは合格したら教えると言って学校は教えないで過ごした。



その日は学校で授業を受けているときはいつも以上に集中できず、終業のチャイムが鳴ったと同時に家に向かって走った。

ポストを開けると、そこには無表情な封筒が1通。家に帰ってハサミで開けて紙切れ1枚を取り出した。

早鐘のように打つ心臓の音を聞きながら文字を追っていくと『合格』の2文字を見つけて思わずガッツポーズをした。

夕飯の仕度をしている間もチラチラと時計を見て時間を確認する。

そろそろ帰ってきているだろうと適当に予想をつけてコートを着て牧の家へと向かった。

インターホンを押せばいつものようにおばちゃんが出てきて快く中へ入れてくれる。

玄関に大きな靴を見つけて、牧が帰宅している事が分かる。

逸る気持ちを抑えて、いつもどおりに部屋のドアをノックして「牧」と声を掛けると、着替え中だったのか、セーターの袖に腕を通しながらドアを開けてくれた。

「どうした?」

部屋の中に入れてもらい、そしてあたしは誇らしげに牧にさっき受けとった合格通知を渡した。

不思議そうにそれを受け取った牧が、その通知文を黙読していてある場所で視線が止まる。

「家を出るのか?」

心底驚いたように牧が確認してきた。

「うん、家から通うの大変だしね。これからさんにみっちり家事を教えていかないとね」

そう言って笑ったけど、牧は笑わなかった。もう1度さっきの通知文に視線を落として文章を読み始めた。


牧は冬の選抜大会があって、今年のクリスマスはお祝いできなかった。

だから、試合が終わり、既に冬休みに入っていることもあって約束も取り付けずにケーキを作って牧の家に突撃した。

冬休みに入る前、偶然廊下で出会った神くんに牧は既に進学する大学を決めていると聞いて驚いたけど、それなら、尚更お邪魔しても迷惑にならないと勝手に思い込んでおいた。

いつものように牧の部屋に行き、「お疲れ様」と言ってさっき作ってきたブッシュドノエルを取り出した。

チョコレートが苦手ってのは知ってるけど、やっぱりクリスマスにはこれでしょう?

でも、牧は「何で、今更クリスマスなんだ?」と心底不思議そうにそう言った。

「え、だって。牧は今年クリスマス出来なかったでしょう?」

と聞けば、

「まあ、そうだな」

と曖昧な返事がある。

「そういえば、神くんから聞いたけど、牧も大学決めたんだって?」

と冬休み前に聞いた話を振ってみた。たしか選抜大会が終わるまで返事を待ってもらうことにしているって言ってなかっただろうか?

「ん?ああ、まあな」

またしても曖昧な返事。

「何処の大学かまでは、聞いてないのか?」

気を取り直して牧が聞いてくるけど、よく考えれば聞いてないなと思って頷いた。

「何処なの?」

と改めて聞く。次に牧が言った言葉にあたしは絶句した。

「東京だよ」


「何で?何で!?何で!!」

今までそんな話はしてなかったし、それこそ、そのまま海南大に進むんだと思っていた。

息が続く限り理由を問う言葉をエンドレスで口にしていたけど、結局その間牧は口を開かず、あたしが息継ぎをしている間に

が東京に行くから」

とあっさりと言う。

あたしはまたしても言葉を失った。


暫く牧の言葉が頭を駆け巡る。

何度考えてもその言葉は聞き間違いではなさそうで、それでは、何故そんなことを言うのだろうと悩む。

側にある適当なものを触って抱きかかえた。それはいつも牧が触っているバスケットボール。少し大きめのそれは、硬くて触っていても全然落ち着かない。

「住む場所は決まったのか?」

あたしの悩みなどこれっぽっちも想像できていないようで、牧は普通に会話を続ける。

「まだ。これから探す」

頭を整理しながらも、律儀にその問に答えれば

「じゃあ、一緒に暮らすか?」

と牧は爆弾発言を口にした。

更にあたしの頭では処理できない言葉が耳に届き、もう言葉すら発せない状況に陥った。










桜風
09.11.4


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